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幼なじみと二重まぶた

「やっぱり、イケメンの三大条件のひとつは二重まぶただよね!」

 昼休み、クラスの中でちょっとおませな女子グループが黄色い声で盛り上がっていた。その他のしげな雰囲気に引き込まれるようにミウが駆け寄っていく。輪の中には男子アイドルグループの紹介記事があるらしく、ミウも声を揃えて「○○くん、カッコイイよね」なんて昂揚していた。

 確かに、調べてみると人気のあるイケメンに限って目鼻立ちがくっきりしていて、二重まぶただ。二重まぶたには、光が虫を集めるように女子を集める効果があるらしい。いや、女子と虫を同一視してはいけない。僕は雑誌に群れる女子を横目に反省した。光になれない男子の、ただのヒガミである。


 学校から帰った僕は、こっそりと母親の化粧用具を取り出した。何かをくすねようというわけではない。口の周りを油性マジックで塗りつぶして、ドロボウの真似事をしたのは他でもなく、ビューラーと呼ばれる奇跡のマジックアイテムを一瞬借りようとしたのである。ロード・オブ・ザ・リングでホビットの持つ指輪に見せられたゴーラムと同じようなものである。

「ふふふ、これが僕にとっての指輪かな?」

 僕はひとつひとつ取り出しては、首を傾げた。

 箱の中身を全部広げ終わるころには、ゴーラムのモノマネにも飽きて、気が抜けてしまったようにへたり込んでいた。求めているアイテムを、母親は所持していない! 僕の遺伝的一重まぶたの一世代前の継承者は、自分のまぶたに何の疑問も持たず、40年近くの人生を送ってきているのだ!

「余計なお世話!」

 突然頭を強打され、僕は悲鳴を上げてからだを縮こませた。

「考えてることが口に出てるよ!」

 見上げると、鬼の角を生やした母親が仁王立ちしていた。その怒り心頭の目たるや、四重まぶたにしてマイルドにしてあげないと直視できないほどの半狂乱ぶりである。僕は二度めのゲンコツを食らった。考えていることが口から漏れていたらしい。


 翌日、僕の顔を見たミウは腹を抱えて笑い転げた。

「どうしたのその顔、昨日まで普通だったよね? ね? ミステリーサークルみたいに変になってるよ、あっちゃんの顔」

「夜、ユーフォーにやられたんだ」

「うそうそ、何したのそれ。学校で笑いものになっちゃうね」

 悲惨な未来を、ミウは面白可笑しそうに言った。

 ミウが指差す僕の眉毛は、眉毛の真ん中が綺麗に消失していた。ミステリーサークルだったら、草木が横に倒れてしまっているところではあるが、僕の毛は一本残らず失われてしまったのである。それは、二重まぶた計画の尊い犠牲だ。一重まぶたのイタイケな男子が、努力の末、やむを得ず負ってしまったリスクである。

 人の肌は、使えば使うほど形状記憶合金のようにその形を覚えていく。大きく笑顔を作る人の広角が左右に広がると鋭利な角度になるのと同じだ。

 僕は寝る前に恣意的に二重を作り、セロテープで固定した。目を閉じれば二重まぶたなど消えてしまうのに、おろかなことだ。そしてそのセロテープの端は、僕の眉毛に重なり、一晩明けるころには眉毛と粘着性が絡み合いもつれ合い、さも熱い夜を過ごしたかのようにはなればなれにできない――織姫と彦星のようにふたつは愛し合ってしまったのだ。そして無理やりふたりを引き離そうとした時、僕の愛する眉毛はセロテープの元へと去っていった。

 眉毛の上にセロテープを張っておけば、はがしやすいと思ったぼくが馬鹿だった!

 不倫からの寝取られ、そして孤独、笑いもの。

「一重でも、二重でも、あっちゃんのやってること面白いから、多分大丈夫だよ」

 ひと通り聞き終えたミウは、ざっくりとお墨付きをくれた。

「大丈夫、大丈夫!」

 何が大丈夫なのかまったく伝わってこない。ぼくは霧の中を歩いているような気分で、ミウの背中を見送った。

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