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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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獣人国オルドア ― 赤月の晩餐

同じ頃、南の大地では赤い月が昇っていた。

 獣人国――オルドア。

 血と炎の匂いが満ちる都トゥルグの広間で、

 大将軍ヴァルク・ザルドは、古びた地図を睨みつけていた。


 


 「北の森が……光った、だと?」


 斥候が頭を垂れる。

 「はい。炎ではなく、緑の光。草木も獣も異様に息づいておりました。

  あの森がまるで――生き返ったようで。」


 ヴァルクは牙をきしませた。

 「生き返った? 笑わせるな。

  森が息を吹き返したのなら、それは狩りの神の祝福だ。

  ――我らの獲物が戻ったというだけの話だ。」


 


 その言葉に、広間の獣人たちが唸り声を上げた。

 「狩りだ!」

 「肉も蜜も、すべて森の恵みだ!」

 「人間の街より、ずっと肥えてるぞ!」

 「血と牙で宴を開こうじゃねえか!」


 杯が叩き合わされ、肉の焼ける匂いが濃くなる。

 彼らにとって森とは“神聖”ではなく“豊穣の狩場”でしかなかった。

 命の理など知らず、ただ生を競うことこそが正義。

 それがこの国――獣人国オルドアの掟だった。


 


 だが、ひとりの老臣が一歩進み出る。

 「待たれよ、将軍。

  あの森にはいくつもの超常たちが棲むと伝わっております。

  そのどれもドナミントとして実在しているのです。

  むやみに踏み込めば、国に禍が。」


 ヴァルクは低く笑った。

 「ドナミント……か。

  森の理を守るという“王”どもだろう?

  ならば一度、力を比べてみるのも悪くない。

  この世に理があるなら、それを決めるのは牙の強さだ。」


 兵たちは雄叫びを上げ、拳を掲げた。

 「牙が理! 力が正義!」

 「神をも噛み砕くのが我らの誇りだ!」


 


 壁際では、狐獣人の文官ラニカが息を呑んだ。

 戦を好まず、記録と交渉を担う希少な文官。

 「……将軍、もしその“理”が森のものなら、

  それを壊すことは、この国の理をも崩すことになるやもしれません。」


 ヴァルクの拳が机を砕いた。

 「黙れ、毛抜き狐。

  理を測るのは言葉ではない、牙だ。

  折れる前に噛め。それが獣人の理だろうが!」


 ラニカは唇を噛んで頭を下げる。

 周囲の兵たちは笑い、杯を掲げた。

 「狐はまた算盤でも舐めてろ」「理を噛めない獣は森に帰れ!」

 ――この国では、知恵は力に跪くのだ。


 


 ヴァルクは再び立ち上がり、地図を睨んだ。

 北――森の位置を、指で押し潰すようになぞる。

 「森が生きたのなら、その血を吸い上げるのが獣人の理。

  奴らが神を持つなら、我らは牙を神とする。」


 赤い月の光が広間を染めた。

 そのとき、炎の影が壁を滑り、

 深紅の瞳が一瞬だけヴァルクを見下ろした。


 


 ――“咆哮王ティグラド”であった。


 影の中の声が低く響く。

 「お前らではドナミントの相手は少し骨が折れるぞ」


 ヴァルクは即座に片膝をつき、頭を垂れた。

 「恐れながら、ティグラド様。

  森は我らの狩場。牙を研ぐのは理のためにございます。」


 「……好きにせよ。」

 ティグラドの声が空気を震わせた。

 「ただし、忘れるな。

  理の座に立つのは“力”を持つ者だけ。

  お前の牙がどれほど鋭くとも、力を持たぬ者は朽ちる。」


 その言葉を残し、影は消えた。

 だがヴァルクは、深く頭を垂れたまま笑っていた。

 「この牙さえあれば神でもなんでも噛み砕ける。」


 


 赤い月の下、獣人たちが再び咆哮を上げる。

 戦と狩りの声が、夜空を震わせた。

 彼らは知らなかった――

 “森の理”というものを。それらがすべて根として絡み合っている。

 森に手を出すことは、森のすべてを相手にすると同意義であることが結びついていなかった。

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