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我が神を求め  作者: 影絵企鵝
八章 ドゥブロヴニクの灯台
29/77

序段 セイレーンの少女

Eventful Item

 トルコ石のネックレス ポセイドンのお守り(new!)

Money

 九十シリング


 ここは川が流れる村の中。いつものようにエディ達は一泊のお礼を済まし、再び旅立とうとしていた。軒先まで見送りに来てくれた少女――オレナが、静かに頭を下げる。


「レイリー兄さんの無事を伝えてくれて、ありがとうございます」

「いいんですよ。……レイリーさんの正念場はここからのはずですし」


 そう言いながら、エディはロードに跨る。そして、エディはヘレンとオレナの事を交互に見回した。ここに来てからというもの、彼女とヘレンのことを何度も何度も見比べた。これが、目つきや鼻の高さはもちろん、前髪の流し方一つまでもそっくりなのだ。世に三人同じ顔の人間がいるとはよく言ったものである。ヘレンが腰に掴まったのを確認すると、オレナの方に首だけ向けて尋ねた。


「すみません。ここから一番近い港町を知りませんか?」


 結局、レイリーからは港までの道のりを聞きそびれてしまっていた。控えめに微笑み、オレナは街道の向こうを指差した。


「その馬で、この道を四時間も行けばドゥブロヴニクという港町が見つかるはずです。……あ、みんな」


 オレナが振り向くと、彼女の両親や、もう一人の兄もエディを見送ろうと駆けつけてくるところだった。汗を拭きつつ、レイリーの父は肩をすくめて見せた。


「すまないね。こちらも立て込んでて、こんな慌ただしい見送り方になってしまった」

「達者で旅すんだぞ。怪我なんかしたら、レイリーはきっと悲しむ」


 茶目っ気たっぷりに目を輝かせ、レイリーの兄はその手をひらひらさせる。エディは肩の力を抜き、口角を引き上げた。


「大丈夫ですよ。一番気を付けてることですからね。……じゃあ、そろそろ――」

「エディ! ヘレン!」


 エディがロードを出発させようとしていたところに、いきなりフィーナの甲高い声が飛んできた。ロードは調子を狂わされ、鼻を鳴らして足踏みする。軒先とは反対の方向から、レイリーの恋人、フィーナが現れたのだ。相当な距離を走ってきたらしく、つややかなポニーテールはだらりと垂れ、くっきりとしていたはずの二重まぶたは半眼になっている。脇腹を押さえ、息をする度に肩が大きく上下する。


「ど、どうしたんですか?」


 フィーナのあまりにひどい疲れ具合に、エディは目を丸くして戸惑ったように尋ねる。肩で荒く息をしていたかと思うと、彼女はいきなり何かを放った。綺麗な弧を描き、それはヘレンの伸ばした片手の中に落ちる。


「何ですか? これ?」


 ヘレンの手の内に収まったのは、円柱状に切り出された小さな木。その側面の半分ほどを占める、逞しい男が水から上半身を現した瞬間を捉えた彫刻だった。かなり芸が細かく、肩まで伸びた髪の波打ち方さえも削り出されている。片側の底面には小さな鎖がついており、首から下げられるようになっていた。息を何とか整えながら、フィーナはようやく背筋を伸ばす。


「それは、私の、父さんが作ったお守り! それを持ってたら、あなたを水難から、守ってくれるの!」


 ヘレンはぱっと顔を輝かせた。


「本当ですか? ありがとうございます!」


 フィーナは頷き、悪戯っぽく笑ってみせた。大海原に繰り出す以上、ヘレンは“絶対に”持っていなければいけないのだ。


「うん。元々女の子は船に乗っちゃいけないの。海の女神様が嫉妬して、水難に遭っちゃうから。だけど、それはその女神達を統べている海神ポセイドン様を象っているから、女神様はそれを傷つけることを恐れて手出しをしないのよ。わかった?」


