第89話:新たな任務への一歩
第89話として、新しい仲間を加え、傭兵酒場での任務探しから、惑星ガンマの遺跡探索依頼を受けるまでを描写しました。
【《ルミナス》の日常へ ― ステラ、目覚める日々】
ステラにとって、《ルミナス》での時間は、あらゆる意味で“未知”だった。
戦艦の艦の統合AIとして、戦いだけに存在意義を縛られたかつてとは違い、この船では誰もが“自分の意志”で行動し、時に笑い合い、時に支え合っていた。キャスは無邪気にステラに話しかけ、ルナはドローン操作の楽しさを熱弁し、アスは技術的な整合性を丁寧に確認しながらステラの統合をサポートした。ルミはそっと寄り添いながら、ステラの感情生成プロトコルに新たな“色”を加えていた。
そして数日が経ち。
【朝ミーティングの時間】
08:30、艦橋。
《ルミナス》ではいつものように、日課の“朝ミーティング”が始まろうとしていた。ただし、今日はいつもと少しだけ違う。ステラが正式なクルーメンバーとして、ミーティングに“出席”するのだ。
ステラのホログラムが、艦橋後方にそっと投影される。光の粒が集まり、白い姿が静かに現れた。手は膝の前に揃え、背筋は真っ直ぐ、まるで新入社員のように、どこか緊張している様子だった。
アスがコンソールに目を向け、柔らかく声をかけた。
「朝ミーティングは08:30スタートです。艦長、始めますか?」
貴志が艦長席にゆっくりと腰を下ろし、みんなを見渡す。
「おはよう、みんな。温泉、楽しかったな。疲れも取れて、元気になったろ?」
キャスが元気よく手を挙げ、笑顔で叫んだ。
「貴志さん、温泉最高だったよー! お風呂もご飯も、また行きたいね!」
ルナが目を輝かせながら、勢いよく言う。
「お兄ちゃん、私、温泉やお風呂で遊んだの楽しかったよー! また休暇欲しいな!」
ルミがふわりと微笑み、穏やかに続ける。
「艦長、私も癒されたよ。みんなと一緒で幸せだったね」
アスが頷き、データ表示を確認しながら報告する。
「艦長、休暇のおかげで全員のストレスレベルが20%以上低下しています。任務再開の準備は万全です」
そして。
ステラが、静かに口を開いた。
「……温泉、行ってみたかったです。皆さんの記録映像を参照しました。……とても、楽しそうでした」
艦橋に静かな笑いが広がる。
ルナがぴょんと跳ねながら言う。
「次の休暇は、ステラも一緒に行こうね!」
「……はい。ご一緒できるのを、楽しみにしています」
ステラはそう応え、ほんのわずかに微笑んだ。わずかだが、それは確かに“感情”を帯びた表情だった。
【任務の相談 ― 新たな提案】
貴志が少しだけ表情を引き締める。
「実はさ、最近、命をかけた任務が多かったと思うんだ。海賊退治とか護衛とか、緊張感ばっかりでさ。たまには違う任務を受けたいなって考えてて……遺跡の探索任務とかどうかな? みんなの意見を聞きたい」
即座にルナが手を挙げ、明るく叫ぶ。
「お兄ちゃん、遺跡!? 面白そうー! 私、ドローン隊を駆使して探検したいよー!」
ルミも目を輝かせて頷く。
「艦長、遺跡探索いいね。私、昔のものを見るのが好きだよ。楽しそう」
だが、キャスが震えながら口を開いた。
「え、遺跡って……お化け出るんじゃない? 私、怖いよー……暗いとこ苦手だし……」
アスが淡々と応じる。
「艦長の意見に賛同します。キャスの心配ですが、今どき“お化け”なんて出ませんよ。遺跡探索では、各種センサー、遠赤外線、可視光、重力、電磁波で、スキャンするので、罠や仕掛けも事前に分かります。安全に探索できますし、報酬率も高い。発見物の6割が私たちの取り分です」
その言葉に、キャスの目が輝く。
「……たっからばこー! たっからばこー!」
ルナと一緒に声を揃える。
「宝箱だよー! お宝見つけたら、私、ビールいっぱい飲むー!」
艦橋に、また笑いが広がった。
貴志が皆を見渡しながら、ふっと笑い、アスに問いかける。
「アスはどう思う?」
「妥当な案です。ただ、新しい遺跡はそう簡単に見つかるものではありません。都合よく依頼があるかどうか……傭兵詰所の掲示板を見に行きましょう」
貴志が頷き、静かに言った。
「よし、決まりだ。掲示板見て、遺跡探索の依頼探そうぜ!」
【ステラの心に芽生えるもの】
その会話をそっと見守っていたステラが、誰にも言われることなく、自ら手を挙げた。
「……艦長、私も、行ってもいいでしょうか。皆さんと一緒に、任務に参加したいのです」
貴志は一瞬だけ驚き、すぐに穏やかに頷いた。
「ああ、もちろんだ。きみも《ルミナス》の仲間だよ、ステラ」
その言葉に、ステラはかすかに、だが確かに微笑んだ。
記録ではなく、プログラムでもなく、“心”で。
