森の誓い
外から差す木漏れ日が、ゆりかごの蔓を淡く照らしている。
小鳥の声。草の揺れる音。
静かな朝――のはずだった。
外に出た瞬間、
リオンは息をのんだ。
大樹の根元から森の小道まで、
ずらりと並ぶ影。
木々の間を縫うように、数十人が整然とひざまずいていた。
その姿は、どこか神々しかった。
しなやかな体躯。
額から伸びる白金の角。
淡い緑や銀の衣をまとい、胸に手を当てる仕草は一糸乱れぬ。
「……あれ?」
最前に進み出たのは、金の髪をした青年。
その声は、森の風のように静かで、優しかった。
「森の呼び子、リオン様。
私たちは鹿族シルヴァーン。
古来より聖獣ミリウス様の補佐を務め、
森の理を守る一族でございます。」
リオンは、慌てて頭を振った。
「そ、そんな……僕、そんなに偉くないよ!」
青年は静かに微笑んだ。
「いいえ。
あなたがこの森に入られた瞬間から、
木々がざわめき、風が歌い、獣たちが目を覚ましました。
森は、再び“命の循環”を取り戻したのです。」
「だから――我々は、あなたに仕えに参りました。」
彼の言葉に合わせて、鹿族たちが一斉に頭を下げた。
大地にひれ伏すように。
風がそっと吹き抜け、木の葉がひらひらと舞う。
リオンはその光景に胸がいっぱいになった。
昨日までただの子どもだった自分が、
こんなふうに“誰かに認められている”。
そのとき、背後の大樹トレイニーが低く笑った。
「よい、よい……これぞ森の理。
森の呼び子が現れたのは、数百年ぶりじゃ。
シルヴァーンの者たち、
おぬしたちもまた、この巡りの中に加わるのだ。」
鹿族の青年――リエルが静かにうなずいた。
「はい、トレイニー様。
私どもは、リオン様の御傍で森の均衡を保ちましょう。」
リオンは慌てて言った。
「そんなにかしこまらなくていいよ! えっと……僕、リオンでいいから!」
リエルが微笑んだ。
「承知いたしました、リオン様。」
「……いや、様はいらないってば!」
そのやりとりに、ブランが大笑いした。
「ははっ、こりゃすげぇなリオ助! お前、朝から信者が増えてるぞ!」
モルム三姉妹もひそひそ話す。
「すごいですね……」「まるで王様みたいです」「でもまだ髪ボサボサですー」
リオンは顔を赤くして髪を直した。
リエルは静かに微笑み、続けた。
「さて……我らが遅れた理由をお伝えせねばなりません。
あなたがこの森に来られてから、
森の各地で“ざわめき”が起きたのです。
興奮する獣、暴れ出す精霊、光を放つ花。
それらを鎮め、整えるのに少し時間を要しました。」
リオンは目を丸くした。
「そんなことが……僕のせいで?」
「いえ、リオン様の“到来の証”です。
森があなたを受け入れたがゆえに、命が騒いだのです。」
トレイニーの声がまた響く。
「そうじゃ。森は長く眠っておった。
その眠りを破ったのは、リオン――お前の“生きたい”という願いじゃ。」
リオンは静かに胸に手をあてた。
森が、自分を受け入れてくれた。
その想いが、あたたかく広がる。
「ありがとう、みんな……僕も、この森を守るよ。」
鹿族たちは再び頭を下げた。
「その御心に、我らの矛と祈りを捧げましょう。」
森の奥で、ミリウスの鳴き声が響いた。
清らかで、優しく、それはまるで祝福の音。
リオンは、微笑んで空を見上げた。




