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4-2

「やっぱり、カノン様は未来から来たってことなんですよね……?」

 アキは早速、昼間から俺に浴びせられていた質問を、カノンに色々とぶつけている。昨日起きた――正確には3ヶ月前の入学式のことは、アキには言うに言えず、何となくぼかしてしか伝えていなかった。


「隼人、僕が今まで調べてきたこと、ほんの一部だけど持ってきたよ。僕のHPでも見れるけど」

 翔はそう言って俺に向き直って軽く咳払いをすると、カバンを開けた。中には新聞の切り抜きやらCDやら……ノーパソも出てきた。

 とりあえず俺は翔の解説を聞きながら一つ一つ手にとるが、全くといっていいほど頭に入ってこない。どうやらコイツはオカルトやSFの話題になると、話題に事欠かないらしい。とりあえず俺が分かった範囲で分類して要約すると、


・ 「関連性がありそうなものを調べておいた」宇宙人の膨大な資料(国内外問わず)

・ 「僕の先祖ってひょっとして宇宙人じゃないか?とか思っちゃったよ」怪しげな歴史的文献

・ 「僕が入学式の時に体育館倉庫で聞いた」図書館で借りっぱなしのカノンのパッヘルベルのCD

・ 「タイムマシンの勉強におすすめだよ」SF小説

・ 「最近掲示板で熱いネタは、渋谷で未来から来たと触れまわる消えた少女って話だよ」都市伝説系のオカルト資料

・ 「これが未来の脅威さ」未来怪獣の動画


「――翔、また今度な」

「え~!!せっかく調べたのに……!ねえ、カノンちゃん達も見てよ」


「いくつかは説明できる」

「え」

 驚いたのは俺と翔だった。カノンはノーパソをまさぐって、都市伝説の項目を見て話した。

「消えた少女は私だろうな。先月タイムダイブして私はまだこの時代でどう適応していいのか分からなかったから、色々とあってな」

 そう言えば、カノンと出会ったばかりの頃に、チーマーみたいなアティスの男に襲われたことを思い出した。カノン、色々ってお前一体何をしたんだ。


 そんな俺の考えをスルーするかのごとく、カノンは続けてCDを再生した。

「タイムダイブの時は、空間が歪んでシンセサイザーのような電子音が出るんだ。翔が近くにいたからそれを聞いたんだろうな。それがたまたまカノンのパッヘルベルに近い音がする――というだけだが」

「やっぱり!ほらね、確かに聞いたんだよ。僕、お手柄~☆」

 お手柄って言うけど、実際はただの現象であまり関係ないじゃないか、と思う。とそこで、俺は彼女の名前を改めて思い出す。

「カノンの名前って――関係有るのか?」

「ああ。それで名がついた。私は初め2358年にタイムダイブして、その時に音を聞いた人間から名前を付けられた。今回の話とは関係ないけどな……」

「ていうかそれって、カノンは2358年から来たってことになるけど」

「そうだ」


 2358年。あっさりと言ったが24世紀だぞ……300年以上も離れた遠い未来から来た?少しも想像できなかった。カノンからしたら俺達は1700年代位の人ってことになる。歴史が違いすぎやしないだろうか。

「未来の事って色々と聞いてもいいのか?最近の歴史や災害とかがどうなるかとかさ」

「いや……私が話したところで、その通りになるかどうかは疑問な状況だ」

「どういうことだ?」

「安易に未来の事柄を教えても意味が無いんだ。今日も渋谷で調べたんだが……未来の人が知っている歴史と若干のズレが生じているんだ。ここは未来の私がいた世界じゃない……みたいなんだ」


「ジョン・タイターみたいだね~☆」

 翔がわからない単語を言い出す。ノーパソでウィキを検索して見せてくれた。

「2000年初頭イギリスに現れた、2036年の未来から来たと言われている男だよ。彼も次元の違う未来、つまり世界線が違う未来から来たらしいよ。彼も未来について語っているけども、外れている場所がある」

 ジョンタイターなる未来人の登場に、俺は少し耳を疑ったが、カノンは理論は概ね符合しているなと言いながら、大まじめに見ている。

「私の知っている中では、この未来の装置の名前も、タイターという人間も聞いたことがないな……。私のいた未来では2358年に初めて、タイムダイブの手法が確立したんだ。だからこの時代にはタイムマシンは存在していないことになってる。一応私が、観測史上で初めてのタイムダイブをした人間なんだ」

