バカのあつまり踊らにゃ損2
「――で、アンタたちは顔を真っ黒とパンダになって、見事に帰還と、ク、ハ……!」
「うるせえ張っ倒すぞ! このアマ!」
「馬鹿言うな、お前それが出来ると思ってんのか。ていうか、俺達でどうにかなると思ってんのか?」
池へと飛び込んで守護者から逃げ延びた。そこまでは良かった。
そのまま酒場へと来たのが良くなかった。ベッテンはともかく、ウェルフは慣れてはいない。
ベッテンたちが利用している酒場――ゼン(禅)に来たときになって、もうすでに噂になっていることを覚えておくべきだった。
あのあと、遺跡の池まで追ってきた守護者をなんとか撒いて、安全地帯――遺跡の外にある、墓荒したちのの拠点に戻ったのが悪かった。
顔面が泥だらけもままで、ウェルフにいたっては、中途半端に泥が取れていたせいで、パンダのようになってしまった。
知り合いから指摘され、急いで洗ってきたはいいが、情報通やお祭り好きの墓荒し共に言いふらされ、すっかり今では酒場の話題をかっさらっている。
それに対して、ウェルフはまだ真面目に反応しているが、ベッテンはもう慣れたものだった。
娯楽といえば、カードゲームやら酒やら未知の食事やらと、荒廃した箇所でなければそれなりのものは楽しめる。
それでも、墓荒しという生き物は宝や未知への欲求だけでなく、こうした噂やアホな笑い話も大好きな連中だと実感させられた。
「だがよ、ベッテン。こいつら俺たちを」
「いつものことだ。ほっとけ。デュバル、そんなことを話にきたんじゃねえんだ俺たちは」
「へぇ、何を話に来たんすかねえ。面白ければ、下着ぐらいくれてやるっすよ、うちの連中の」
あいにくと、ソッチは興味ないし、お前さんの下着の色も遺跡内にいるときの外の天気ぐらいどうでもいいと返す。
そもそも、目の前にいるどこか気だるそうでありながら、油断ならぬ目つきをしている女が、ベッテンは苦手だった。
さんざん女で痛い目を見てきたせいか、もはや女性に対して拭えない苦手意識を持っているのは間違いない。
しかし、この女は別の意味で慣れない。
「……お前さんたちさ。A級指定の遺跡を見つけたってのは本当かい?」
その言葉に、デュバルが一瞬だけ、飢えた狼のように目を見開くが、すぐに閉じられた。
「どこでそれを聞いたんですかい?」
「情報通のハゲネズミから買った」
あの禿げネズミめと、デュバルが舌打ちをしながら言葉を残す。
今の世の中では、遺跡の情報を売り買いして生計を立てているものも当然のようにいた。
謎の遺跡の出現と機兵の登場により、世界のバランスは一気に崩壊した。
軍隊は無限に生成される機兵の群れと、遺跡自体の防衛機構に壊滅させられ、人々の生存圏は急激に縮小された。
街は元々いた住民たちの手で防衛されたか、崩壊し、散り散りになった軍隊が支配するようになるなど、それぞれが自立する道を辿った。
政府が崩壊してしまったあとの軍人は、遺跡に潜り込む者や、自治のための組織を作り上げるものと、それぞれ分かれた。
ハゲネズミに対する愚痴をずっと言い続けている女――クロード・デュバルも軍人崩れの1人だ。
突如出現した遺跡に潜り込み、挑んではそこで発見される、未知なるアイテム・アーティファクトを探す墓荒しの仲間入りをした。
だが、この女は別にロマンや人々のためにというような考えで墓荒しになったわけではない。
あくまでもなし崩しに墓荒しになっただけだ。率いていた部下とともに、そのまま墓荒しへとなった。
ちゃらんぽらんとした印象を初見は受けるが、実際には相当なキワモノだ。
頬についた傷と、人を小馬鹿にしたような目つき、適当に整えられた髪と、女性としての魅力はどうにも残念だが、それで甘く見た者がどうなったか、ベッテンはよく知っていた。
「あんの野郎、頭がツルツルなように股間もツルツルにしてやってもいいなぁ。おっさん怒っちまいますよ」
「情報通としての性だからなぁ。そればっかりは許してやんなよ。で、その反応からして、見つけたんだ」
「ええ、見つけましたよ。で、どこまで聞いてるんですかい?」
じっくりと商品を品定めするかのような視線が、ベッテンに注がれているのがわかる。
少しでも組む価値がないと分かれば、使い潰すというような顔だ。
ウェルフは相変わらず、すぐにでも唸りだしそうな犬の表情で待機している。
相棒としてはこれほど信頼できる男はいないが、いかんせん素直すぎるのが欠点だなと思いつつも、デュバルの疑問に関して応えるべく口を開く。
「なーんにも聞いてない。ぶっちゃけた話、A級の遺跡を見つけて、そこの攻略を一旦諦めたってぐらいしか聞いてない」
「それだけ?」
「それだけだよ」
本当かと疑うような目つきで見られるが、買ったのは本当にそれだけだ。
「それで、どういう用事ですかね?」
「いや、協力してやってもいいって話をね」
「……勝手に決めないで欲しいんですが、そもそもうちらがアンタたちを――」
「――頼るだろ?」
先手を打って言葉を封じる。これは確信だ。
クロード・デュバルが率いる墓荒しのチーム「サンドリヨン」は軍人崩れの部隊であり、練度も高い。対人戦闘であれば、アーティファクト所持者以外であれば、大体は始末できるだろう。
機兵相手にも種類に応じて、その都度必要な装備とメンバーを集い攻略するあたりから、B級クラスであれば安定して調査ができるが故に、遺跡探索を要求する金持ちなどからは受けがいい。
しかし、それはあくまでも、金持ちなどの依頼をする側からは受けがいいということであり、墓荒し側からみれば別だ。
「B級遺跡を二人で完全攻略して、かつA級遺跡にも潜れて、S級も入り口まではいったことがある。こんな良物件でおたくらと仲が悪くないなんて俺たちぐらいだろ?」
「痛いところをつくおっさんだなぁ。そーいう重箱の隅をつつくような行為、うちのような令嬢から嫌われますぜ」
苦虫を潰したような顔のデュバルを見て笑うウェルフの頭を張っ倒してから向き直る。
「令嬢とはまた……山賊の娘のがまだウけるジョークだな?」
「簡単にあしらわれると、私拗ねちゃいます。 うげー……あー駄目だ、自分でも言ってても気持ち悪い」
「そりゃそうだ。綺麗なお嬢さんが言うならまだしも、おっさんに片足突っ込んでるのが言ってもなぁ」
お互いにそう述べたあと、笑い合う。
ウェルフが何が面白いのかさっぱりだという顔をしているが、それは無視しておく。
「嫌われもんのおたくらと、付き合えるのは俺たちだけ、というかまぁ俺だけだろう? その点で協力できると思うんだよ、これが。報酬に関しては、そっちに譲歩してもいいぐらいだからよ」
思わず笑みを漏らしながら、ベッテンは誘いに出た。
こちらとしてもメリットはある話なのだ。
墓荒しを貶めているとすら言われる『サンドリヨン』と組むのも、それがあるためだ。
――全ては、あの為に。