 ヘレンは目を丸くし、口笛吹くような口の形をする。今の今までそんな話は聞いたことがなかった。だから、何の憂いもなくドーバー=カレー海峡の連絡船に乗ったわけだが、所も違えば海に対する考え方も変わってくるのかと、ヘレンは世界の広さを実感した。ヘレンは首飾りをトルコ石のネックレスの上からかけ、フィーナに軽く手を振った。


「本当にありがとうございます。じゃあ、そろそろ発ちますね」

「うん! 元気にしてるのよ!」


 強く頷くと、エディはロードの腹を蹴った。いななきを上げ、ロードはゆっくりと歩き始める。


「さようなら! 元気でいてくださいね!」


 オレナの声が二人の事を追いかける。わずかに背後を振り向き、右手を上げて応えたエディ達。再び前を向いたかと思うと、エディはもう一度ロードの腹を蹴る。勢いづいたロードは、ドゥブロヴニクへと一直線に駆け出した。村人達は道端に集まり、巨大な白馬が二人の歳若い旅人を乗せ、堂々駆けていくその姿をいつまでも見送っていた。



目指すはドゥブロヴニクの港、そしてまだ見ぬオスマン帝国の大地。砂漠が広がっているという話を良く聞くが、果たして本当の話だろうか。それを確かめるのが、エディ達は微かに楽しみだった。その楽しみを胸に膨らませ、エディ達は海風を追って走った。そして、オレナの言う通り四時間後、二人はドゥブロヴニクの街に辿り着いたのだ。



「こっちの港町は平和そうだね」


 昼下がり、エディが街を見回すなり言う。木造やレンガ造り、白い岩壁の家が様々に入り乱れて立ち並び、皆一様に赤い屋根を頭に抱く。遠目に見ても目立つ綺麗な景色だったが、いざ足を踏み入れると、なお一層のどかさが際立つ。南の広場では大道芸人が踊りやジャグリング、歌を披露している。北の広場は商店街で、新鮮な魚から、次々とやってくる商船の積み荷であった、宝石やサンゴの細工物までも売っている。もちろん西には広い港があり、絶えず積み荷のやりとりが続いている。軍船が泊まり、漁も商いも出来ないようになっていたドーバーの港とは大違いだ。お金に余裕があるなら観光するのも一興だったかもしれない。


「面白そうな街だけど、何にも買えないかなあ……」


 北から南へと向かいながら、エディはがっかりした声を上げる。トニオの絵のお陰で懐はかなり温かいのだが、船に乗るのだ。かなりの長旅にもなるし、余計な出費は怖かった。

 露店に並んだサンゴの髪飾りに目を奪われていたヘレンも残念な気分だったが、南の広場に足を踏み入れると、急に目を真ん丸にして広場の中央に見入った。


「まあ、いいんじゃないかな。あのジャグリングなんか見ててどきどきするし」


 ヘレンが指差す先には、なんと五本のナイフを二人でやり取りしている姿があった。エディは口笛吹き吹き、思わず周りと共に歓声を送る。


「まあ、見るのは一応タダだしね。少しぐらい余裕持って歩こうか」


 二人でそんなことを取り決め合うと、大道芸人の華麗な体さばきに目を奪われながら広場を当ても無く歩き始めた。やぐらが建てられている最中で、大道芸人が動き回る横では大工ががなって指示を出し合っている。釘を叩く木槌の音が絶妙に重なり合い、さしずめ音楽のようになっていた。やぐらのてっぺんを見れば、正方形の台座の四隅から紐が伸び、色とりどりの旗がぶら下げられている。エディは興味津々で作業の様子に見入った。


「何かのお祭りかな?」


 ヘレンも気になって広場を一面見回していると、今まで通って来た通りの側に一瞬目の端にとんでもない光景を目にし、驚いた彼女はもう一度その光景をまじまじと見つめる。彼女の目に飛び込んで来たのは、箱、椅子、食ベものがたくさん詰まった革袋と、自分の身長よりも高く積み上げられた荷物を持って歩く誰かだった。目の前さえも見えているか怪しいものだ。案の定、道を歩いていた大工の一人にぶつかって荷物を取り落してしまう。


