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第六話 大金だー!


「ヌルーン」


 ――ジュルルル……。


 ヌルーンは出発の合図のような言葉を発し、静かに動き始めた。


「うわっ!本当に俺達人間を乗せて移動出来るのか……とんでもないスライムだな」


 アブラさんをさらに驚かせるべく私はヌルーンに言った。


「ヌルーン、座席作って?」


「あ~い」


 間の抜けた返事ながら、しっかりとヌルーンの上部(私達の足場)が変形し、斜めのイスのような形が出来上がった。


「いえーいナイスー!」


 早速そこにダイブする。


 ――ポヨンポヨン。


 心地よい弾力が背中から伝わってくる。最高だね!

 もちろんヌルーンは隣にも同じような椅子を作ってくれている。こっちはアブラさん用ね。



 クマのほうは相変わらず地面を走ってこっちに来るのを拒んでいた。やっぱり筋肉バカだ、利用できるものは何でも使えっての。まったく。


 ここでアブラさんが助言した。


「ミンミン。カンソーの北区には俺が以前水を配給したから、今回は南区から行ってみよう」


「おっけー、最初は南区ね。とりあえず知り合いの家から行ってみよっか」



 ――ジャババババ。


「よーし到着!」


 私はササッとヌルーンから滑り降りて家のドアを叩いた。


 ほとんどのカンソーの家は半球状の丸い土作りの家で、窓が2~3個あって後は正面の扉だけ、とういう質素なものだ。


 ドアを叩いて反応がなければほぼ留守とみていい。



「はいはいーどなた?」


「ミンミンでーす!」


 ――ガチャッ。


「あらー本当にミンミンじゃないか?珍しいねぇ、どうしたね?」


 私は笑顔で答えた。


「おばちゃん、お水減ってない?アブラさんの給水より安く買えるんだけど、どう?」

「どれぐらい安いの?」

「2割引き!」

「うひゃあ!ホントかね?買うわ。樽3杯ね」


 おばちゃんは大袈裟に驚き、奥のかめを指差した。


 カンソーの町では大体一家に1つはでっかい大甕おおがめがあり、そこに飲料水を溜めている。もちろん水が蒸発しないよう光が差さない場所に置いて蓋をするのが基本。


 そしてこの町……というかテリヤキ王国では水の単位は「樽」であり、お金の単位は「キフ」という。

 今までは皆、アブラさんから1樽2000キフで水を買っていたが、それを今回私達は2割引の1樽1600キフで販売するのだ!


 こんなん絶対お買い得でしょ、皆買うよねー??



 私はクマに伝えた。


「3杯だって」

「よーし分かった、樽運ぶぞ。ヌルーンに水出させてくれ」

「ん……ヌルーン。この樽にお水出して!」

「あ~い」



「オロロロロロロローー」


 ――バシャバシャバシャッ。


 ラーマおばさんの家の外で、このあたりでは滅多に聞こえる事のない水流の音が響いている。

 ヌルーンの口から放出された水がクマの持つ樽に注がれていく。


「よっ……と」


 結構重たいハズなのにクマはものともせず樽を運んでいく。ホント馬鹿力だわ。いや凄いんだけどさ。



 ――バシャバシャ……。


「おばちゃん。これで樽3杯だね」

「うん、ありがとねミンミン、クマ。はいこれ、4800キフね。1200キフも得しちゃったわ!」

「どもー。これからも『お水屋ヌルーン』をよろしくー!」




 ……といった感じで水の代金を受け取った私達は再び水の巡回販売に戻った。



「ねえ、お水売ってるの?安いじゃない!ちょうだい」

「はいはい毎度ー」

「こっちにも4樽欲しいぞ!」

「はーいちょっと待っててー」


 ――ジャバババッ。


「おい、ミンミンが水を売ってるぞ。しかも安い!」

「うわっ!?なんだそのスライムみたいなのは!」

「これウチの給水車。ヌルーンっていうの、覚えといてー」


 ――ジャバババッ。


「こっちにもくれよミンミン!」

「こっちにもー!!」

「クマ!あっちに持っていって。私アブラさんと整理券配るから」

「よっしゃまかせろ!」


 ――ジャバババッ。ジャバババッ。



 ……。



 …………。




 それからしばらくして、私達はなんと南区のほとんどの家で水を売ることができた!


 すごーい!!


 私は万歳しながら飛び跳ねて喜んだ。



「こんなに簡単に360000キフも儲かっちゃった!三人で山分けしても120000キフじゃん!ひゃっほう!!」


 私からしたら10000キフでも大金だからこれは嬉しい、超嬉しい!


「ふう、いい運動になったぜ」


 クマはクマで満足そうにたたずんでいる。



 一方、225樽ものお水を吐き出したヌルーンは最初にオアシスで見たときと同じ狼ぐらいの大きさまで縮んでいた。


「ヌルーンありがとー!お疲れ様~♡」


 私はヌルーンの顔?に軽くキスをした。


「ニュンニュンニュン!」


 ヌルーンも嬉しそうな顔でプルプルしている。



「でもいいのかな?こんな簡単に大金稼いじゃって……」


 クマがいぶかしげな顔で呟いた。私は軽く言い返す。


「いーじゃん。簡単にお金が手に入って何がダメなのよクマ!?」

「いや、んー……」


 クマは首を捻りながら何か不安げな様子だ、そんなクマの心情を察したようにアブラさんは言った。


「あれだろクマ。何か()()()()があるんじゃないかって心配なんだろ?」


 クマは「うん、そう。そんな感じ」とアブラさんを指差す。


「ふー、まったくネガティブな奴ね。ちょっとはアブラさんの図太さを見習えっての!」

「え?アブラさんの何が図太いんだ??」


 アブラさんは私を見て薄く笑った。


「はは、やっぱミンミンにはバレてたか。そう、最初に言ったけど、俺はいくら水魔法で水を売っても町(国)からもらえる金額は一緒なんだ」


「うん」


「つまり、全く水の需要がなくて水魔法を一切使わなかったとしても、ちゃんと給料が貰えるわけだ(この町で水の需要がないなんてことはあり得ないが)」


「……うん」


「で、今みたいに『お水屋ヌルーン』で水を売った金は、それはそれで手に入るだろ?」


「うん……あ!」


 クマは気付いたようだがアブラさんは続ける。


「だから今の俺は町から貰える給料と、『お水屋ヌルーン』から貰える賃金の両方が手に入る訳だ。しかも『お水屋ヌルーン』では体力と魔力を消費する水魔法を使う事もない。今みたいにちょっと販売の手伝いをするだけでいい。ぶっちゃけめちゃくちゃ楽だったぜ」


「……」


 やっと全てを理解したクマは、眉をひそめながらアブラさんを眺めている。


「アブラさん……爽やかそうな顔して中々に腹黒えな」

「えー今更?」

「ははっ、それでいいんだ。聖人君子だとか俺は思われたくもないしな」



 なんて話をしていたら、後ろから聞いた事のある声が聞こえてきた。



「あーっ!ミンミン!!」



 振り向くとそこには、ゼホという生意気な10歳のガキが私を指差していた。


「なんだ、ゼホか」


 私はなぜか子供に怖がられる事が多いのだが、アイツだけは逆に挑発的な態度で向かってくるのだ。



「うおおーーこの変態暴力女ーー!かかってこいよーー!」



 ……というセンスの欠片かけらもないゼホの挑発に、私はほんの少ーーしだけイラっとした。


「ちょっとアイツしばいてくる」とクマに伝え、ゼホに向かって歩いていった。


 生意気なクソガキを軽く締めてやろうかね!ふふっ(怒)。


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