命のゆりかご
「よーし、次は家づくりだな!」
ブランが勢いよく立ち上がった。
「俺の木の腕とお前の緑で、世界一の家を建てようぜ!」
「でも、家ってそんなに急に作れるの?」
リオンが首をかしげる。
「心配すんなリオ助、森があればなんでもできる!」
ブランが胸を叩くと、背中の枝からポンポンと木の葉が舞い落ちた。
モルム三姉妹がその葉を追いかけながら笑う。
「家より先にベッドがほしいですー!」
「私はお皿! 昨日、果汁まみれになりました!」
「わたしはイス! 地べたに座ると葉っぱが刺さるんです!」
「まったく、女の子は贅沢だなあ。」
ブランは笑いながら頷き、「よし、今日は家具づくりだ!」と宣言した。
トレイニーの声が静かに木々を渡る。
「よい考えじゃ。森は住まう者を選ぶ。
呼び子よ、まずは“森に馴染む生活”を作るのだ。」
朝の光が差し込む大樹の根元。
そこにはトレイニーが用意した広い空洞があり、
リオンたちの新しい拠点となっていた。
「森の中の家か……なんだか秘密基地みたいだね。」
リオンが呟くと、ブランがニッと笑う。
「なら、家具は俺たちの仲間印ってとこだな!」
リオンは緑魔法を使い、蔓を編み上げた。
思い描く形に集中すると、蔓が意志を持つように動き出し、
柔らかい椅子の脚を形づくる。
「わ、動いた! リオン様、これ自分で立ち上がりましたよ!」
モルムたちが拍手する。
「ほんとだ……まるで、森が手伝ってくれてるみたい。」
リオンの声は小さく、どこか感謝に満ちていた。
昼過ぎには、枝を組んだテーブル、蔓のゆりかご、
葉を磨いて作った器がずらりと並んだ。
どれも少しずつ形が違い、まるで森が息づいているようだった。
「よし! 家具第一号完成だ!」
ブランが満足げに頷くと、突然イスがぴょんと跳ねた。
「ちょ、ちょっと!? イスが逃げた!」
「ぎゃああ! 私のイスが走ってますー!」
モルム三姉妹が慌てて追いかけ、ブランは腹を抱えて笑った。
「はっはっは! リオ助、命を吹き込みすぎたな!」
「う、うそ……そんなつもりじゃ……!」
トレイニーの声が優しく響く。
「命は律せねばならぬ。
呼び子よ、力が溢れるときこそ、森と調和せよ。」
リオンは深呼吸し、手を胸に当てた。
「……ありがとう。でも、もう休んでいいよ。」
イスはぴたりと動きを止め、静かに木の根へと戻っていった。
その姿はまるで、森に帰る命のようだった。
夜。
蔓で編んだゆりかごに身を預け、リオンは静かに目を閉じた。
昼間の笑い声が、まだ耳に残っている。
けれど――胸の奥が、じんわりと痛んだ。
父の声、母の手、祖父の笑顔。
どれももう、どこにもいない。
「……お母さん。」
小さく漏れた声が、夜の森に溶けた。
頬を伝う涙が、土の上に落ちる。
その雫が淡い緑光を放ち、小さな草花を咲かせた。
――ぽふっ。
その音に気づいて顔を上げると、
そこにはミリウスがいた。
青白い角の光を揺らしながら、
そっとリオンの隣に腰を下ろす。
「……ミリウス。」
「……泣くな、リオンよ。」
声にはならないが、その瞳が確かにそう語っていた。
リオンは小さく笑い、震える手で毛並みに触れた。
温かくて、やさしくて――森そのものの匂いがした。
周囲を見渡すと、昼間作った家具たちが月光を受けて静かに光っている。
蔓で編まれた器は木の年輪のような模様を浮かべ、
葉で作った皿は透き通るように輝いていた。
命を削って作ったのではなく、
森が自ら形を貸してくれたのだと、リオンは悟る。
「ありがとう……みんな。」
その言葉に応えるように、
木々がざわめき、草花がそよいだ。
ミリウスはゆっくりと立ち上がり、
角の光を空へ向けて放つ。
――それは、夜空に咲く花のように広がり、
森全体がやさしい光に包まれた。
リオンはその光の中で、
もう一度そっと目を閉じた。




