結段 生、そして旅立ち
エディはパン屋へ向けて走った。だが、人混みのせいで中々前に進めない。ヘレンはよくこの人混みを駆け抜けられたものだ。エディは感心したような気分になりながら人を掻き分け、大通りを南から北へと遡る。普段は走って二分もかからない道のりが、五分くらいはかかってしまった。ひどい疲れを感じ、エディは深い溜め息をつく。パン屋の目の前では、ヘレンが慌てた様子できょろきょろと周りを見回していた。
「どうしたんだいヘレン。さっきも店番ほっぽって走ってたじゃないか」
疲れたエディの嫌味ったらしい口ぶりに、ヘレンは顔をしかめた。
「エディを探してたんだよ? どこに行ってたの」
「どこって、後買う物はランプしかないじゃないか」
「あ。そうか……って、それどころじゃないの!」
手をめちゃくちゃに振って慌てた様子を見せつけたヘレンは、エディを勢いよく店の奥に引き込んだ。途端に、大きな産声が彼らの暮らす二階から聞こえてきた。顔を見合わせた二人は、大きな音を立てて階段を駆け上った。息を荒げて二回に辿り着くと、涙を静かにこぼしているロバートの姿が目に入ってきた。二人に気がついたロバートは、ふらふらとエディ達の目の前まで近寄り、力強く肩を掴んだ。
「やった……! アンナはやり遂げたんだ! 産まれた! 可愛い女の子だよ……ダイアナって名前にした。会ってあげてよ。二人に……」
先程までばたばた大きな音を立てていた二人だが、神聖な空間に触れた気がして到底騒いだりする気分にはなれなかった。猫のように足音を忍ばせて歩き、二人はアンナとその子どもがいる寝室に足を踏み入れる。そこには、我が子を愛おしそうに眺め、僅かに生えた栗色の髪の毛を撫でているアンナの姿があった。隣では、仕事をやり遂げて満足げな表情をした御産婆さんがアンナの後ろから身を乗り出してダイアナの事を眺めていた。
二人は心の中に温かい何かが広がっていくような感覚を覚え、その場に立ち尽くす。しばらくそうしていると、アンナは二人の事に気がついた。
「ありがとう。二人のお陰よ」
ヘレンは静かにそのダイアナのところまで近寄ると、その寝顔を眺めながら涙を浮かべる。人の死を身近に意識し続けたヘレンには、この生がどれ程素晴らしく、たとえようもない価値があるかわかった。アンナのように、自分とそっくりな栗色の髪の毛をくしけずってヘレンは呟いた。
「死んでしまう命もあるけど、こうして生まれくる命もある……ダイアナちゃん。幸せになってね……」
ベッドに座り込み、ロバートに負けず劣らずの涙をこぼしているヘレン。エディはそっと隣に近づき、肩から静かに抱きしめてあげた。二人のそんな様子に気がついたのか、ダイアナはそっとその大きな目を開いた。そして二人の方に向くと、わずかに微笑んだ。
「エディ。ヘレン。見てあげて」
ヘレンは涙を拭いて顔を持ち上げ、ダイアナと目を合わせる。生まれて間もない赤ん坊の微笑みは、エディとヘレンの二人がこれから何をするかを見透かしているようで、その門出を見守ろうとでもしているかにみえた。感情の一切が洗い流され、二人はただ純粋な笑みでダイアナの事をしばし見つめていた。
新たな命の誕生を一通り喜んだ後、エディとヘレンは下に戻ってあるだけのパンを売り切った。長く客を待たせたせいで文句の一つや二つが出たが、『子供が生まれた』と言うと一様に笑顔を浮かべ、代わりに祝福の言葉を一つや二つ述べて去っていった。これで御馳走を買いなさいと、余計にお金を置いて行く人までいた。普段なら断ろうと思ったであろう二人だが、舞い上がっていた二人は遠慮なくもらってしまった。それで肉や野菜を買ってきた二人は、ああでもないこうでもないと相談しながらささやかなお祝い料理を作り上げた。
