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幼なじみとあこがれのアイドル

 どうしてかわからないけど、僕は、ミウの部屋に男性アイドルのポートフォリオが張られていることを知っていた。たぶん、昔遊びに行った時にでも見たのだと思う。それに、教室でそのアイドルの話を楽しそうにしているのを見ていたから、記憶に刷り込まれてしまったのだろう。

 女の子なんて、誰だって顔が良い奴に惚れるんだ。ミウも同じだったと、幻想を抱いていた僕の精神は脆くも砕け散った。いや、大げさな話である。実際、ミウは昔からミーハーなところがあった。ドラマや、芸能人にも詳しいし、地味な服でも最新のトレンドを取り入れて、おしゃれに着こなしている。


 テレビを見るとミウが好きなアイドルが歌って踊っていた。

「あんた何してんの?」

 突然、声をかけられて、ぼくはあまりの恥ずかしさに顔が赤面するのを感じた。

「母さん! 勝手に部屋開けるなって言ってるだろ!」

 テレビの前で踊っているところを見られたのだ。

 しかも、モノマネにもなっていない、テキトーダンス。かっこ良く決めているようで、振りもなにもない、赤ん坊が手足をばたつかせるのとそう大差ない舞いだった。


 顔の造詣が違うから、どれだけダンスを真似たり、髪の毛を伸ばしたりしても、同じくらいかっこよくなれるわけじゃない。中学2年を境に悟ったのは、懐かしい話だ。

 僕にとっては、ベッドや机に占領された4畳半の部屋がダンスステージである。観客は何度入るなと言っても、うっかりドアを開けてしまう母親ただ一人。似非アイドルのオンリーステージは、総天然ナルシシズムに染め上げられて、他人には一言足りとも話せないほどの、羞恥心まみれになっていた。もしそれが学校のみんなにバレたら、不登校確定である。


「あっくん、何してるの?」

「母さん!?」

 振り返って仰天した。母親の声ではなかったのだ。

 そこにいたのは、アイドルのうちわを仰ぎながら、目をまんまるに見開いているミウだった。

 僕は、母親に見られた時以上の思考停止に陥った。頭の中が真っ白に飛ぶという経験をしたのはその時が初だ。白いスクリーンには、今まさに走馬灯が映し出される手前まで言っている。眉間から映写機で投影するためのスイッチを押す手前まで行っただろう。

 走馬灯が押されなかったのは、まさに不慮の事故だ。

 僕は、上げていた足を勢いよくおろそうとして、反対の足に絡ませ、空中に投げ出されるようにスッテンコロリンしていたのだ。もし打ち所が悪ければ、走馬灯のスイッチが別の意味で入っていたかもしれない。

 意識が遠のきながらも、ミウが駆け寄ってくるのが見えた。

 これで、ぼくがみっともないダンスを踊っていたことを忘れてくれれば、渡りに船だ。

 僕は、心のなかで神に祈った。

 ミウからぼくのダンスを踊っていた記憶を消してくれ、と。



 目を覚ますとソファーに横になっていた。

「大丈夫、私誰かわかる?」

 顔を横に向けると、心配そうに眉根を曲げていた美人さんの顔が見えた。可愛い子は、どんな表情をしても魅力がかけることはないと、痛感する表情だ。

「ミウ」

「アタリ、よかった。救急車呼ぼうかと思ったよ。びっくりしちゃた」

「ごめん心配かけて」

 ミウは、アイドルのうちわを仰ぎながら、ホッとしたように一息ついた。そして、白い歯を

見せてこういった。

「あっちゃんのダンス、また見せてね」


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