「危ねぇな! そんな荷物の持ち方してるからだ!」


 大工は荷物を取り落した人――少女を叱っている。その大きな声に慌てたのか、少女は袋に食料などを突っ込んではこぼしてしまうばかりで一向に荷物が片付かない。見かねた大工も手伝っているが、かなり時間がかかりそうだ。エディ達は何となく人助けがしたい気分になり、ぶらぶらと二人の下に近づいて片づけを手伝った。


「お。すまねぇな」

「ごめんなさい。迷惑掛けます」


 二人は口々に礼の言葉を述べる。別に手伝いたいから手伝っているだけなので、エディ達は適当に相槌を打ち、いえいえとかどういたしましてだとか言いながら荷物を片付け終えた。立ち上がると、大工はもう一度少女を一瞥する。少女に頭を下げられると、やれやれと肩を竦めてその場を後にしてしまった。三人が残される。


「どうもありがとうございました」


 少女が再び頭を下げると、エディは首を振った。礼を言われるような事でもないと思ったし、まだ手伝うべき事が残っている。どこに向かうかはわからないが、こんなにもたくさんの荷物をまた抱えていたらまた同じ事が何度起きたものかわからない。


「別にいいですよ。よかったら、その荷物運びましょうか?」


 少女は表情を和らげた。少女自身も、このままでは何時間かかるかわからないと思いかけていたところだったのだ。


「いいんですか?」

「はい。ね? ヘレン」


 ヘレンはぼんやりしていた。笑顔になった少女の顔は、同じく少女であるヘレンからでさえ眩しく見えていた。つやのある金髪に、つぶらで透き通った青い瞳。鼻筋も通っている。程良く厚みのある唇は魅力的だ。やや細面で、大人への階段を上っている最中、という表現がしっくりくる輪郭だ。何処にもけちのつけようがない。


……エディはどう思ってるんだろう。


 そのエディに目の前で手を振られた。瞬きを数度繰り返すと、ヘレンはエディに向き直る。


「何て言ったの?」

「一緒に荷物を運ぶの手伝おう。ね?」

「え、ああ。うん」


 エディは箱を抱えていた。ぼんやりしていたことを押し隠すかのように、ヘレンは慌てて椅子を持ち、愛想笑いをした。


「二人とも、ありがとうございます。……付いてきてくださいね」


 少女は港の方向に歩き始めた。二人はその後について歩いていく。もの静かな性格なのか、一言も発しないまま目の前の少女は港へ続く通りを進む。どことなく居心地が悪くなったエディは、適当な質問を口にする。


「この街、何かのお祭りなんですか?」


 彼女は頷くと、港を指差す。


「この港の拡張工事が終わったので、そのお祝いです」


 ヘレンは少し驚いた。街を挙げ、街に住む人全員でずっと準備しているようなのに、その理由が『港が拡張されたから』とは少々規模が大きい気がしたのだ。


「ここの人、みんなお祭りが大好きなんですね」

「はい?」


 微笑みを浮かべ、少女が首を傾げた。意味がよくわからないとでも言うような目をしている。ヘレンは家を飾り付けている人々を見つめながら再び口を開いた。


「だって、港が出来上がっただけでこんなに盛り上がれるなんて」


 少女は首を振る。


「いえ。港が大きくなったからこそです。元々、この街は海運で大きくなったんです。だから、港が大きくなるというのは、この街が無事に発展を続けているという事の象徴なんですよ。それでみんなはお祝いしようとしてるんです」

