熊たちの暮らしと森の知恵
リオンの畑が広がるころ、熊族は森のふもとに住処を構え始めた。
彼らの暮らしもまた森の力と共にある。
樹皮で組んだ屋根、苔で覆った壁、
根を編んでできた床は、雨の日でも柔らかく温かい。
焚き火の煙は天井の蔓を伝って外に抜ける。
どの家も森の匂いがした。
ドランハルトは誇らしげに言う。
「我ら熊族は、森と喧嘩はいたしません。
倒した木はその根の命を継ぎ、
燃やした炭は土に返してやる――それが我らの掟。」
リオンは感心してうなずいた。
「まるで森のくまさんだね?」
「はて、私たちははちみつというものを食べたことがないもので…」
「よくはちみつを知っていたね、この森にもあるのかな?」
「私たちの山間では見かけませんでしたね。でもきっとどこかにはあるのでしょう。
森は何でもできる。リオン様がそう願えば」
トレイニーの声が大樹から響いた。
「奪うだけでは命は続かぬ。返すことを知る者、それがこの森の民じゃ。」
熊たちは昼になると畑に集まり、
リオンとともに新しい作物の区画を作った。
熊族は土魔法や水魔法が得意らしい。
一緒に土をふかふかにしたり、水分を調整して丁度よい土の状態にしてくれる。
苗を植え付けるのは前日に水やりをして落ち着かせるのが一番なのだが、
彼らのおかげで一瞬だ。
「ここのお肉の畑に合わせて“香りの苗”を植えようか」
突然の予定変更にモルム三姉妹が事前に用意していた種を落とす。
「どうしてですかりおんさまー」「あっ待って種さん~」
「肉の畑を見てそうした方がいい気がしたんだ」
リオンはモルム三姉妹が落とした種を無造作に緑の光を走らせた。
それらは肉の植物(鶏肉に近い味なのでトリノミートと命名)の株間で草が芽吹く。
紫の花を咲かせる「ミルナ草」は、病気を寄せつけない香気を放ち、
その隣に植えた「ルスの花」は根に微生物を宿し、
土をやわらかくして呼吸させた。
もちろん実は食べれる。そういう風に願った。
昔家の庭で母上がトメトとバシルを一緒に植えるとお互いの香りが一層増して品質が良くなる話を聞かされていた。
「きっとそのお話のおかげだね」
リオンは少し目を細めながら作業を続けた。
「この花の根は土を元気にするんだ。」リオンが説明する。
「森の命が長く続くように、みんなで助け合ってる。」
ブランが腕を組みながらにやりと笑った。
「おいリオ助、こいつら仲良すぎて絡まってんぞ。」
「それでいいんだよ。」リオンは笑う。
「人も森も、支え合って生きていくんだ。」
熊族の子どもたちは力仕事をしながら、
香草の匂いに鼻をひくひくさせている。
「なあリオン様、この草……いい匂いだな。」
「それは“サンローラ”っていうんだ。
一緒に育ってともに美味しくなるし
乾かして肉と一緒に焼くと、さらに香ばしくなるよ。」
「ほう……!」熊たちの目が輝く。
「さすが呼び子様だ! これは食の革命ですな!」
ブランが笑う。
「食べることに関しちゃお前らのやる気、百点だな。」
リオンは思わず笑って言った。
「でも、森が笑ってるならそれでいいよ。」
夕方、畑から立ちのぼる香りは森の風と混ざり、
森全体がひとつの“食卓”のように温かく包まれていた。
花が虫を呼び、虫が実を運び、
土が息づき、命が還っていく。
それを見てトレイニーが静かに告げた。
「森は巡り、息づく。
お前の手が、命を循環させておるのじゃ、リオン。」
リオンは胸に手を当てて笑った。
「ありがとう、みんな。あしたも美味しくてかわいいものを作ろうね」
その夜、熊族の焚き火の周りでは
肉の実と香草を焼いた匂いが漂っていた。
森の風がそれを運び、どこかで蜂の羽音がふわりと響いた。




