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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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森の理(ことわり)を知る章

 風が止み、森が息を潜めた。

 大地は沈黙し、ただ、埋められた巨躯が呻く音だけが響く。


 ――覇狼フェルン。

 その三つの頭はなおも動き、赤・蒼・紫の三つの瞳がリオンたちを睨めつけていた。


 


「……殺しはせぬのか」


 低い声が響いた。中央の頭が、蔓に拘束されながらも嘲るように言う。

 リオンは静かに首を振った。


「殺したくない。生き物はいつか死ぬ。でもきっと今じゃないと思うんだ。

命はめぐっていくけれど、芽生えた命はみんな全うしてこそじゃない?

間違っているかな、ミリウス」


 背後で、鹿の聖獣が小さく角を傾ける。

 淡い光が森の闇を押し返すように満ちていく。


「ならば、何のために戦った」


「命をとるためじゃない。――分かり合うためだよ」


 


 三つの頭が一斉に笑った。嗤いとも、感嘆ともつかない声。


「理を知らぬ子が理を語るか。だが……面白い。」


 フェルンは静かに目を閉じた。

 彼の声は次第に、どこか寂しげなものへと変わっていった。


 


「この森は変わった。草は芽吹き、風はざわめき、

 弱き獣たちがそれぞれ理を持ち始めた。――お前が来てからだ。」


「僕のせい……なの?」


「せい、ではない。理の巡りが動いた。

 秩序を守るため、我らは群れを鎮めに来た。

 ……だが、力ではなく“命”で治めようとする者がいるとは、思わなんだ。」


 


 その場にグロウヴァンとミリウスが並ぶ。

 二頭の巨獣は互いに視線を交わし、やがてリオンの方へ向き直る。


「リオン。この森には、彼らのような存在が他にもおる」

「ドナミント――森に根づく理の体現者、超常たちじゃ」


 トレイニーの声が大樹を伝って響いた。

 フェルンが鼻を鳴らす。


「理を超えた者、神話のものたちや他に恐れられる妖、魔獣たち。

 森の生と再生の象徴=森王ミリウス

 山の覇者、森の根を統べるもの=地王グロウヴァン

 ……そして黒月の覇狼のわしは夜を守る。」


「夜?」

リオンをはじめみな青空を見上げる。

「ここはその大樹とミリウスがいる。昼も夜も多分関係なかったって話よな」

ブランが補足する。


「でも、みんな仲間じゃないの?」


 リオンの問いに、トレイニ―が枝を揺すりながら顔を横に振った。


「思いはそれぞれじゃ。

 共に歩む者もあれば、争いを選ぶ者もおる。

 理とは一つではないのじゃ。」


 ――森の内にも、光と影がある。

 それが、少年が初めて知る“世界の広さ”だった。


 


 フェルンは拘束された体をわずかに動かす。

 赤の目がリオンを見据えた。


「秩序を乱す者として来た。だが……違うな。

 お前の理は、命の巡りそのもの。

 お前の理が、我らを超えるかどうか見ておいてやる。」


 


 リオンは考え、そして微笑んだ。


「どうしたらわかってくれるかわからないけれど、

 まずはごはんにしない?丁度お昼時でしょ?」


 そう言って両手を地にかざすと、柔らかな緑光があふれ出した。

 土がふくれ、蔓が伸び、やがて大きな蕾が咲く。

 そこからは、肉のような香りを放つ赤い果実が実った。


「命を奪わずに、命を養う――“トリノミート”。」


 フェルンの三つの目が、驚愕に見開かれる。

 風が静まり、森全体が息をのんだようだった。


「……理なき創造だ。だが、これほど美しい理もあるのか。」


 


 リオンは手のひらを差し出した。

 フェルンは一瞬ためらい、やがてその上に額を近づける。


「いいだろう。森を護るためなら、この牙を貸そう。」


 その言葉を聞いて、ミリウスとグロウヴァンが同時に頷いた。


「これで、一柱は鎮まったのう」

「だが、森にはまだ荒ぶる理がある」

「……なら、歩こう。みんなで。」


 


 大樹の根元で、三頭の巨獣と一人の少年が並び立つ。

 風がやさしく吹き抜け、森全体が静かにざわめいた。

 それはまるで――森そのものが、リオンの選んだ“共生”の理を祝福しているようだった。

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