「へぇ……」


 エディは感心したような声を上げた。しかしその後、少女は唇を引き伸ばして愉しげな表情になった。


「まあ、お祭りはみんな大好きです!」


 少女の屈託の無い笑顔に、エディ達もつられて満面の笑みを浮かべる。と、そうこうしている間に港に辿り着いてしまった。確かに彼女の言う通りのようで、港の飾り付けは特に目立つ。満艦飾という言葉がぴったり似合い、小さな漁船や大きな商船のマストが色とりどりの旗で繋がっている。花やリボンでも飾り付けられている。石や木で出来た海で伝説になっている生物の彫刻が埠頭のいたるところに設置されていた。エディは全景を一通り見渡しながら少女に尋ねる。


「あなたのお家はどこなんですか?」

「あそこです」


 少女が指差したのは山の上、西に傾いた太陽の光を眩しくはね返す白壁の灯台だった。エディは急勾配の道を眺め、そしてもう一度少女の顔を窺った。灯台守という仕事があるのは知っているから、家が灯台だと言われても大して驚きはしない。だが、滑って遊べそうなほど急な坂を大量の荷物を持って登ろうとしていたのには呆れるしか無かった。


「僕達が通りかからなかったらどうするつもりだったんですか?」


 少女は困ったように微笑む。肩を少し竦めた時、髪が風にあおられふわりと揺れた。


「その時はその時ですよ。普段はお父さんと来るんですが……今は風邪をひいていて無理が出来ないんです」


 エディ達は苦笑いすると、彼女の苦労を思いやりながらきつい坂を登っていった。



 灯台は三階建てだった。そのうちの一階が居住空間となっており、真っ白い壁に合わせてか、テーブルから椅子、ベッドに至るまで全てが白を基調とした家具が揃っている。白くないのは床だけだ。そんな部屋のベッドに少女の父は寝込んでいた。


「ただいま。お父さん」


 たった今起きたという様子で、少女の父は伸びをする。途端に咳を一つ二つした。ルセアのように高熱で命に関わるという様子ではないが、確かに外出は控えたい雰囲気だ。


「お帰り。」言って、見知らぬ二人に気がついた。「そこの二人は?」


 少女は嬉しそうに声を弾ませた。


「この人達ね、荷物を運ぶの手伝ってくれたの。ええと……」


 まだ名乗っていなかった事を思い出したエディは、少女が首を傾げる横で口を開く。


「エドワードです。そして、隣が旅仲間のヘレンです」


 少女の父は柔らかく微笑みながら頷いた。


「ありがとうございます。私はシオン、そしてそちらにいるのは娘のシレーヌです。……そうですねえ、何かお礼をしなければ。ああ、そうだ。見て来たと思いますが、明日からお祭りがあるんです。見たいと思いませんか?」


 エディ達は頷いた。街中挙げての大がかりなお祭りは見た事が無いため見てみたい気持ちも大きい。それに、船まで港の飾りになっているのだから、まともに港として機能するかも怪しいものだ。シオンはくしゃみをしながら大きく頷いた。


「ええ。はい。そうでしょうとも。狭い部屋でも良ければ、ここに泊まりませんか。旅をしているのでしょう? 宿代だって馬鹿にはならないはずですが」


 これを断らない手は無い。瞬間顔を見合わせると、二人は頷いた。


「ありがとうございます。少しの間ですが、お世話になります」

「いえいえ。こちらこそ」


 シオンが鼻をかんだ時、いつの間にか上に行ってきたらしいシレーヌが階段を駆け下りて来た。


「お父さん。そろそろ日が暮れそうよ」

「そうか。じゃあそろそろ火を付けてよ」

「船が出ないのに、ですか?」


 エディは首を傾げた。シレーヌは踵を返し、再び階段に足をかける。その時、再びふわりと髪が揺れた。その滑らかな髪の動きを目の当たりにして、ヘレンは突然楽しみに膨らんでいた気持ちがしぼみ、伏し目がちになる。


