4-1 >> デアイ no 翌日 猫耳メイド生成の一貫性モデル
朝起きると、カノンはもう既に起きてリビングに座っていた。これは全て夢ではなかったと、再び感じる。やわらかな日差しの差し込む静かな朝だ。少しだけ緊張するような空気が辺りを包む。
「おはよう」
「おはよう、早いね」
昨日は、カノンには俺の部屋を使ってもらうことにして、俺は両親の寝室で寝た。自分の部屋に女の子が入るって新鮮なんだな、と思った。もう少し綺麗にしておけばよかったと後悔したが、時既に遅しとはまさにこの事だ。
「昨日は眠れた?」
俺はカノンに質問する。俺は正直初めは興奮してよく眠れなかったけど、気がついたら熟睡していた。
「ああ、随分久しぶりに寝た気がする」
「良かった。朝ごはん――トーストでいいかな」
「ありがとう。手伝うか?」
「大丈夫」
俺は手慣れた手つきでパンをトースターに入れ、同時に卵を焼いた。やっていることはいつもの通りなのに、どこか、ぎこちない。母さんは看護師で夜勤が多いため、朝食を作るのは当たり前のことになっていた。
ただ、違うのは――いつもより一人分多い、女の子の食事。カノンは先に出したホットミルクをすすっている。
「あの」
二人同時に話かけて黙りこむ。
「先にどうぞ」
「きょ、今日は、ボディスーツじゃないの?制服持ってるなんて……意外だった」
マジマジとカノンを見る。今日は歳相応というか……今時の女子高生で、学生服のような出で立ちだった。むしろこっちのほうが違和感がないはずなのに、カノンじゃないみたいだった。それがまた、俺をドキドキさせる原因なわけだが……。
「あれで人がいる街を歩きまわったら変に思われるから、歳相応な世間に馴染める格好として用意して置いた。内側にはボディスーツを着るけどな……隼人、いつまで見てるんだ」
カノンは俺がずっと顔を見ているのに気づいて少し顔を赤らめた。カノンはトーストと目玉焼きを俺の見よう見まねで食べているので、俺がどこを見ているかまでは気が回らなかったようだ。
未来では食パンとか目玉焼きとか、珍しいのだろうか。カノンは美味しいな、と目を輝かせながら食べている。
「今日は、渋谷をまた調べに行こうと思う」
「俺、付いて行こうか?」
「いや、これは私の調査だ。それに、隼人は学校だろ?」
「そう言えば、カノンの目的って……」
「いや、目的の前に調査をしようと思っている。隼人の症状といい、渋谷の現状といい……腑に落ちないところがいくつかあるんだ。目的以前の問題になるかもしれない」
カノンは少し口を閉ざしたあと、こう続けた。
「なあ、今まで渋谷で大規模な事故…とかは起きてないよな?」
「事故?交通事故とかか?今はアティスが蔓延しているのは知ってるけど後は……」
「そうか、いや、なんでもない」
意味深な感じだったので、深く聞こうとしたものの、今は朝だったので時間がなかった。朝を食べたら、そろそろ学校に行かないと行けない。
「調べた後、合流できたらありがたいんだけど。あの、昨日言ってた俺がトレーサーだとか言う話、もう少し詳しく聞きたいし」
「そうだな」
「あの、カノンは猫って好き?」
「?別に、どちらでもない」
「駅前に猫カフェがあるんだけど、俺の叔父さんがやってるんだ。そこで待ち合わせってことでいいかな?16時くらいになると思う」
「ねこ……カフェ……?ああ、分かった」
そう言って俺達は家を出た。朝アキに会って大騒ぎするかなと思ったが、幸い会うことはなかった。
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学校では翔とアキから質問攻めだった。全ては答えられないし、周りの目もあったので適当にあしらって答えた。今まで食堂で一人で食べていた昼も、どういう訳かアキと翔がついて来た。
「――で、カノン様は今どこに?」
アキはカノンを様付けで呼ぶのか……まあいいけど……。翔は翔でカノンちゃんだし……。
「今渋谷で調査中だよ。何を調べているのかまでは知らないぞ」
俺は事前に念を押すように言うが、アキは居ても立ってもいられないといったカンジで即座に提案をしてきた。
「では学校が終わったら、皆で渋谷に行きましょうか??」
「え?あそこは何が起きてるのか分からないところだぞ。それに、放課後、俺はカノンと駅前の猫カフェで合流することになってる」
あ。言ってしまった。二人共キョトンと考え込んだ後、首を縦に振った。
「駅前の猫カフェってCat’s cafe?じゃあ~、アキちゃん、僕達もあそこで合流するってことにしない?」
「いいですね。は、隼人くん、放課後合流は、今日……ですよね?」
勝手に決めるな、と言いたかったが、何も言わずとも二人の意志は硬そうだった。俺の意思が弱いのか?――いや、そうではない……コイツら意外と頑固だと改めて思う。
お前の責任だと俺を見つめるカノンの姿が目に浮かんだ。
