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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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森の恵み

村に、はやり病が出た。

熱と咳が長く続く奇病で、治癒魔法も効きづらいという。


屋敷にその知らせが届いたとき、

母は迷わず立ち上がった。

「森に“青根草”が生えるはず。

 あれを煎じれば、熱は下がるわ。」


祖父が眉をひそめる。

「森の縁とはいえ、今の季節は魔獣が動くぞ。」

「だから、あなたも一緒に行くのよ。」

母は微笑んで言った。


「僕も行きたいです。」

会話の隙間で家族に進言したリオン。


祖父と母が突然の申し出に驚いたが、この子なりに村のことを思ってのことだろう。

それに緑色の魔法を授かった子だ。森が守ってくれるかも知れん。

不思議とそう思えた二人はその申し出を受け入れることにした。



霧の立ちこめる朝、

三人は森の入口へと向かった。

グレイヴウッド。

王都では“死の森”と呼ばれる場所。

けれどこの地の人々にとっては、

雨を呼び、水を与え、土を潤す“生の森”だった。


 


「ここから先は静かに歩くんだよ。」

祖父が低く言う。

「森は静けさを好む。余計な言葉は、風を乱す。」


リオンは頷き、深く息を吸った。

湿った空気が胸の奥に染み込んでいく。

木々の香りが懐かしかった。

幼い頃から、森の匂いを嗅ぐと落ち着くのだ。


 


森の中は薄暗く、けれど穏やかだった。

母は水の魔法で霧を払いつつ、足元の草を探していく。

「青根草は湿った場所に群生するの。」

彼女の指先に水の粒が浮かび、草の露と混じる。


「ほら、あったわ。」

母がしゃがんで指を差す。

小さな青い花が咲いていた。


リオンは隣で見ていた。

その花に手を伸ばした瞬間、

指先が淡い緑に光った。


 


風が一瞬止み、

花がリオンの方へ揺れた。

光は彼の掌から伝い、茎をつたって、

青根草がひとまわり大きく膨らむ。


「リオン……?」

母が息をのむ。

祖父がゆっくりと近寄り、

彼の手元を見て呟いた。


「緑の呼び子……」


リオンは顔を上げた。

「よびこ?」


祖父は短くうなずく。

「森に呼ばれ、そして森を呼び覚ます者。

 古い伝承にしか残っておらん。

 緑の呼び子が現れたとき、森は息を吹き返す――そう言われておる。」


母はそっとリオンの肩を抱いた。

「森はあなたを拒まない。

 ……きっと、病も助けてくれるわ。」


 


その時、木々の奥で枝が折れる音がした。

三人が同時に顔を上げる。

霧の向こうに、巨大な影。


鹿に似た姿。

けれど背には苔が生え、角は木の枝のように広がっている。

金色の瞳が、じっとこちらを見ていた。


母がリオンを抱き寄せ、祖父が杖を構える。

しかし、その獣は動かない。

ただ一歩、リオンの方へ進み――

鼻先で、彼の掌に触れた。


その瞬間、森のざわめきが消えた。

風が吹き抜け、木々が一斉に葉を揺らす。


そして、静かに去っていった。


 


森を出ると、空はすっかり晴れていた。

母が抱えていた籠の中の青根草は、

どれも瑞々しく光を帯びていた。


祖父は空を見上げて言った。

「森が応えた。……緑の呼び子が、戻ってきたのかもしれんな。」


リオンは無意識に、掌を見つめた。

そこにまだ、微かな緑の粒が光っていた。

それはまるで、森の心臓の鼓動のように――

あたたかく、静かに、息づいていた。

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