優しい棘のかすり傷
題名をお題サイト「バニラレバ」様から借用させていただきました。
思い出が増えるたびに思いが大きくなるたびに動けなくなる。
この思いから逃げることなんて出来ないのに。
好きだと思うことは簡単なのに唇から発することは出来ない。
私は臆病だから。この関係を壊したくないから。彼から離れたくないから。
幼なじみの特権を手放すなんて事。できやしないから。
校舎からでた瞬間指先を凍らせてしまいそうな冷たさがわたしを蹂躙する。
その寒さに思わず首をすくめた。息を吐くと白く空気が濁る。寒くて指先が痛い。
「あっ!」
雪だ。真っ白な雪。どうりで寒いはずだ。綺麗だなとふと思う。
けれど綺麗だとは思うけど制服を濡らしたくはない。濡らしたら明日大変だ。
鞄から折り畳み傘を取り出そうとすると
「あれ?」
ないのだ。傘が。もっと奥にあるのかと、慌てて探ってみるけれど
「ない。」
ひやりと冷たい汗がこめかみを伝う。確か昨日雨だったから使って玄関で乾かしてそれでそのまま・・・
がっくりと肩を落とす。折りたたみ傘は置いてきてしまったらしい。
「あー暖かい。」
がっくりと肩を落とした瞬間に誰かに後ろから抱きしめられた。
「だ、誰!?。」
「俺だよ、俺。」
びっくりしすぎて胸が痛い。・・・いろいろな意味で。彼は私の幼なじみだ。
「一人で百面相してるからなにしてんのかなーって。・・・もしかして傘忘れたの?」
「・・・正解。」
「しょうーがねーな。いれてやるよ。」
しょうがないといいながらも笑いながら黒の傘を差し出す彼は知っているのだろうか。
彼の優しさに触れるたびに私が彼に焦がれてしまうことを。
言葉を発してしまったら思いが言葉になってこぼれてきてしまいそうで無言で傘に入る。
「まったく、お前は大事なところでぬけてるよな。」
笑いながら話す彼は私より大きくて、いつだっけ私の背が抜かれたのは。
「そーいえば、お前、顔は良いのに彼氏とかいないよな。」
「は!?。」
予想外の話題に驚く。告白はされる。彼以外の人を思えないから断っているだけで。
「・・・別に告白されても断ってるだけ。」
「もったいないな~。俺に彼女できたらどうすんだよ。」
「好きな人いるの?。」
「例えだよ。例え。お前がつくらないうちはつくらねーよ。ドジな幼なじみが心配でつくれませんよ。」
ポンポンと頭を撫でられる。
優しい言葉。けれどそれは私を幼なじみとしてしか見ていないという死亡宣告。
彼の肩が濡れている。私が雪で濡れないように私の方に傘をずらしているのだろう。
彼はとても優しい。とてもとてもやさしい。それが私が欲しい優しさではないだけで。
「私の方こそ、心配でつくれませんよ。心配で。」
べーっと舌を出して笑う。痛みをごまかすように。
幼なじみだからこその切ない気持ちを表現できていたらなーと思います。