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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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命の都

フェルンとの戦が終わり、森にようやく静けさが戻った。

焦げた土の匂いがまだ残る。

折れた木々、えぐられた地面。

命を守ったはずなのに、そこにはたしかな“痛み”が残っていた。


リオンは跪き、土を掴んだ。

指の間から、黒く焦げた破片がこぼれ落ちる。


ミリウスがそっと近寄り、柔らかな声で言う。


「理を掲げる者は、形を持たねばならぬ。

 理を守るには、理を支える“形”がいるのだ。」


リオンはうなずく。

それが、次の“創造”の始まりだった。


「よーし、リオ助! 修復だ!」

 ブランが腕のような根を大きく振る。


「燃えた木や蔓、みんな再利用できる。生き返らせてやろうぜ!」


リオンは地に手を当て、魔力を流した。

灰になったはずの木片が、微かに緑の光を帯びる。

ひとつ、またひとつ――細い蔓が芽吹く。


「今度はもっと強く。……マイクロ蔓。」


それは髪の毛よりも細い蔓だった。

だが、リオンはそれを数百、数千と束ねて編み上げる。

そこへ蜘蛛のスピネラたちが集まり、

自慢の糸を絡めて補強していった。


「リオン様、この糸は湿気で強度が増します。風雨にも耐えられますよ!」


「助かる、スピネラ。じゃあ、これを樹皮の繊維と混ぜて……」


ブランが地面をドンと叩く。

 「よし、根の力で固定してやる!」


大地の下では熊族の長ドランハルトが

灰色の粉を混ぜながら笑った。


「リオン様、この“土精粉”と樹液を混ぜると岩のよりも固くなりますぞ

 固まる前なら自由に形を変えられる。建築にうってつけで!

 その名も植物のセメント……“緑繊構樹りょくせんこうじゅ”。」


彼らが協力して築き上げたのは、

生きて呼吸する砦だった。

外壁はしなやかな植物の繊維で覆われ、

内側は弾力のある蜘蛛糸の膜が衝撃を吸収する。


風が吹けばわずかに揺れ、

雨が降れば樹皮が水を吸って固まる。

まるで“森そのもの”が盾となっていた。


ミリウスは枝越しにその光景を見て微笑んだ。

 「理が形となっていますね。」


トレイニーも頷く。

 「森が笑っておるのう。リオンよ、これはもはや“家”ではない。命の城塞じゃ。」


防壁の修復が進む中、姉妹が駆け寄ってきた。


「リオン様ー! 畑が壊れちゃってますー!」

「野菜たちがかわいそうです!」


リオンは畑の跡地を見下ろす。

多くの作物は倒れ、地面は踏み荒らされていた。

しかしその奥に――わずかに芽吹く緑を見つけた。


「……君たちは、まだ生きてるんだね。」


そう呟くと、リオンはふと空を見上げる。

枝の間から差し込む光が、まだ温かい。


「森を壊さずに育てる方法……

 うん、空を使おう。」


 


リオンの緑魔法が光る。

根が伸び、蔓が絡まり、

空へと階段のように棚が組み上がっていく。


その上に、果実、野菜、薬草――

それぞれが共に育つための配置を描いていく。


 上層には太陽を好む果樹と花、

 中層にはツル性の豆や葉菜、

 下層には湿気を好む茸や香草。


三姉妹が歓声を上げる。


「空に畑ができたー!」「まるで森の家みたい!」「登って採れるなんて楽しそう!」


熊族の若者たちも唸った。

 「重さで崩れねえのか?」

 「根が互いに支え合ってるんだ。一本倒れても、全体が立ってる。」


トレイニ―が感心したように言う。

 「巡りの理を、空へと伸ばしたか。まこと見事じゃ。」


リオンは笑って答える。

 「森はもう十分、僕を護ってくれた。

 今度は、僕が森を護る番だ。」


 


それが、森初の“空中段畑ヴァーティルガーデン”の誕生だった。

その仕組みは、のちに他の地域にも伝わり、

「森の文明」の象徴となっていく。


リオンは疲れた体を休めながら、花畑の中を歩いた。


そこでは、蜂族の女王ミュリエルが羽を震わせていた。

 「リオン様、この花々の蜜、とても芳醇です。

  少しだけ……採っても?」


リオンは微笑んでうなずく。

 「いいよ。森のみんなで分け合おう。」


ミュリエルが飛び立つと、光る花粉が宙に舞い、

甘い香りが風に乗った。

花の間では、熊族が作った樹脂の壺が置かれ、

香油や薬液を精製する小さな工房ができていた。


そこに、スピネラが糸を垂らして降りてくる。

 「リオン様、この糸、香草と混ぜると病よけの効果があるのですよ。」

 「すごいね。……これで森をもっと心地よくできる。」


バジル、ミント、ローズマリー、オレガノ、メープル、そして塩の樹。

リオンが配置した植物たちは互いに香りを交わし、

病を防ぎ、実りを倍にしていった。


ブランが葉の陰でごろりと寝転ぶ。

 「まるで楽園じゃねぇか、リオ助。」

リオンは小さく笑った。

 「でも、これがスタートだよ。

  森を生きるって、きっとこういうことなんだ。」


夕刻、トレイニーが大樹の上から全景を見渡す。

森の中に広がる新しい集落。

生きた壁、空へ伸びる畑、光る花々の道。


グロウヴァンの低い声が大地の奥から響く。

 「よくぞここまで築いた。

  お前の創るものは、命の理そのものだ。」


ミリウスの角が淡く光る。


フェルンが枝の影から姿を見せた。

 「森の外――獣人どもが光を見てざわついている。

  “森が蘇った”と。」


 リオンは静かに拳を握る。


 「なら、護らなきゃね。

  森を、みんなを、そしてこの“理”を。」


 大樹がざわめき、森全体が応えるように風を吹かせる。

 花々が香りを放ち、蔓がきしむ音が歌のように重なった。


 ――それは、“命の都”の誕生の音だった。

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