森と生きる家
リオンたちの家は、王都から三日の距離にある小領地、ヴァルド領。
国境と森の際に立つその屋敷は、石造りで古く、けれど清潔だった。
門をくぐると、花壇の匂いが風に乗って流れてくる。
母の手入れした青い花が一面に咲いている。
祖父はその奥で土をいじっていた。
「帰ったか、リオン」
祖父は笑い、手についた土を払う。
「色授はどうだった? お前の光、見たかったぞ」
リオンは少し俯いたが、母が答える。
「とてもきれいだったの。やさしい緑の光よ」
祖父は一瞬目を細めて、空を見た。
「緑か。久しい色だな……」
その声には懐かしさのような響きがあった。
ヴァルド家は代々、森とともに生きる家だった。
魔獣や魔物が出る時、最初にそれを察知し、領地を守る。
同時に森の恵みを人々に分け与える、奇妙な家でもある。
他の貴族たちは森を“厄介な土地”と呼んだ。
だがヴァルド家だけは違った。
森は敵ではなく、隣人だった。
リオンは翌朝、父と一緒に屋敷の裏の丘へ出た。
剣の稽古の時間だ。
父は風の魔法を使う。
構えた瞬間、剣が空を裂くように軽やかに動いた。
「風はな、止めるより流すものだ。力で押すな、導け」
リオンは汗を拭きながら何度も頷いた。
昼には母と祖父と一緒に畑へ行く。
母は水魔法で土を湿らせ、祖父は土の力で栄養を整える。
「見ろ、魔法ってのはこうして人を助けるものなんだ」
祖父の声に、リオンは土の匂いを嗅いで笑った。
「僕もいつか、できるようになる?」
「できるとも。お前の色は命の色だ。必ず育つ」
その夜。
リオンは窓辺で風に耳を澄ませていた。
森の方角から、かすかな光がまた見えた。
昼間の草と同じ、あの緑の粒子。
(森が……僕を見ているのかな)
外では虫の声。
母の笑い声。
祖父の咳払い。
全部、ひとつの呼吸みたいに感じられた。
リオンは小さく呟いた。
「僕も……森と一緒に、生きてみたいな」
その夜、夢の中で――
森の奥から柔らかな声が囁いた。
――いつか来るよ。緑の子。
この森は、ずっと君を待っていた。