「カノンが聞いたことがないってことは、つまりカノンと違う次元で生きている人間か、今後さらに未来で起こる出来事か、――もしくは狂言……てことか?」

 昨日までの俺なら、正直迷わず最後の案で落ち着いていたに違いない。

「狂言!隼人は夢がないなあ~、空気読まないと出世しないよ?」

 お前に言われる筋合いはない。


「そうだな……あと、可能性はもう一つある。トレーサーの能力を持った人間が行った、という場合だ」

 そう言ってカノンは俺の方を見つめた。俺のこと?

「だが結局その話は、真偽はともかくとして時期的にも、私達のダイブから計測した数値的にも、今回のタイムダイブとは関連性は薄いから、あまり気にしなくていいと思う」


「なあ、もし――今回カノンが次元が別の世界に迷い込んだとしたなら、どういうことになるんだ?いくらカノンが今後、俺達に未来を説明したところで意味が無いってことか?今の世界では、別の世界の話は全くあてにならないただの予測ってことになるけど」

「そうだな――元々宇宙というものは、可能性の論議ならできるが、確率論でしか説明がつかない断定のできない世界だ。そこへ通常予測されない別の次元から、現れるはずのない私が来たことで、未来に何らかの変化が起きる可能性が高くなってしまった」

 てことは、未来で起きるだろう事柄を聞いたとしても、可能性の一つってだけになるのか――少し無意味で、何だか勿体無いような気がした。


「宇宙飛行士みたいですね。カノン様……前人未到の偉業をしたんですね……」

 アキはうっとりとしながらカノンを見つめている。

「……私のいた未来では、長寿が当たり前になっていて、あまり危険を犯したがる人間はいなかったし、私が経験者だったこともあって、自ら名乗りでたんだ」

 カノンはそう言って少し自分を嘲るかのように微笑む。とてつもない未来の話――俺にはにわかには信じがたい事で、納得には程遠い内容ではあったが、ある程度辻褄は合っていたので理解はできた。


 オカルト資料を眺めていた俺達だったが、カノンは以前にタイムマシンが着ていたことを表す文献などを見ていた。

「あと、これも興味深い……そうはちぼん……伝説か」

 こりゃまた一気に随分古い文献に手を出したものだ。昔話の類の言葉を大まじめに話すカノンをみて、少しおかしかった。

「それは、昔、石川県に偶然UFOのようなものが飛んでいたっていう話だよ。カノンちゃんが落ちた辺りと近いから何か関係があるのかなと思ってさ」

「おいおい、これが関係有るってホンキで思ってるのか?」

 俺は翔の性格もあってか、少し疑わしかった。ネタだろ?まず宇宙人は関係ないだろと思ったし、それにこんなお伽話みたいな昔話、真実かどうか……。

「隼人の祖先かもしれない」

 皆がカノンの発言に仰天する。俺が……、宇宙人!?少し気が遠くなる。

「それは、全くの推測だがな。タイムダイブの移動中は、時空間の流れみたいなものがあって、着地点はだいたい決まっているんだ。私以外の人間で、現時点でタイムダイブの手法で移動した可能性があるのは、隼人の血族のトレーサーだけだし」


 再び俺に注目が集まる。

「隼人くん、宇宙人だったんですか?全く私、知りませんでした」

 アキが何か新種の動物を発見したような驚きの眼差しを持って俺を見つめながら、俺の腕を掴んで揺さぶった。その奥で翔が息を殺して笑っている……何故言い出したお前が笑うんだ!計ったな――!!

