森の兄弟 ブラン
リオンが目を覚ましたのは、
朝露が葉の上で輝く静かな朝だった。
「リオン、起きたかの。」
声の方を見ると、トレイニーの枝の陰に、
ひとりの青年が立っていた。
いや、“人”とは少し違う。
肌は淡い木肌、髪は蔦と苔が混じり、
瞳の中には木漏れ日のような光が揺れていた。
「こいつはブラン。森が生んだ“リフォーク”の若木じゃ。
お前の兄弟弟子になる。」
青年――ブランは、胸に手を当ててにこっと軽く笑って見せた。
「よろしくな、呼び子。俺はブラン=ティルス。
森の木々の声とともに育った。」
リオンは目を丸くした。
「……人が、木なの?」
「まあ、どっちでもいいさ!」とブランは笑った。
「風が吹けば葉を揺らす。殴られれば木屑が出る。
腹も減らないし、眠くはならないけど感情はある。
だから半分人間、半分木ってとこだな。」
リオンは思わず笑ってしまった。
どこか抜けていて、けれど温かい笑顔。
これまで出会った誰よりも“生きている”気がした。
「さて、今日からお前の魔法の確認をしよう。」
トレイニーが幹を軋ませて言った。
「森と呼吸を合わせるのじゃ。力は使うものではなく、感じるもの。」
ブランがリオンの肩を叩く。
「まあ難しく考えるな。森に“おはよう”って言うだけでも違うんだぜ。
ほら、こうやって――」
ブランは両手を広げ、森の風を胸に吸い込んだ。
足元の根がゆっくりと伸び、地面に溶け込む。
それに呼応して、周囲の木々がわずかにざわめいた。
「これが“協調”だ。森とつながれば、
自分が何をしたいか、何が必要かが見えてくる。」
リオンも真似して深呼吸した。
目を閉じると、風が頬を撫でる。
草の匂い、木の鼓動、葉のざわめき――
不思議と胸の奥が静かになっていく。
ふと、足元の草が揺れ、
小さな芽がふわりと伸びた。
「できた……!」
ブランがニカッと笑う。
「やるじゃないか! お前、感がいいな!」
リオンも嬉しそうに笑った。
「よし、次は俺の自慢を見せてやる。」
ブランは腕を組み、にやりと笑った。
「リフォークは木の体を好きに変えられるんだ。」
彼は両腕を広げると、木肌が光り、
瞬く間に腕がごつごつとした樹皮に覆われた。
「硬化だ!」
ブランが拳を打ち鳴らすと、乾いた音が森に響く。
「この硬さ、世界で一番固い《神鉄木》にも負けないんだぜ!」
「すごい……!」
「でもな――」
ブランは笑って体をくねらせた。
今度は腕がぐにゃりと曲がり、
まるで蔦のようにしなやかになる。
「柔らかくもできる。ほら、抱きつくのにちょうどいいぞ!」
「や、やめてよブラン!」
リオンが笑いながら逃げる。
トレイニーの枝が小さく揺れた。
「はは、子どもらしいのう。
だがその“遊び”こそが命を知る第一歩じゃ。」
ブランはリオンの手を掴んで立ち上がらせた。
「いいか、リオン。
森と一緒に呼吸できれば、
お前の緑の力は“命を強くする”力になる。
植物も、動物も、人も、みんな繋がってるんだ。」
リオンは真剣に頷いた。
その手のひらから、またひとつ芽が顔を出す。
小さな双葉が陽を受けて輝いた。
ブランがそれを見て目を細める。
「……いい芽だな。きっと、強くなる。」
「僕も、ブランみたいになれるかな?」
「もちろんさ。
だって俺たち、同じ森で生まれた兄弟だろ?」
リオンはその言葉に笑った。
森がざわめき、ミリウスが遠くで鼻を鳴らした。
――森の朝が、ゆっくりと息をしていた。