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放課後、俺達は三人で駅前にあるCat’s cafeに向かった。駅を少し郊外に向かって3分ほど歩いたビルの中にあり、親戚のマサキ叔父さんが経営している。猫グッズを取り扱ったショップを併設している猫カフェなのだが、小さな店員さんが可愛いのだ。この時間になると、平日でも数人の客で常時賑わっている。入口を入るとすぐに、天井に吊り下げられたサーフボード、おもちゃのパイナップル、ヤシの実などの派手な飾りが俺達を歓迎した。よく見るとところどころの高みに猫がいて、俺達を見下ろしている。皆ダランとして思い思いの姿勢で俺達を迎え……ている。
「猫カフェ……というより、猫がいるカフェ、だな」
翔が、俺達全員が丁度思っていたズバリそのものをボソリ、とつぶやいた。
「おう、隼人久しぶりだな。最近来てなかったら、一ヶ月ぶり?」
奥のカウンターから俺達を見つけた真崎叔父さんは直ぐに明るい声で挨拶をしてくれた。
「……だったかな。マサキさん、相変わらず元気そうだね」
「なはは。アキちゃんも~久しぶり。元気にやってる?そっちは隼人の新しい友ダチかぁ?」
アキと翔が続けて挨拶を交わす。今はここでオーナーをしているマサキさんだが、以前は俺の父と同じ国連軍の研究部門にいた親父の後輩である。今は軍から臨時で雇われボディガード的な仕事が入らない限り、ここで働いている。スポーツ好きの筋肉隆々の短髪で、いわゆる明朗快活で元気な人だ。正直あまり、外見はネコ好きってイメージじゃない……と、これは失礼な話だ。
本当は、俺とは血のつながりがない。昔うちの母さんの妹のミオさんと結婚する予定だったのだが、研究中の事故により亡くなってしまったと聞いた。俺がまだ小さい頃の話だし、うちの両親もあまり言いたがらないので、これ以上の話は知らない。そんな関係で本当は叔父とは呼べないのだが、親父より人情家で頼り甲斐のあるマサキさんを、心から慕っている。マサキさんもマサキさんで、俺を息子のようにかわいがってくれたので、母さんが夜勤で帰ってこれないときなどは、よくここで食事をしていた。
俺は店内を見回したが、どうやらまだカノンは来ていないようだった。
「高校生くらいの女の子、来てないよね?服の中にウエットスーツみたいなもの着ているから目立つと思うんだけど」
「いや、見てないな……てことはお前、彼女できたんか?ウエットスーツ?ダイビングなら沖縄、俺と行こうか?案内するぜ?――そっかぁ、隼人もそろそろ年頃だもんなぁ」
ニヤリと薄ら笑いを浮かべるマサキさんは、どこか冷やかしみたいなものも含んでいるように見えたので、慌てて否定する。
そんな俺達のやり取りを聞いたのか聞いてないのか、絶妙なタイミングでカノンが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「カノン様!」
そう言って真っ先にカノンに近づいたのはアキだった。カノンの身の回りの世話を焼いている。
「可愛いなあ。カノンちゃんだって?隼人、やるなぁ」
遠巻きに見ていたマサキさんが俺の耳元で囁く。
「だから違うって。彼女は俺のアティスを直せるかもしれない人なんだよ」
「はあ?」
「まあいいや、また今度ね」
俺はアキ達のほうに向き、手で個室に入れと指示を出す。
「隼人。二人で会うのかと思ったが……随分な人数だな」
「色々とあって……こんなになった」
「まあいい」
カノンは辺りを興味津々に見回している。
「猫とカフェで、……猫カフェか」
沖縄好きで三ヶ月に一回は海へ行くほどのサーファーのマサキさんの趣味で、二畳にも満たないこじんまりとした個室の部屋は、猫カフェというより沖縄の写真やら、美ら海グッズであふれていた。
「隼人くん!今日のオススメは海ブドウと島豆腐のチャンプルだよ!」
愛想のいい大学生の愛ちゃんが冷たいお冷を運びながら注文を取りに来る。彼女は愛媛から大学進学で東京にやってきたバイトさんだ。俺が中学からここでアルバイトをしているから、かれこれ二年の付き合いになる。歳は20歳で俺とそう変わりがないが、明るくて接客も上手なのでマサキさんに重宝されていた。
「メニュー、沖縄料理たくさんだな、どうするか……」
翔がメニューとにらめっこしている。見渡しても誰も何か言うものはいなかった。直ぐには決まりそうになかったので、俺は適当に飲むものだけを注文することにする。
「とりあえず……みんなコーヒーでいいか?」
「サーターアンダギー……」
ああ、と言って皆が頷きかけた時、カノンは会話の中でぬうように素早く注文を追加した。
「はい、サータアンダギーとコーヒー4つね。コーヒーはアイスでいいかな?」
「ああ、はい……それでお願いします」
「少し腹が減っててな……」
愛ちゃんが去ったあとに皆がカノンを見つめる中、カノンはボソリと呟いて注文票で顔を隠した。