配膳をしていたまさにその時、寝室のドアがゆっくりと開き、奥からロバートが出てきた。蝶番の音すら立てないように気を付け、彼は明かりが消えた寝室を窺いながらドアを閉めた。
「あれ。アンナさんは」
エディが戸惑ったように尋ねる。この料理はアンナとロバートのために作ったものだ。お祝いの言葉を述べ、二人はそそくさと退散するつもりでいた。本人がいないのでは話が狂う。
「アンナは疲れて眠っちゃったよ。当たり前だよな、あんなに痛がってたんだから。本当にアンナはすごい……」
「はぁ。そうですか」
エディの残念そうな声色を聞き、ロバートは目の前に配膳されたステーキとサラダに気がついた。
「僕とアンナのために?」
「一応、そのつもりだったんです」
右手をポケットに突っ込み、左手で頭を掻きながらロバートは寝室の方を振り返る。彼女は揺りかごにダイアナを寝かせ、自分もベッドで幸せそうな表情を浮かべて熟睡していた。せっかくお祝いの料理を作ってくれたのはありがたかったが、アンナを起こすわけにもいかない。二人に向き直ると、テーブルを手で差した。
「じゃあ、君達と一緒にお祝いさせてくれないかな。無事にダイアナが生まれてこれたのは君達のお陰でもあるんだよ。そのステーキを食べる権利は当然ある。……半分ずつだけどね」
最後に冗談っぽく付け加えられたロバートの言葉に、エディ達は思わず笑顔になる。
「じゃあ、遠慮なくいただきます。……この材料費もお客さんからもらった物だし、今日は遠慮してないなぁ」
「そうね」
エディ達は来客用の椅子を持ち出して来て、それに腰を掛けた。ロバートはゆっくりと胸の前で十字を切ると、指を組んで小さく祈りの言葉を口にした。
「神様。アンナにダイアナを無事に生ませてくれてありがとうございます。そして、今日も美味しい食事をありがとうございます」
エディとヘレンは気まずそうに顔を見合わせ、静かにうつむくだけだった。その様子を不審がったロバートは、この五日間抱き続けていた疑問とまとめて尋ねてみる事にした。ナイフとフォークを取り上げ、ステーキを切りながらロバートは口を開く。
「どうしたんだい? 神様にお礼を言わないなんて」
ヘレンはますます気まずくなった。自分の指を見つめながら、何も言う事が出来ずに黙りこんでしまう。そんな彼女の様子を見つめながら、エディは出し抜けに尋ね返した。普通に生きている人の、全ての価値観を揺るがしかねない質問を。
「ロバートさん。そもそも神様って、いると思いますか?」
ロバートは驚いて、フォークに突き刺したステーキをそのフォークごと落としてしまいそうになった。間一髪でそれを救ったものの、今度は口の中に溜まった唾を変に呑み込んで咳き込んでしまう。咳を何とか抑えながら、ロバートもさらに聞き返す。
「どうして、君は、そんな滅多な事を言い出すんだい? 罰が当たるよ」
今度はヘレンがこっそり口を開く番だった。
「罰だなんて。私は三週前に母を失ったばかりなのに」
「お、お母さんを? ごめん。知らなかったんだ」
顔を上げられないヘレンに代わって、エディは今までの経緯を話してしまう事にした。自分達は孤児である事、ヘレンが酷いいじめを受けた事、ヘレンが神の存在を信じることが出来なくなってしまった事、それで、自分達は遥か遠くの地に向かい、真実を確かめようとしている事、等々。エディのとうとうとした語り口に耳を傾けながら、ロバートは何度か相槌を打った。彼は気になっていたのだ。エディ達は交代しながら働いていたが、仕事をしていない方が買い物をして戻ってくるのだ。何を買っているのか好奇心が湧いたロバートは、パンを焼く傍らでその荷物が何であるかをこっそり覗いた。そこにあったのは麻の服、薬や包帯。その時に冗談交じりで旅でもする気なのかと見当を付けていたが、本当だったのだ。