「やめろよ、タイムダイブでも重たいネタなのに、俺が宇宙人?馬鹿馬鹿しい。カノンも推測って言ってるだろ」

 俺からしたら、どっちかと言ったらアキと翔の方が宇宙人な訳だが!?……と言おうとしてやめた。落ち着け隼人、慌てて水をがぶ飲みする。


「それにしても翔、すごい数の資料だな」

 俺は話題を変えようと、机の上に置かれたブツを改めて見て呟いた。翔は少し明るかった表情を変えた。

「……父さんが渋谷で働いててさ……アティスで消えちゃったんだよね。だから人事とは思えなくて」

 そうだったのか……、俺は全く知らなかった。これは冗談では無さそうだったし、確かに情報収集と言う面では、彼の真摯な態度もうすうすは感じていた。俺は自分自身の無知を恥じる。

「ごめん、悪かったな」

「あ、そういうの止めてよね。俺はきっと父さんは戻ってくるって信じてるから☆」

 翔はまたいつもの屈託のない笑顔に戻る。


「残念だが、翔の父親と、隼人の症状は違……」

 カノンが言いかけたので、俺はやめろ、と眼で合図する。カノンははっとしたように口を閉じた。

「そうだな、まだ……この未来では起きてない……みたいだから、希望は捨ててはいけないのかも、しれない」

 随分と歯切れの悪いコメントを残して、カノンは静かになった。


「へえ~~。俺だったら過去にいけるなら、断然競馬とかやるぜ……!、あー、やっぱ株がいいわ。絶対儲かるだろ?」


 マサキさんが少ししんみりした俺達の卓に食べ物を運びながら、場違いな冗談を交じえてそう言った。隣の部屋を掃除したり、何かとしきりに顔を出す辺り……いつもと違い、どうやら俺達の様子が気になっているようだった。いつもと違うのは、俺達も同様だった。俺達が未来がどーのこーのと言ってれば、否が応でも気にはなるかな……。

「はは、良いアイディアだね。合法だし」

「過去は個人の目的で変えてはならない……これは、未来の人が決めたタイムダイブの最も重要な掟だ」


 俺とマサキさんがはしゃぐ中、カノンが小さく、それでいてハッキリとマサキさんを見据えながら言う。真顔で笑みはなかった。軽いショックだった……そんな残念なルールがあるのか……あわよくば俺のトレーサーの能力で自由に行き来してあんなコトやこんなコト、好きな事をしようと夢見ていたが、どうやらそういうものではないらしい。

「ああ、素敵です。キチンと自らの意志を伝えるその姿――憧れです」

 アキがうっとりとしながら感想を述べている。ああ、なるほどな、何となくアキが敬拝する理由が分かった気がした。

「なんとまあ、随分なルールがあるんだな。好きなように過去を変えられないとはツマランぜ。もはや俺の出番はこれまでか……あばよ隼人、未来研究会か?邪魔したなッ!」

 残念そうに、俺達の輪から外れて他の接客に行ってしまった。やれやれ、これでまともに話せる。 


「で、話はなんだっ――」

 俺がさっきしていた宇宙人だとかいう話を思い出し、思わず口を閉じる。このままの展開はまずいので、素早く思考を巡らす。カノンは確か以前にも俺がトレーサーという人間だと言っていた。

「ああ、そうだ。俺が万に一つでもトレーサーという能力を持ってるんだとしたら、その能力は未来にいけるってことか?」

 カノンは揚げたてのサーターアンダギーを熱そうに頬張っている。アキはそれを見ながら素早くカノン様は、食欲旺盛……とメモっていた。

「未来でもあまり解明されていないけど、過去に人を辿っていける人間、ということらしい。未来ではやっぱり1名が該当していて、その人間は隼人の子孫にあたるんだ」

 まるで人の記憶を記録しているような能力だと思った。自分では特に記憶力はいい方ではないと思うけど、確かに昨日のダイブで、今あたかも体験しているかのような映像が流れた事を思い出す。


「俺の子孫とやらがタイムダイブすればよかったんじゃないの。そのほうが効率良くない?」

「300年という未知の大規模なタイムダイブは問題も多かったんだ。一人しかいない貴重な能力を、実験のためになくせないっていうところだと思う。あと、計測結果からトレーサーは本人起因のタイムダイブをしやすいということが挙げられた。つまり、他人の意図した目的地に着くよりは、トレーサーの個人的な思惑でタイムダイブしやすいってことだ。隼人とタイムダイブしたのが、私にとっては複数でタイムダイブした初めての試みだったが、やっぱり隼人起因のタイムダイブだったし、結果的に予測は証明された」