「ええ。船は出ないから灯台としての意味は無いけど、それでも街を照らすっていう重大な役目はありますから」

「へえ……」


 そんな彼女には一瞥もくれず、エディはシレーヌと話し続けて階段を上って行ってしまった。ヘレンは自分の前髪を引っ張って目の前に持って来る。栗色の髪だ。シレーヌのようなつやもなく、少し乾いている。ヘレンは溜め息をついてしまった。金髪と茶髪では上品さにどうしようもない差があると感じた。茶髪はどうにも庶民じみているとヘレンは思った。それに、毛先がまとまらないからと、結局うなじ辺りまでしか伸ばさないせいで髪をなびかせる事も出来ない。窓際の鏡台を窺おうとして、やめた。とても覗く気になれない。


 そんな彼女の様子を不審がり、身を横たえながらシオンが声をかけた。


「あなたも上に行ってみたらどうですか? 綺麗な景色ですよ」

「あ、ありがとうございます」


 そう言われると行きたい気がしないでもない。だが、行きたくないと心のどこかで叫んでいる気がした。一方では、行かないとダメ、なんていう声も聞こえてくる。結局、いるにいられなくなったヘレンはその場を後にする。くすんだ木目の階段は、一歩踏み出す度に小さく軋みを上げる。一つ階を上がると、そこにあったのは樽や丸太だ。おそらく樽には燃料、丸太には火でも付けるのだろうと見当を付けながらさらに階を上がる。

 階段の中ほどまで来た時、いきなりエディの無邪気な歓声が耳に届いた。大人も顔負けしかねない落ち着きがあるエディがここまで大喜びするという事は、よほど綺麗な景色なのだろう。いつもなら、自分も顔が綻ぶのを感じながら階段を駆け上るのだろう。しかし今日に限って、ヘレンは老婆よりも腰や足が重かった。丁寧に備え付けられている手すりにただでさえ軽い体重のほとんどを預けながら、よろよろと階段を突き当たりまで上る。そして、『燈火室』と書かれた天井の扉を押し開けた。

「すごい! こんなに明るくなるなんて」


 エディは塀から身を乗り出さんばかりにして、港が灯に照らされている様を眺めている。二枚の鉄板に挟まれた巨大な火の方を見ると、汗を拭きながらシレーヌが何かを動かそうとしている。普段なら『手伝いますか』という所だが、どうしても彼女に手を貸そうという気になれない。ヘレンはそんな自分に嫌気が差したが、それでも理性からは程遠い、どこかに存在する感情がヘレンの動きを妨げていた。首だけひょっこりと出して燈火室の様子を窺っているうちに、エディがシレーヌの苦労に気がついて駆け寄った。


「何してるんですか?」

「これからこの鉄板がついた土台を回すんです。この回転する灯は珍しいので、ドゥブロブニクの港だっていう証にもなるから重要なんですよ」

「どうするんです?」


 額を伝う汗を拭き、シレーヌは燈火台の近くに備えられていたレバーを指差す。


「このレバーを引くんですけど、重いんですよね……」

「わかりました。手伝いますよ」


 それだけ言うと、エディはシレーヌが苦労していたレバーを一気に引いてしまった。途端、大きく軋む音を立てて歯車が回り始める。ゆっくりと鉄板が回り、それにつられて街を照らす明かりも周囲を巡る。シレーヌは直ぐに顔を輝かせ、汗を拭いているエディの右手を取った。


「ありがとうございます。この作業、いっつも苦労するんで、助かりました!」

「いやぁ。そんな……」


 エディは嬉しくなって頭を掻く。それを見たヘレンは、溜め息をついて三階に身を持ち上げた。金色の、眩いばかりの火を見ると、なぜだか先程見た茶色い樽や丸太を思い出してしまった。エディの笑顔、シレーヌの笑顔を交互に眺める。どちらの顔も綺麗に整っていた。無言で頬を撫でると、ざらざらした。肩を落として塀際まで赴き、ヘレンはそこに手をかける。視界には光の当たらない真っ黒な海。光の当たる世界を見る気になれないヘレンは、その漆黒の海を黙って見つめ続けていた。


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