moon shine birthday
飽きもせず空を見上げていると、飽きれ半分感心半分の声をかけられた。
「昔から月が好きだよね」
「うん。特に丸いやつがいい」
冴えざえとしてどこか冷たいナイフのような三日月よりも、よくうさぎに例えられるがとてもそうは見えない曖昧な陰影があり、光が雫となって滴りそうなぽってりとした満月が好みだ。
するとアキは鞄からアルミ板を取りだし、鋏でじょきじょきと切り出した。
何でそんな物を持っているのかと、尋ねたら、科学の実験で使うために買ったんだと答えて、アキはアルミをベコベコ言わせながら鋏を進ませる。切っているうちに、平らだったアルミの板は歪みながらも、瞬く間にまあるく切り抜かれた。
仕上げに小さな穴を開けカーテンレールにぶら下げて、「二人占めの満月だ」とまんざらでもない顔で、賛同の言葉を求められた。
窓の外から降り注ぐ月光を反射して、即席の歪な月はまるで自身が発光しているかのように淡く輝き、なるほど、確かに月だ。
乙に入って眺めていると、今度は鞄の中からソーダ水の瓶が出てきた。手渡されたソーダ水の瓶は全く冷えていなかった。好みを言うなら、それはキンと冷えてなければ、ソーダ水の味は完璧じゃないと思う。即席の月にぬるいソーダ水。いつもなら顔をしかめるところだが、今日は特別な日だから、大目に見よう。
乾杯と、二人で瓶をぶつけて一口飲む。口の中で炭酸が弾けては消えていく感触に、自然と顔がほころぶ。内心ケチをつけても、好きなものには負けてしまう。
「せっかくだら、景気よくいかないとね」
言うなりアキは、どこからだしたのか、ラムネを一粒摘まんでソーダ水の瓶の口に落とした。
ラムネは微かな音をたてながら泡の尾を引いて瓶底に着いた。途端に瓶の中を持つ指に泡が弾ける振動が伝わってくる。程なく
、瓶から泡が勢いよく溢れだした。月の光が溶けて黄白色に染まった泡沫が、次々と生まれては消えていく。
わぁ、と歓声をあげながら、手が濡れるのもかまわずソーダ水を飲み干す。
同じようにはしゃぐアキと、不意に目が合い、完爾と笑まれた。
「誕生日おめでとう」
晴れやかに告げられた祝福の言葉に、目を見張る。
「知っていたんだ?」
「当たり前」
事も無げに肯定され、なんだか無性に悔しくなった。