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緑魔法で滅びた貴族、森で世界を取り戻す  作者: Uta


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13/28

灰にまみれた晩餐

焦げた鉄と血の匂いが、夜風に混じって漂っていた。

ヴァルド家の屋敷が焼け落ちた夜、

そのすぐ翌晩には、

中央から派遣された使者と地方の貴族たちが、

“討伐戦の功労者会議”と称した宴を開いていた。


長卓の上には豪華な料理と酒。

だが、その香りの底にはまだ消えぬ灰の臭いがあった。


「見事なものでしたな。」

セリア家の当主が満足げに笑う。

「緑の魔法の反乱などと騒がれていましたが、

 結局は一族ぐるみの慢心。

 王国に仇なす芽は、早いうちに摘むべきでした。」


「まったくだ。」

ガルド家の男が鼻で笑う。

「あのヴァルドの血族は“森の加護”などと民に吹聴し、

 平民にまで慕われていた。

 そんな者を生かしておけば、国が腐る。」


「民心を操り、森の恵みを独占した。

 ――処断されて当然だ。」


「ええ、“上”も満足しておられます。」

静かな声が卓の端から響いた。


そこにいたのは、黒い外套をまとった一人の使者。

顔はフードの陰に隠れ、

年齢も性別も判然としない。


「“上”とは……どなたのことかな?」

セリアが問うと、

その使者は微笑した。


「この国を導く“意思”です。」


誰も、それ以上問わなかった。

その声には奇妙な説得力と、

底の知れぬ冷たさがあった。


「さて、分け前の話だ。」

ガルドが手を叩くと、

地図が卓上に広げられる。


「ヴァルド領北部の麦地は我が家に。

 南の森の入口はセリア家が管理する。」


「……森の入口?」

セリアが眉をひそめる。


「なに、名目だけの土地だ。

 森など切り拓けばいい。

 資源も獣もすべて我々のものになる。」


使者の声が低く響く。

「森を壊すのは、

 いつだって“進化”の始まりです。」


その言葉に、一瞬、

部屋の温度が下がったように感じた。


ただひとり、

杯を手にしていない者がいた。


辺境伯オルネス。

彼は沈黙のまま、

焼け跡の方角を見つめていた。


「辺境伯殿。」

ガルドがわざとらしく声をかける。

「どうなさいました? 旧友の最期に涙ですか?」


「……涙を流すほど、私は若くない。」

オルネスは低く言った。

「だが、焼くに値しない者まで灰にしたとすれば、

 その火は、いずれ我々をも焼く。」


「お優しいことで。」

セリアが鼻で笑う。

「森の化け物に心を寄せるとは、らしくありませんな。」


「……らしくない、か。」

オルネスは椅子を離れた。

「らしくなくて、結構だ。」


夜の外気は冷たく、静かだった。

彼は丘の上に立ち、

焦げた屋敷の跡と、その向こうに広がる森を見つめた。


記憶が甦る。


――幼いころ、戦の疫病に倒れたあの夜。

命を救ってくれたのは、風と水の魔法を操る若い夫婦。


「落ち着いて、息を整えて……。

 大丈夫、あなたは生きられる。」


その声を、彼は今も覚えている。

彼らこそヴァルド夫妻、リオンの両親だった。


後に共に剣を取り、

同じ理想を語り、

“この辺境を守るための誓い”を交わした仲。


そして数か月前――

彼らは静かに屋敷を訪れ、言葉を残した。


『もしもの時は……息子を頼む。

 あの子には、森の加護がある。』


『馬鹿を言うな、そんな時が来るものか。』


……その約束を、守れなかった。


「ヴァルド……」

オルネスは低くつぶやいた。

「この国は、もうお前の愛した形をしていない。」


遠くで雷鳴が響いた。

森の方角から、風が彼の頬をなでる。


「せめて、生きていろ。リオンよ。」


森がざわめく。

その音は、まるで返事のように夜を渡っていった。

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