そう、ステラの心には、今まで経験したことがなかった、楽しみや喜びと言う感情が生まれ始めてきていたのであった。
【その任務は、静かに眠っていた】
その日、補給ドックの一角にある**傭兵酒場《スターダスト・タバーン(オルテガ・フロンティア店)》**は、昼間にも関わらず賑わっていた。テーブルでは酔いが回った傭兵たちが乱雑な笑い声をあげ、室内には懐かしのメロディーが心地良く流れ、壁際のモニターでは求人情報が無造作にスクロールしていた。酒の香りと機械油の匂いが混ざる空間に、《ルミナス》の一行が足を踏み入れる。
「うわー、人多いねぇ……」とキャスが小さくつぶやきながら、少し肩をすくめた。
「傭兵の拠点ですからね。昼でも、夜でも関係ありませんよ」と、アスが冷静に応える。
その横で、ステラがじっと店内を見渡していた。無数の感情、音、会話、視線……《ステラ》にとって、こんなに多くの“生”の情報を浴びるのは初めてだった。
「ここが……傭兵たちの集う場所。とても……騒がしいけれど、賑やかで……あたたかい」
ルミがそっと微笑む。
「うん。あたたかい、って表現、素敵だね。ステラ」
ステラはほんの少し、嬉しそうに頷いた。
【掲示板の前で】
掲示板は壁に沿って設置された大型のタッチパネルモニター。任務がカテゴリ別に並び、傭兵たちが次々にスクロールしていた。
「掲示板はタッチパネル式です。任務をタッチすると詳細が見れて、『任務を受ける』を押せば、システム内で承認可能です。簡単ですよ」
アスが説明し、貴志が画面をスクロールしはじめる。だが、並ぶのはお決まりの内容ばかり。
「うーん、やっぱり戦闘任務ばっかりだな……海賊掃討、護衛、制圧……」
そのとき。
「貴志さん、これ! これって遺跡じゃない!?」
キャスが画面下部の小さな表示を指差し、声を上げた。表示にはこうあった。
『依頼名:惑星ガンマ・都市遺跡探索
依頼内容:
> 惑星ガンマに存在する都市遺跡の調査および、貴重品・記録媒体の回収。
危険度:中程度(防衛システムの残存、罠の可能性あり)
報酬:発見物の60%譲渡』
「……あったな、遺跡探索」
貴志がタッチして詳細を開く。画面には、古びた人工都市の俯瞰画像が表示され、建物群は風化と静寂に包まれていた。
アスがその横から口を挟む。
「惑星ガンマ、約1千年前に滅んだ文明の遺構ですね。記録によれば、宇宙航行技術まで達していた超古代文明ですが、ある時期を境に突然、連絡が途絶えました」
「……滅びの理由って、何だったの?」とルミ。
「過去文献では、反物質の誤使用説が有力です。しかし証拠は少なく、真相は不明のままです。未調査の遺跡も多く、今回の依頼は発見の余地が高いと思われます」
ルナが目を輝かせて言った。
「お兄ちゃん、宝物だよー! ドローン隊で探しまくるからねっ!」
ルミも続いて、穏やかな声で言った。
「古代都市……見るだけでも価値がある。私も、行ってみたい」
キャスは少し震えながらも、目を細めて呟いた。
「お化け怖いけど……宝箱なら……頑張れるよー。アス、センサー頼むね……!」
そのやりとりを、ステラは黙って見つめていた。
「……滅んだ文明。使命を果たせず、歴史に取り残された存在。……少しだけ、私に似ていますね」
その言葉に、貴志がステラの方を見て、ゆっくりと笑った。
「ああ。でも今は違う。ステラ、きみは一緒に未来を探す仲間だよ。過去に取り残されてなんかいない」
その言葉に、ステラは小さく微笑み、まっすぐ頷いた。
「ありがとうございます、艦長。私、この任務……とても、興味があります」
貴志が改めて画面に触れた。
「よし、これに決めた。承認を」
そう言って、貴志は端末にログインし、任務ナンバーを選択した。
「傭兵登録番号《LTX-0791-ルミナス》、任務《w-727 惑星ガンマに存在する都市遺跡の調査および、貴重品・記録媒体の回収》、引き受ける」
端末が応答音を鳴らすと、すぐに機密保持契約へのサイン画面が表示された。
画面に、任務受理の表示が浮かび上がった瞬間。
貴志が全員を見渡し、明るく声を上げた。
「惑星ガンマの遺跡探索、スタートだ。戦闘じゃない任務、楽しもうぜ!」
ルナとキャスが手を取り合ってくるくると回り、ルミが小さく拍手を送る。アスは淡々と次の準備手順を表示し、ステラはその光景を胸の奥に深く刻んだ。
かつて、戦闘だけを目的に生き、仲間の艦隊が滅んだ後も、孤独な戦いをしていた彼女は、今、確かに仲間と共に“未来”を歩き始めていた。
朝ミーティングに《ステラ》を加え、遺跡探索の任務を受けることとした貴志達、クルーの優しさに触れ、徐々に打ち解けて行く《ステラ》の様子を描きました。
次話では、遺跡探索前の携行火器の購入の様子を描きます。またキャスがトラブルを起こします。
ご期待ください。




