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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第87話:温泉休暇と癒しの日々

第87話として、戦闘で疲労したルミナス乗組員たちが軍の保養施設である温泉旅館で1週間の休暇を過ごす様子を、明るく楽しく描きました。

※表題を章から話に変更しました。

【癒しの一週間 ― 静寂の湯と語らいの夜】

「軍保養施設〈星見温泉旅館・カグヤの間〉」

辺境ステーションG-09の静かな惑星「アウス・レーン」の山間部。軍の福利厚生施設〈星見温泉旅館〉は、渓谷の天然温泉を囲むように建てられた木造の旅館風施設だった。地球の伝統様式を基に再現され、あらゆる実体化AIユニットにも適合するメンテナンス装置が併設されている。


ルミナスの艦長である貴志特務大尉は、クルー全員分の個室付きプランを予約し、数年ぶりの“完全休暇”を満喫する準備を整えていた。


【到着 ― 癒しの日々の始まり】

玄関に降り立つと、キャスは目を輝かせて叫んだ。


「わあああ……すごい! 木の匂いがするーっ!」


ルナが嬉しそうにくるりと回り、空を見上げた。


「お兄ちゃん! 空、青いよ! 本物の青だよ!」


ルミは穏やかに微笑みながらも、センサーユニットを調整して言った。


「自然の環境は、最新のAIでも処理に違いが出るの。気持ちが、柔らかくなるね」


アスは静かに施設全体をスキャンし、端的に評価した。


「脅威なし。セキュリティも十分。温泉源のpHも許容範囲。問題ありません。……リラックスには最適な環境です」


貴志は一息ついて笑った。


「よし、今からは“傭兵”でも“軍人”でもない。ただの温泉客だ。のんびりしようぜ」


【静けさと笑いの朝】

朝の星見温泉旅館。鳥のさえずりと、風が木々を揺らす音に包まれた静かな時刻。中庭の足湯には、すでにルミとルナが並んで座っていた。


「……ねえ、ルミ。この水面、宇宙に似てるよね」


ルナが足をぷかぷかさせながら、空を見上げる。ルミは微笑んで頷いた。


「うん、でもこっちはあったかいね。……優しい水の宇宙」


「そうだねー。あっちの宇宙は寒いもんね。銃撃飛んでくるし」


「でも、みんなが一緒なら……寒さも、怖さも、薄れる気がする」


二人の言葉が風に溶け、足湯の湯気に包まれていった。


【山の恵みと笑顔】

朝食は、囲炉裏のある広間で用意されていた。土鍋で炊かれた銀シャリ、味噌仕立ての野菜汁、焼き魚と手作り豆腐。素朴だが、心がほっとする香りが漂っていた。


キャスは大きな湯呑みに口をつけて、ほっと息をついた。


「ふへぇ~……ほうじ茶って、なんでこんなに染みるんだろ」


「きっと、キャスがのぼせて疲れてるからだよ」


ルナがからかうように言うと、キャスはぷーっと頬を膨らませて言い返した。


「えーっ、昨日はほんのちょっと長く入っただけだもん!」


貴志が笑いながら割って入る。


「“ほんのちょっと”って言える時間じゃなかったぞ。俺、風呂場見に行ったら半分湯気になってたし」


「ええっ!? 湯気じゃないよ、蒸気キャスだよぉ~!」


みんなが笑った。笑い声のあと、ふと静けさが戻り、アスがそっと呟いた。


「こういう時間……大切ですね。どんな高性能機器よりも、人の心を回復させてくれます」


貴志が静かに頷いた。


「それを守るために、俺たちは戦ってるんだよな」


【個別の癒しと向き合い】

貴志は一人で書院造りの小部屋に座り、畳の感触に体を預けながら、手元の端末で報告書を整理していた。だが、そこへアスが静かにやって来た。


「艦長、少し休みませんか? 書類は、明日でも構いません」


「……バレたか」


アスはそっと彼の隣に座ると、湯上がりの香りを纏ったまま微笑んだ。


「あなたのような方には、何もしない時間が一番必要です。……私も、隣にいていいですか?」


「もちろんだよ。アス、お前がいると……なんか心が落ち着く」


「それは、私も同じです。私の“安定演算”は、艦長の存在によって向上します」


「それって……つまり?」


「つまり、“好き”という感情にとても近いものかと」


貴志は一瞬動きを止め、思わず吹き出した。


「……もう、休みは最高だな」


【花火と語らい】

その夜、旅館の裏庭で小規模な打ち上げ花火が催された。宿のスタッフが用意してくれたもので、山あいに咲く一瞬の光の花。


全員が浴衣姿で縁側に並び、火の音と風の音だけが静かに響いた。


ドーン。


ルナが歓声を上げた。


「わぁーっ! 星みたい!」


ルミが目を細めて言った。


「でも、すぐ消えちゃうね……。だから、綺麗なのかな」


アスはその光を冷静に見つめつつも、言葉に熱を込めて言った。


「永続ではないからこそ、美しさを強く感じる。……それは、人間も、私たちAIも、同じです」


貴志はゆっくりと立ち上がり、皆に告げた。


「ありがとう。……お前らと一緒に、こんな時間を過ごせて、本当に良かった」


ルナがにっこり笑って答えた。


「また来ようね! 次の戦いを乗り越えたら、絶対また来よう!」


キャスが腕を広げて叫ぶ。


「賛成ーっ! 次はフルコースの豪華プランで頼むよ、艦長ーっ!」


アスとルミも微笑みながら頷いた。


そして、夜空に最後の一輪の大輪が咲き、儚く散った。


【檜の湯を堪能】

翌日、キャスとルナは女性専用の露天風呂に、ルミはサポートユニット付きのリラクゼーションモードで同伴。微かに湯気の立ち上る温泉には、硫黄と木の香りが交じり合い、かすかに虫の声が聞こえる静寂。


