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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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王の間に響く影

 王都ルーヴェリア。

 冬を前にした朝の空気は冷たく、王城の回廊には白い息が漂っていた。


 謁見の間。

 今日そこに集められたのは、王国を支える主要貴族と辺境伯家の使者たち。

 玉座の前には、金糸の衣をまとった王と、その隣に控えるオルネス辺境伯の姿があった。


 


「――では報告を。」


 侍従の声が響く。

 一歩前に出たのは、ガルド家の老当主だ。

 背筋を伸ばしながらも、その眼には嘲りの光があった。


「陛下。東の森、旧ヴァルド領で異常な光が確認されました。

 夜ごとに輝き、鳥獣の活動も活発化しておるとか。」


「……緑の光か。」

 王が低く呟く。


「そのようでございます。もしや、あの忌まわしい“緑魔法”が再び芽吹いたのでは?」


 ざわめきが広がる。

 老貴族たちが互いに顔を見合わせ、ざっと一斉に同調した。


「ヴァルドを滅ぼしてなお病が治まらぬのは、そのせいだ!」

「民の恐れは限界に達しておりますぞ!」

「陛下が沈黙なされば、王都に疫が広まるやもしれませぬ!」


 


 王はゆっくりと立ち上がった。

 「……その森は、我が臣ヴァルドの治めた地。

  あれほどの家が滅んでもなお、病は消えぬ。

  ゆえにこそ、安易に“魔の森”と断じることは許さぬ。」


 静かな声だった。だがその一言に、場の空気が緊張する。


 


 すぐ隣で、オルネス辺境伯が一歩前に出た。

 白髪を後ろに束ねたその姿は、威厳に満ちている。


「陛下のお言葉に同意いたします。

 あの森は、確かに人が容易に踏み入る場所ではありません。

 だがヴァルド卿は――我が友は――

 あの地を“命を育む森”として治めていた。

 その理を、我らが汚すべきではない。」


 その言葉に一部の若い貴族たちが眉をひそめる。

 その中に、ガルド、セリア、アーレスト――

 かつて宴でリオンと顔を合わせた三家の嫡子がいた。


 


 ガルドが皮肉げに笑う。

 「辺境伯殿はずいぶんと“旧友”に情が深いようだ。

  だが現実を見ていただきたい。病は未だ広がり、

  南の交易路は荒れ、我らの領民も苦しんでおる。」


 セリア家が扇を開き、穏やかに言葉を添える。

 「わたしたちは陛下をお助けしたいのです。

  もし森が“穢れ”に飲まれているのなら、

  その原因を探り、断ち切るのが臣の務めでしょう?」


 アーレスト家は、さらに踏み込んだ。

 「陛下。調査の名のもとに我々が動けば、

  民も安心し、噂も鎮まるはずです。

  森に潜む何者か――たとえ人ならぬ者であっても、

  王国の秩序を脅かすものは排除すべきかと。」


 


 辺境伯は沈黙したまま、三人を見つめる。

 王はわずかに目を細めた。


「……そなたらの言葉には一理ある。

 だが、森の理を乱せば、さらに災いを呼ぶやもしれぬ。」


 しかし、そこに割り込む声があった。

 「陛下、それは恐れに過ぎませぬ!」

 声の主は、反王派の筆頭――セリア家の老女当主だった。

 白粉の下から、紅い瞳が妖しく光る。


「民は今、王に“行動”を望んでおります。

 王が手を打たねば、王家こそが“疫の元凶”と囁かれましょう。」


 その言葉に、王の表情が凍る。

 オルネスはわずかに前へ出たが、王の手がそれを制した。


 


「……ならば、我が名で調査を許可しよう。

 だが――森を焼くことは許さぬ。」


 その宣言に、場内がざわつく。

 貴族たちは一斉に頭を下げながら、互いに視線を交わした。


「ふふ……“焼くな”とは、焼けと言われたも同然ですな。」

 ガルドが低く笑う。

 セリアは扇の影で口元を隠し、アーレストは沈黙したまま頷く。


 その瞬間、王と辺境伯は確かに悟った。

 ――この調査は、“討伐”として始まる。


 


 会議が終わったあと、オルネスは王の執務室で静かに言葉を交わした。


「……止められませなんだな。」


「民の恐怖を抑えるには、血を流すしかないと……彼らはそう信じている。」


「愚かですな。恐怖に対して流すべきは、血ではなく慈しみ。

 我らが友ヴァルドは、それを知っていた。」


 王は沈黙したまま、机の上の古びた木の欠片を撫でた。

 それは、以前ヴァルド家の庭から贈られたもの――

 緑の息吹を宿した、ただの小枝。


「オルネス。……もしリオンが生きているのなら、

 せめて、守ってやってくれ。」


「御意。」


 


 オルネスは静かに頭を下げた。

 その背を見送りながら、王は目を閉じる。


 ――森の理は、生きている。

 それを知る者が、今はもうわずかしかいない。

 だがその理は、確かに誰かの血と誓いの上に続いていた。

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