「そうか。そんな事があったのか。ごめんよ。知ろうともしなかった……お父さんやお母さんに許しは貰ったの、とか、聞こうと思えば聞けたのに。自分達の事で手一杯で……」
「いいんです。私達も一切話しませんでしたから」
ヘレンはか細い声を出す。溜め息をつくと、ロバートは少し考え始めた。神様の存在を今まで生きて来て一度も疑った事は無かった。神様の存在を疑うと罰が当たりそうで落ち着かないロバートは、どうして“存在を疑わなかったのか”を疑う事にした。どうしてこうも手放しで神様の事を信じる事が出来るのだろう。イエスのなした様々な奇跡を信じているからか、全ての幸福は神様から与えられていると、今まで何度聞いたかわからないほど耳にしてきたからだろうか。どうにも、それが直接的な理由だとはロバートには思えない。自分でも理由を辿りながら、ロバートはエディに尋ねた。
「エディ。君はどう思うんだい? お祈りをしなかったから、やっぱり信じられないかい?」
「僕は今、信じる信じないは、考えない事にしてるんです。」考えながら、エディは自分を確かめるように話す。「余計な考えを一切取っ払って、ただ事実だけを見つめたくて」
左手であごを撫でながら、ロバートはエディの瞳を見据えた。確かにその光は正直で、真っ直ぐこちらに向けられている。再び自分の思考に集中し、そして気がついた。今日はダイアナの記念すべき誕生日だ。それが彼にとっての答えだった。
「事実だけ、か。僕はちょっと味気なくて辛いかな」
「はい?」
エディが首を傾げると、ロバートは椅子を軽く引いて寝室を見つめた。
「僕は思うんだ。真面目なアンナや、あんなにかわいいダイアナが必死に頑張っている所を神様はきっと見逃さないだろうって。神様の愛は全ての人々に平等に注がれているっていうんだから。きっと見逃しやしないって、僕は信じてる。神様はダイアナの事を愛してくれているって、僕は信じたいんだ」
そこまで言うと、ロバートは照れ笑いを浮かべながら鼻頭を擦った。
「上手く説明出来ないけど、“いる”方がいいじゃない。“いない”よりも」
ロバートの笑顔には、一切の澱みが無かった。それを見つめていると、エディもヘレンも自然と笑顔になってきてしまった。
「そうですね。そうかもしれません」
ヘレンは頷く。
「でも、その前に僕は探す勇気もないからね。探せる勇気がある君達が羨ましいよ。だからさ……」
ロバートは静かに右手を差し出した。エディは導かれるように彼と握手する。
「僕の代わりに探してきて欲しい。見つけたら、こう言ってくれないかな? 『ダイアナを愛してくれてありがとうございますって、小さなパン屋の店主が言ってた』ってさ」
「もちろん、構いませんよ」
「して、いつ行くんだい?」
「明日の夜遅く、皆が寝静まった頃くらいです」
手を離し、ロバートは目を瞬かせた。エディの言った言葉がどこかでつっかえているようだ。その言葉を無理矢理呑み込むように、生唾を飲み込んだロバートは、声を抑えて苦しそうに笑い始めた。
「じゃあ、ほら、ご飯食べなよ。門出のお祝いだ。アンナだって自分の分が食べられたぐらいで文句は言わないさ」
「ありがとうございます!」
二人で力を合わせて作った夕食はすっかり冷めていたが、エディ達にとっては十分美味しかった。
翌日、五月五日がやって来た。エディとヘレンはいつものように振る舞い、日々繰り返される授業を切り抜けようとしていた。しかし、日々繰り返されるやり取りには、当然“あの忌々しい事”も含まれる。
「ヘレン、元気にしてた?」
