想いの芽
木の実スープの香りが森中に広がっていた。
リオンはブランの隣で木の匙を振るい、
焦げかけた鍋の中身を慌ててかき回していた。
「おっとっと! 焦げる焦げる!」
「ブラン、そんなに火つけたら!」
「へへっ、勢いが大事なんだよリオ助!」
ブランの根の腕が薪を放り込み、炎がぶわっと上がる。
「勢いじゃ鍋はできないよ!」
リオンが叫ぶと、鍋の中から「そうですよー!」と声がした。
三姉妹がきょとんとする。
「……鍋、しゃべりました?」
リオンがのぞきこむと――にんじんさんがぷかぷか浮かび、
スープの上で仁王立ちしていた。
「リオン様ぁ! わたくし、ひとつ分かりました!」
「え? な、なにを?」
「“思うこと”です!」
「思う……こと?」
「はい! リオン様が“ああなればいいな”って思ったら、
その“想い”が種の形になるのです!
にんじんのわたくしも、リオン様が“誰か話し相手がいれば”と思ったから、こうして目ができました!」
リオンはぽかんとした。
「……そんなことで?」
「そんなこと、が大事なんですよ!」
にんじんさんが両手(葉っぱ)を腰に当てて言う。
「“想い”がなければ命は芽吹きません。
リオン様は“願いを形にする”魔法を持っているんです!」
ブランが目を丸くした。
「じゃあ、リオ助の魔法って……心で育てるやつってことか?」
「そういうことになります!」
三姉妹がわっと盛り上がった。
「じゃあ、プリンもできますか?」「ベリーケーキも!」「あとお風呂も!」
「ええと、それは……順番にね!」リオンは笑った。
リオンは地面に手を当て、
ゆっくりと目を閉じた。
頭の中に、小さいころ母が作ってくれた果実パンを思い浮かべる。
あの甘い香り、あたたかい笑顔。
……育て、果実の実。
心の中でそうつぶやいた瞬間、
地面がふわりと光った。
小さな芽が顔を出す。
次の瞬間、ぶどうのような房が実り、
それがぱんっと弾けて――焼きたてのような香りが広がった。
「……できた!」
ブランが感嘆の声を上げた。
「なんだこれ、甘ぇ! しかもふわふわじゃねぇか!」
三姉妹が跳ねるように集まってくる。
「美味しいですー!」「森の香りがします!」「これ、幸せの味ですー!」
にんじんさんは誇らしげに胸(葉っぱ)を張った。
「ほらね、言ったとおりでしょう?」
リオンは少し目を伏せ、
胸の奥があたたかくなるのを感じた。
“想うことが、命を育てる”
母の笑顔、家族のぬくもり、
全部、ちゃんとここに息づいている。
リオンは小さく笑った。
「ありがとう、にんじんさん」
「どういたしまして!」
ぴょこっと跳ねるその姿に、みんなが笑った。
森の風が吹き抜けた。
木々の葉がざわめき、まるで「おいしかったよ」と囁くようだった。




