どちらが上か
騎士と冒険者。どちらも何かと戦闘が付いて回る職業である。
まあ、破落戸やら盗賊もそうだが、あれは決して職業とは言わない。
騎士は有事の時以外活動しない、などと勘違いしている者もいるが、
実際は日常的に訓練を行い、体力の維持と技術の向上に励んでいる。
冒険者も日々、害獣や魔獣と遭遇して戦っているわけではないが、
戦闘に優れているのは生き残ってきた事実から間違いはあるまい。
この二者が互いに直接武器や魔術を交える事はまず考えられない。
騎士にしてみれば、自分達の技術が無意味に人目に晒されるのだし、
冒険者にしても、国家戦力に対して刃を向けるなんてとんでもない。
そもそも対人戦闘は、せいぜい犯罪者相手にしか在り得ないのだ。
しかし、ここではその「本来在り得ない戦い」を観ることが出来る。
王国競技場で毎年、年に一度開かれる祭典「王国武闘祭」では。
◆
王国武闘祭には、王国民でなくとも身元保証人がいれば出場出来る。
また出場者の年齢、性別、職業、武器は制限されていない。
正確には、年齢八歳以下、年齢九歳から十四歳、それ以上に分かれ、
武器に対しても魔術付与武器や魔術付与装備は使用禁止されている。
許可してしまえば只の殺し合いになってしまう。これは祭典なのだ。
年齢八歳以下の部は、なんとも微笑ましいものである。
双方強化魔術をかけられており、擦り傷すら負ったりはしない。
武器も模造剣、小さな試合場の外枠から出れば負けである。
九歳から十四歳の部になると、武器の種類が選べるようになる。
武器は模造ながら、強化魔術はかかっていないので怪我もする。
その為神殿から治癒術師が招かれ、試合中は常に待機している。
そして成人の部。大多数の者はここが目当てで集まっている。
武器制限は基本的になし。魔術制限もなし。当然怪我人が絶えない。
意図した殺害はさすがに失格行為に当たるものの、稀に死人も出る。
相手が降参、あるいは戦闘不能と審判が判断すれば、そこで決着。
ここで優勝、もしくは健闘した者は一躍名前が世間に知れる。
高額な賞金も魅力だが、名を知らしめたい者には持ってこいだ。
過去には優秀な成績を収めて、騎士へ取り立てられた者もいる。
もっとも、既に名声を得ている上位者はあまり参加していない。
上り調子の中堅が、更なる上を目指して挑む場合が殆どだ。
制式騎士団へ入れなかった兵士や、腕自慢の冒険者にとっては、
千載一遇の好機でもある。まあ滅多にいないのも確かなのだけど。
◆
王国武闘祭の成人の部参加者は、毎年数百名に上る。
今年はやや少なかったが、それでも二百九十一名。
年齢は最年少十五歳から最年長七十二歳。
正直試合後が心配になる。ここを墓地にされても困るのだが。
使用武器は小剣が最多で、以下手槍、手斧、棍棒と続く。
大剣や大鎌や大槍、大斧もいるが少数だ。使い勝手の問題だろう。
なにぶん相手は亜人種もいるが人型なのだ。魔獣ならともかく。
人数が人数の為、試合は三日間行われる。予選二日、本選一日。
本選に勝ち残れるのは三十二名。本日は本選、最終日である。
この試合、一方は今年入団したばかりの女性騎士。最年少の一人だ。
もう一方は三つ星の男性冒険者。年齢は二十歳らしい。
女性騎士は小剣に円盾、男性冒険者は手槍を構え、にらみ合う。
試合開始直後、向かってくる女性騎士に手槍を突き出す男性冒険者。
狙うは足元、足払いもそのまま突くもありそうな動きだ。
立ち止まり様子を見るかと思いきや、そのまま急加速する女性騎士。
男性冒険者はそれを見てすぐさま足払いを仕掛けているが、
既に彼の喉元へは小剣の刃が突き付けられている。
観客はさも自分達が歴戦の強者の様に、今の試合の感想を述べる。
「あーあ、女の子に負けちまうとは。賭けるんじゃなかったわ」
成人の部の本選では、公式で賭けが解禁されるのだ。
この口ぶりだとこの男は男性冒険者側に賭けていたらしい。
「いやいや、相手は騎士サマだぞ。強いに決まってるだろ」
「わかってないねえ。武闘会に強い騎士サマが出てくるかよ。
騎士団のお強い方々は、技を見られたくないから出ねえって。
残ってる選手で騎士サマ見てみろよ。みんな若いだろ?
若手に花を持たせる意味もあんのさ、この武闘祭はよ」
男の言う通り、本選三十二名に出ている騎士は皆若い。
三十二名中、実に二十四名が騎士だが、最年長で十八歳だ。
残り八名中五名が冒険者、残りは現役兵士となっている。
勝ち残れなかった騎士も、二十歳以下しかいない。
ちなみに予選敗退したのは騎士同士で当たったせいである。
「んじゃやっぱり騎士サマの方が冒険者より強いんかねぇ」
「そうなんじゃねえか?冒険者が優勝したのなんて知らねえぞ。
…あ、年齢ごまかしがバレて失格になった奴はいたっけか。
折角優勝したのに、ほんとは十二歳だったとかで。
んで、準優勝の騎士サマが繰り上げ優勝になったんだっけか」
「え、すげえなそいつ!なにもんだ!」
「確か五つ星冒険者だとか聞いたな。黒髪の女の子だった。
名前は…なんだったっけかな、忘れちまったが」
「十二歳の女の子で、ほんとだったら優勝かよ…冒険者すげえな。
あ、でも五つ星って確か上級冒険者じゃねえか。
そこまで強くなきゃあ騎士サマに勝てねえってことじゃねえか」
「ああ、そう言われればそうか。やっぱ騎士サマが強えんだな」
◆
やや離れたところで聞いていた少年は照れ臭い思いだった。
同僚騎士の試合を観戦しに来たのだが、自分の話題が出るとは。
自分の魔術が本職相手にどの程度通用するかと武闘祭参加を決めた。
性別を女性と偽れば、多分背の低さで年齢も誤魔化せると考え、
「女魔術師アレーナ二十歳」と名前も偽って参加したのである。
冒険者証の名前と年齢部分は、指で見えぬよう隠して。
身元保証人は都市国家同盟から来た知り合いの魔術師に頼んだ。
決勝戦ですら難なく勝利出来たので目的は達成したのだが、
最後の最後で胸当てが詰めものごと落ちて年齢詐称がバレた。
豊か過ぎる胸の少女から衣装を借りたのはさすがに失敗だった。
司会者は大声で、こんな平べったい二十歳がいるかと言い放つ。
後日その司会者は女性陣から袋叩きにあったらしい。
声変わりもまだで女顔だったから、最後まで性別はバレなかったが。
まあ「アレーナ」は謎の女魔術師なのだ。知る人物は少数だし。
◆
王国武闘祭は盛況のうちに終了した。
今回の優勝者は、少年の応援していた同僚の女性騎士である。
まあ彼女ならやるだろうと思っていた。王国最強騎士の孫娘だし。
「優勝者、一代騎士フロル嬢!」
制式騎士団や主だった騎士団は、身体強化魔術を会得しています。
借りた衣装は「むきむきの不向き」や「もっとかまえの構え」
以前に着ていた装備一式。見た目がまともなやつ。