いつものように、四人はヘレンをいじめにやってきた。母親の声真似をしてみせるだけで簡単に泣きだすのが面白くてやってくるのだ。しかし、今日のヘレンは少し、いや、大分違った。
「お上手ね」
既に意にも介していないという様子でヘレンは受け答える。あまつさえ彼女は笑顔まで浮かべていた。四人はきょとんとした。きょとんして反応が一歩遅れたが、四人は何とか気を直す。
「悲しくなくなったのかよ?」
ヘレンは静かに首を振った。
「ううん。もちろん悲しい。けど、いつまでもめそめそしていられないでしょ?」
再びヘレンは笑いかける。四人は後ずさりしてしまった。無反応ならまだしも、笑われてはいじめる意味がない。
「気持ちわりぃ」
捨て台詞を残して立ち去った四人の背中を目で追った後、ヘレンは自分の机に目を落とす。どんな事でも、今日で終わりと思えば耐えられた。ふと、ヘレンは背後を見る。本で顔半分を隠したエディと目が合った。彼は本を置き、頬杖をつきながら笑いかけてきた。彼の笑顔はとにかく真っ直ぐで、見ているとヘレンは元気になれる。体ごとエディの方に向き直ると、ヘレンも静かに微笑み返した。
その夜、孤児院の部屋に戻ったエディは相部屋の仲間が寝静まるのを待っていた。やがてその通りになると、彼は整理した荷物を引き出しから引っ張り出した。丈夫な麻を使用したシャツに青い上着、旅嚢を背負いながら、エディは最後に本棚と向かい合う。
「本も少しは必要かな。役に立ちそうなやつ、一冊ぐらいは……」
本の背表紙をなぞっていくうち、革表紙の題名の無い小さな本で指が止まった。エディは無意識にその本を抜き出す。表紙にも、あるのは名前が一つだけ。父の日記だった。父との思い出を封じるつもりで、今までこの日記は開いてこなかった。だが、旅の決意を固めたこの時、ついに開いてみようと決めた。恭しく向き合うと、丁寧に表紙を開く。そこには、几帳面さが際立つ細かい字がびっしりと書き込まれていた。まずエディは今と同じ日付を読んでみた。
今日、エディが俺の仕事場までこっそりついてきた。別に傍目から見ても面白い事なんかしていないのに。だけど、エディはとても楽しそうに俺がこの街並みの俯瞰図を書いている様子を眺めていた。遊びまわったりもしないで、ただ目を輝かせながらこれはここだねとか、あれはどこだとか、俺の書いている地図と目の前に広がる街とを楽しそうに見比べていた。
そういえば、俺も親父の後をつけまわしていたな。仕事が泊まりがけになった時なんか、一緒に野宿までしていた。もしかしたら、エディも俺や親父と同じ地図描きになるのか? 親父は街の地図、俺はイングランドの地図、とちょっとずつ仕事が大きくなってるから、エディはもしかしたらヨーロッパ、いや世界地図を描くようになるかもしれない。うん、やっぱりそれは無いか。でも、俺の仕事は継いでほしい。いつか、この日記を見ながら昔にした一人旅の事を教えてやろうか。
確かに、この日辺りからエディは父と一緒に野宿を度々していた。懐かしい思い出に浸りながら、エディは続きをのぞく。そこには、エディ達が必要としていた旅の知識や思い出が事細かに記されていた。
……きっと、父さんは旅に出ろって言ってるんだな。
エディは静かに日記を閉じると、手に持ったまま音を立てないよう、静かに部屋のドアを開け放した。だれにも見つからないように細心の注意を払いながら、玄関まで急ぐ。幸い、鍵は内から開けられる。今はきっと用心して閉めているだろうが、物に乏しい孤児院を誰が泥棒に入るものか。一日くらい空けっぱなしでも大丈夫だろうと決めつけて、玄関に辿り着いたエディはヘレンと鉢合わせた。
「ヘレン!」
エディは声を殺し、蚊が叫んだような声で話しかける。考えてみれば、同じ孤児院で暮らしているのだから当たり前といえば当たり前だ。一人納得しながら、エディはヘレンに向かって笑いかける。
