森の風
王都を離れる馬車の中。
夕陽が石畳を照らし、光が少しずつ赤から橙に変わっていく。
リオンは窓の外を眺めていた。
遠くに見える塔が、小さくなっていく。
今日、あの塔の下で光を授かった。
でも、胸の奥にあるのは喜びではなかった。
「……元気ないね」
母がそっと肩に手を置く。
リオンは小さく首を振った。
「ううん、疲れただけ」
父が笑う。
「それはそうだ。王都の空気は重いからな」
母も笑みを返す。
「でも、あなたの光はきれいだったわ。やさしい緑。あれ、私は好きよ」
リオンは、少しだけ笑った。
でもその笑顔はすぐ消える。
頭の中で、何度もあの声が響く。
『緑? 農耕か』『戦では使い道がないな』
みんなの笑い声がまだ耳に残っていた。
「ねえ、父さま。緑って、やっぱり……弱いの?」
「弱い? どうだろうな」
父は空を見上げた。
「弱いか強いかを決めるのは人間だ。だが――自然は、そんなこと気にしない」
「自然?」
「そうだ。大地も風も、命も。皆、強いとか弱いとかで動いてるわけじゃない。
お前の色は、それを感じ取る力なんじゃないか」
母が優しく笑った。
「リオン。あなたの光は、ママの目にはやさしく映ったわ。
だから、きっと世界にもやさしいんだと思うわ。」
その言葉を聞いた瞬間、
窓の外の草が、風に揺れた。
他の草よりも、わずかに大きく。
まるでリオンの方を向いたように。
リオンは思わず身を乗り出した。
「……今、動いた」
「風だろう?」と父は笑ったが、
母は目を細めてその草を見ていた。
その草の周りには、光がほんの少しだけ集まっていた。
まるで、緑の粒が舞っているみたいに。
やがて馬車は森の近くを通りかかる。
日が落ちかけ、木々が黒い影を落とす。
けれどその中に――
確かに“光るもの”が見えた。
淡い緑の光。
遠く、森の奥で瞬くように、何かが呼んでいる。
リオンは息を呑んだ。
(森が……光ってる?)
母が気づいて覗き込む。
「どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
馬車はそのまま走り去る。
でもリオンの瞳は、ずっと森の奥を見つめていた。
まるで、そこに“誰か”がいるような気がした。
その夜、彼は夢を見た。
風の音と、草のざわめき。
やさしい声が囁く。
――おかえり。
リオンは目を覚ます。
森の方から、微かに緑の光が流れていた。




