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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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第二の生

リオンの体は、まだ震えていた。

けれど、ミリウスの背は不思議とあたたかく、

まるで森そのものが彼を包んでいるようだった。


どこまでも続く木々の間を抜け、

やがて視界が開けた。


そこには――空へ突き抜けるほどの大樹が立っていた。

幹は何十人の手を合わせても抱えきれないほど太く、

枝葉は夜空を覆うように広がっている。

その根元に、淡い光の霧が漂っていた。


ミリウスはそっと膝を折り、

リオンを地面に降ろす。


「……ここは?」


『森の心臓部――“聖樹エルディア”のもと。

 あなたを守る場所です。』


ミリウスの声が優しく響く。

リオンが一歩踏み出すと、大樹の幹がゆっくりと脈打つように光った。


その表面が動き、木の中から“顔”が現れた。

皺だらけの木肌に、深い瞳。

苔むした枝を背に、まるで木そのものが人になったような姿――。


「……ようやく、会えたな。森の呼び子よ。」


声は低く、温かく、そしてどこか懐かしい。


リオンは息を呑んだが、怖さはなかった。

その声は、祖父に似ていたからだ。


「あなたは……?」


「私はトレイニー。この森の意志より生まれしもの。」

「森を護り、命を見守る者。そして――お前の友であり師となろう。」


リオンは目を丸くして頷いた。

ミリウスがそっと隣に座る。


「名を教えてくれぬか、呼び子よ。」


「……リオン。リオン・ヴァルド。」


「リオンか。うむ、良い名じゃ。

 “リ”は生命、葉、光。

 “オン”は恩、音、根。

 命を照らし、恩を返し、根を張る者――

 まこと、この森にふさわしい名だ。」


リオンは目を瞬かせた。

「そんな意味が……」


「そうとも。

 お前は森と同じく“与える者”じゃ。

 人の手に壊されても、必ず芽吹く。

 それが“緑”という色の本質なのじゃ。」


トレイニーはそう言うと、

ゆっくりと枝のような手を伸ばし、

リオンの頭に触れた。


木の肌は冷たくなかった。

むしろ日向のように温かい。


「家族のこと、本当にすまぬ。

 我らもお前なしでは動けなんだ。

 森は呼び子が現れて初めて息をする。

 だから、これからはお前が“森そのもの”になるのだ。」


その言葉に、リオンの喉が詰まった。

頬を伝う涙が地面に落ち、

柔らかい土に吸い込まれていく。


――その瞬間、足元の土がほのかに光った。

ぽつん、と小さな芽が顔を出す。

その芽は、たちまち緑の光を纏い、

リオンの涙を受けて花を咲かせた。


トレイニーは微笑んだ。


「泣くことは恥ではない。

 悲しみは、森にとって雨なのだ。」


 


「……お腹、すいた……」

ぽつりと呟いたその声に、トレイニーは大きく笑った。


「ははは! それはよい兆しだ。

 森の子は、よく食べ、よく眠ることから始まる。」


ミリウスが首を振ると、木々の間から

果実や木の実を吊るした枝が伸びてきた。

香ばしい匂い。蜜のような果汁が滴っている。


リオンは少し戸惑いながら口にした。

あたたかくて、甘かった。

ひと口、ふた口と食べるうちに、

胸の奥の冷たいものが少しずつ溶けていった。


トレイニーはその様子をじっと見つめ、

穏やかな声で言った。


「今日は眠るといい。

 森は夜のあいだ、お前の夢を見守る。」


リオンは目を擦りながら頷いた。

ミリウスがそっと体を横たえ、

その毛並みの中にリオンがもぐり込む。

森の匂い。木の鼓動。遠くで虫の声。


目を閉じると、母の声がかすかに聞こえた気がした。


「あなたが生きてくれることが、みんなの幸せなのよ。」


森の光がゆっくりと弱まり、

やがて闇と静寂が包む。


――こうして、森の呼び子リオンの“第二の生”が始まった。

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