 俺の子孫、大事にされている割に、俺結構危ないことしてないか?てか、俺危なくなったら、子孫もヤバくないか。

「カノンはトレーサー能力についてなにか知ってるの?」

「いや、自分が知ってることは以上だ。むしろ、隼人が代々教わって、知っているものかと思っていた」

「全く知らないんだけど」


 カノンの動きが止まった。サーターアンダギーの皿は空になっていた。トレーサーの話が真実だとしたら、俺の両親のどちらかがトレーサーってことになる。

「人と違うなんて羨ましいねー。隼人、僕もダイブしたいけど、何かコツでもあるの?」

「そう言われても、俺自身ダイブのやり方よく分からないんだよね」

 俺の個人的な思惑通りという割には、俺の気持ちではないところでダイブしている現状。


 会話に煮詰まった時だった。突然のメールの振動音。誰だろう――俺はスマホを探る。

 相手の名前は……なかった。これはカノンから来た時のメールと同じだ。宛名が文字化けしている。



-----------------------------------------------------------------------------------------------

Date: Wed, 5 July 2023 16:53:23 +0000

From: "$Bk|(B?$Bk}@(B?$Bea6e#iea(B?" <$Bk|(B?$Bk}@(B?$Bea6e#iea(B?>

To: "有野 隼人" <haya_A1999@●●●●.ne.jp>

Subject:X


本文:トレーサーのXという者だ

訳あって人前には現れることができない

一方的で悪いが、私を探さないで欲しい


ダイブのコツを書かせてもらう


トレーサーは一子相伝のようなものだ

かと言って、君の両親に訪ねても無駄だ

残念なことに、歴代トレーサーは発動していない人間の方が多いからだ


代々伝わっている能力ではあるけども、個人毎に発動条件が違う

発動というのはタイムリープすることだ

○○+ショックで発動する

○○は感情。怒り、悲しみ、etc……

ショックは肉体にエネルギーを与える状態だ


トレーサー以外の人間がダイブするには膨大なエネルギーを要するが

トレーサーの発動は一度発動したことがあれば、以前より軽いショックでいい

もう経験済みなはずだ


リープはトレーサーだけの能力だ

熟練すれば、補助的装置の手助けがなくてもダイブ出来ると言われている

複数人を巻き込むことも可能だ

その辺りは個人の能力の影響の方が大きいがな


早く発動しろ


-----------------------------------------------------------------------------------------------


 何だか挑発するかのようなメールだ。喧嘩売ってるのか?

「――おいこのメール、カノンがやったのか?送信元がカノンが前にくれたメールと同じようなことになってるけど」

 俺はスマホの画面をそのままカノンに見せる。カノンは首を横に振る。

「?誰だこれは」

「俺が聞きたいよ。トレーサーXって誰だよ」


 カノンは腕組みしながら眉をしかめ、しきりに首を捻っている。

「これが未来人で、本当の話なら現代の個人に介入していることになるから、良くないと思うのだが……ありがたいヒントかしれない。ただ、目的が分からない」

「俺にとってはメリットがあるけど、この人のメリットが分からないってことか。いや――待てよ。アティスで俺がいなくなるとしたら困る人物……それは子孫じゃないか?」

「そうか、隼人の子孫か。隼人自体が消えたら、自分達も消えてしまう可能性が高いからな。装置がないのにダイブできるのかは謎だが……」

 それにしては、乱暴というか、好意的に解釈するには偉そうというか……。


 カノンは目を大きく開け、頷いている。俺の推理はあながち的外れではないようだ。

「あまり表立って修正できないってことなのかな。カノンの言う、個人の目的に該当するし」

「うーん。過去が変わったことで喪失する危険が生じた場合は、特に違反にはならない。現に私達は隼人を修正しようとしてる」

「じゃあなんだろ。他にまずいことでもあるのかな」

「分からない。ただ、隼人の子孫だった場合、信頼性は上がるし、当面の目標としては、ダイブの方法を探すことになるのは間違いない」

「じゃあ、今のところはこのメールの通りするしかないってこと?」

 メール通りといっても、感情を伴ったショックってどうやるんだろう。俺、ビルから落ちるとき、何考えてたか記憶が無いぞ。それにこのメールに悪意のある可能性も否定出来ない。俺の能力を何かに利用されるかもしれないのだ。ただ他に方法がないということだけ。