「教会に集合って言ったけど、まあいっか。ヘレン。西の門に行くよ」
「そっか。あそこだけ門扉がないもんね」
「そういう事。じゃあ、鍵を開けるよ」
出来るだけ音を立てないように気を付けながら、エディは慎重に鍵を捻った。さらに、軋む音にびくびくしながら扉を開けると、扉を閉じるのは自然に任せてエディ達は西の門へとひた走った。折角のランプに火を付けないのは、怪しまれると困るからだ。だが幸い、誰も夜更かしをしないらしく、左右に立ち並ぶ家々から光は洩れていない。二分ほども駆け足で行くと、ようやく西の門が見えてきた。エディとヘレンはさらに気を立てながら門の前まで忍んで行く。門番がいるかもしれない。一分もかからず行けるような道のりを、物影に隠れながら三分も四分もかけて向かった。
「なにしてんの?」
ようやく門が目と鼻の先まで近づいたという段になって背後から聞き覚えのある声を耳にし、エディとヘレンは飛び上がってしまった。そしてそのまま後ろを振り向くと、やはりアンナが立っていた。悪戯っぽい笑みを浮かべると、彼女はエディの額を小突く。
「ロバートからぜーんぶ聞いたわ。少年のくせに、大層な事考えるわねぇ。ここの中、どれだけみっちり詰まってるのかしら」
「こ、こんな所で何をしてるんですか?」
エディが声を上ずらせながら尋ねると、アンナは懐から赤地に金糸で刺繍が入れられたリボンを取り出した。
「私との約束、すっかり忘れてるんじゃないかと思ったの。五日間働いたらお礼するって言ったでしょ? あんまり急で給料を用意出来なかったから、代わりにこれをあげるわ。友達からもらったフランス土産のリボンなんだけど、私、仕事柄髪はうなじより長くしないの。だから付けても大して映えないのよねぇ。だから、これはヘレンにあげる。気に入らなかったら、売ってお金をつくってもいいし。結構値打ち物らしいの」
それだけ言うと、アンナはヘレンの肩までかかる後ろ髪をリボンで結んであげた。一歩離れて、ヘレンの顔を窺う。
「うん。似合うんじゃないかしら」
「ああ。ヘレン、可愛いよ」
「そ、そうかなぁ?」
ヘレンは鏡が無いのがもどかしく、リボンを右手で撫でながら照れたような笑みを浮かべる。アンナは愛想良く笑いかけ、その様子から目を離すと、今度は西の門に目をやった。ロバートと逢引する時には、この門をくぐってピクニックに出掛けたものだった。そうして彼とオックスフォードの街並みを外から見つめ、改めて世界の広さを実感したのだ。
「旅かぁ。色んなものを見て来られるって、いい事よね。羨ましい」
「帰ってきたら、色々話しますか? 旅先であった事」
エディがそう言うと、アンナは深々と頷いた。
「お願い。私達はそんな暇ないもの。ダイアナだっているし。……さあ、早く行きなさい。『差し入れ』って言ってカモミールティーを飲ませたから、今は居眠りしてるけど、ぐっすり眠ってるわけじゃないわ。起きちゃうかもしれない」
二人は頷くと、アンナの方を振り返りながらゆっくりと門の方へと歩いて行く。門の脇で銃を手に握ったまま眠っている二人の見張り番を交互に見比べた後、エディ達は最後にもう一度アンナの方に向き直って力強く手を振った。アンナは温和な笑顔で、二人の事を勇気づけるように手を振り返してくれた。一度大きな深呼吸をしたエディ達は、踵を返して南へと続く街道を走り出した。
「……みんな、明日になってびっくりするんだろうね」
ヘレンの呟きに、エディは苦笑した。明日の仕事は自分達を探す事に違いない。しかし、そんな事で立ち止まるつもりは毛ほども無かった。
「行くよ」
「うん」
月明かりに照らされた青白い道を、二人は一直線に駆けて行った。