「まあ、――そう言うことになる」


 寝起きのトラ模様の大きな猫――確か、プル太と言ったか――がヨタヨタと歩み寄ってきた。いつもはずっと俺達を見下ろしているのに、珍しいこともあるもんだ。だが、カノンはそっけない。猫もそっけない。こんな二者が揃ったところで、平行線になりそうなものだけど、大抵の猫は犬と違って自ら近づいてくる方が好きだったりする。

 アキや翔は猫に近づこうと必死になって追い掛け回していたが、結局触らせてもらえない。俺も以前、色々と猫じゃらしとかを購入して釣ってみたものの、なかなか近づいて触らせてまでは貰えなかった。猫カフェなのに触れないカフェって一体……。

 そんな猫がカノンの膝に乗った。珍しく戸惑うカノン。

「うわッ……!!!隼人、どうすればいいんだ」

「どうすればって、撫でてあげたら?」

「こ、こうか……ッ!?」

 ものすごくぎこちない手でカノンが猫を撫でた。猫は気にする様子もなく、毛づくろいをしている。でっかい猫……コイツは、……オスだ。

「か、かわいい~。写真撮りますね!」

 アキはどっちの写真を取るつもりなのだろう、両方ってところか……。俺は腑に落ちない……俺が結構遊んでやっていたのに何もしていないカノンが気に入っただと……このエロ猫め。コイツはな、サーターアンダギーを一人で全部食うような奴だぞ?俺は嫌だ、人間てのはな、もっと公平で、優しく有るべきだと思う。本当にそれなのにいいのか?あ……!?俺はプル太を睨んだが、相手はどうだと言わんばかりにカノンの膝にどっしりと構えている。


 俺の心はつゆ知らず、プル太は静かにカノンの膝で眠りに落ちる。カノンはしばらく固まっていたが、ようやく口を開いた。

「隼人がタイムダイブが出来るようになったら、喪失因子を探しに行ける。隼人のタイムリープの位置は、自分が危険な場合には自分を守るようなタイムリープが優先されるはずだ。何度かダイブをする度に条件は限られてきて、喪失因子のヒントが増えるはず。そうしてようやく、この次元での私の捜索するポイントも見えてくる……はずだ」

「ポイント?」

「タイムダイブを続けていると数値から、ダイブ痕が割り出せるんだけど、収束しやすい位置――つまりタイムダイブの通り道が分かる。タイムダイブに慣れてくれば、どの場所が通路か分かるだろう。そのタイムダイブの出口の穴を辿れば、この次元での必要なワープ位置が特定できると思う」

「殆どが予測論みたいだけど」

「そうだ。私がここに来る前は、そもそもトレーサーによるこんなタイムダイブは想定外だったしな」

 やってみないことには分からない、そんな抽象的なものにかけるしかないのか。その一方で、俺はやらなきゃいけないことの外殻がやっと、見えてきた感じがした。


「良かったですね、隼人くん。これでアティスが治れば、隼人くんは――」

「ああ……まあな」

 ただ――。なんだろう、このモヤモヤした気持ちは。

「隼人?」

「いや、何もしない選択肢――ってのもあるよな、って思ってさ」

「どういうことだ」

「以前カノンも言ってたけど、不確定な未来のために、わざわざ行動するのは本当にいいことなのか?良くなることを願うだけだけでいいんじゃないのかなって思って」

「消極的な未来選択だな。極めて非効率的だ」

 一瞬、面倒臭い――そんな言葉が頭をよぎる。おい隼人、大丈夫か?俺自身が消えるかどうかの瀬戸際なんだぞ。

「いやまあ、余計なことするよりは、何もしないほうがいい事もあるかなと思って」

「失敗するリスク――か?どうする、止めるか?」

「いや、そうじゃない。ごめん、変な意味じゃないんだ。俺のために色々とやってくれてありがとな、みんな。ごめんごめんごめん!あープル太、かわいいなー」

 俺は慌ててカノンの膝の猫を撫でようとしたが、猫に睨まれた。


「隼人くん、プレッシャーですかね……。だ、大丈夫ですか?」

「――今日はもうお開きかな~。具体的な内容はまた今度にする?」

 翔は頭をクシャクシャしながら、大きな伸びをして時計を見ていた。時計の針はいつの間にか17時を回っていた。

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