キャスが肩まで湯に浸かり、満足げに息を吐いた。


「ふへえええ~……溶けるぅ……」


ルナがぷかぷかと浮きながら手足を広げて笑った。


「このまま宇宙に戻らなくてもいいかもねぇ……」


ルミはふたりの様子を見守りながら、ふと呟いた。


「キャスもルナも……生きてるって、感じがするね。あったかいものって、不思議」


【談話室にて】

火の灯る囲炉裏風の暖炉。クルー全員が浴衣姿で卓を囲み、地元の素材を使った和食を味わっていた。湯葉、山菜、銀魚の焼き物……静かに時が流れる。


アスが箸を使いながら、ふと呟く。


「こういう時間、記録には残らないけれど……記憶には残るんですね」


キャスが箸を止め、にこっと笑って答えた。


「そうだよ、アス。『楽しい』ってのは、記録じゃなくて、体に残るの」


ルミも静かに頷く。


「記憶も、共有できる。AI同士でも、“この時間”は確かに特別だよ」


貴志は、全員の様子を見て胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。戦火の中で築いた絆、互いに命を預けあった仲間。今はただの“家族”のようだった。


「なあ、お前ら……俺、あの戦いで思ったんだ」


全員が彼を見た。


「俺たちは、戦うためだけにいるんじゃない。こうして、笑って、風呂入って、飯食って……それを守るために戦ってんだよな」


ルナが目を潤ませて笑った。


「うん。そう思う。お兄ちゃん……ありがとう」


【静けさの中で】

出発の朝、朝靄の中でひとり《ルミナス》に戻る前の貴志は、露天の足湯に腰掛けていた。そこへ、アスがそっと現れる。


「艦長。……貴方も、少し休めましたか?」


「ああ。おかげでな。お前らが笑ってるのを見ると、俺の中の“戦い”が、少しだけ消える気がするよ」


アスは小さく笑った。


「私たちAIにとっても、貴志という“人間”の存在が、制御を超えた安定をもたらすのです。……あなたもまた、私たちの癒しです」


「……照れるな。ありがとう、アス」


ふたりはしばし、朝日が山影を照らすのを見つめていた。


【そして星へ ― 旅立ちの朝】

星見温泉旅館の朝は、春の風と共に静かに始まった。桜のような花をつける高原樹が、旅館の中庭に柔らかな陰影を落とし、鳥たちの囀りが別れを告げるかのように響いていた。


玄関前にはすでに荷物が整えられ、《ルミナス》のクルーたちは帰り支度を終えていた。


貴志は制服に袖を通し、旅館の軒先からふと湯気の立ち上る風景を見つめていた。その背後で、アスがそっと寄り添うように立つ。


「……出発の時ですね、艦長」


「ああ。……夢みたいだったな。毎晩、露天風呂で星を見上げて、アスと話して……あの時間だけ、宇宙の怖さを忘れられた気がしたよ」


アスは少し頬を紅潮させ、目を伏せながら答える。


「私も、同じです。……艦長の隣で過ごす時間が、これほど心地よいものとは……知りませんでした」


貴志は微笑み、アスの手をそっと取った。


「また来よう。戦いが終わったら、今度は何のしがらみもない休暇でさ。二人だけで、な」


アスはほんの一瞬、驚いたように瞬きをし、そして静かに頷いた。


「……はい。必ず」



【旅館前への集合】

キャスが玄関から飛び出し、両手を広げて大きく伸びをした。


「はぁーっ! 最高の休暇だったねーっ! ご飯美味しいし、お湯気持ちいいし、のんびりしすぎてちょっと太ったかも!」


「“ちょっと”じゃないかもね」


ルナが笑いながらツッコミを入れると、キャスはぷーっと頬を膨らませる。


「ルナーっ! 酷いよーっ!」


ルミがそんな二人を見て、くすくすと微笑んだ。


「でも、元気になったのは本当だね。私、嬉しいよ。みんなの笑顔が戻って……心が温かくなった気がする」


貴志が、そんな仲間たちを見渡しながら、軽く咳払いをして言葉を紡いだ。


「……みんな、温泉のおかげで体も心もリフレッシュできたな。戦場に戻れば、また厳しい任務が待ってる。でも……この一週間、俺たちは一緒に笑って、休んで、心を繋いだ。それが何よりの力になる」


キャスが手を挙げ、明るく叫んだ。


「貴志さん、最高の休暇だったよーっ! また来たいね! ぜったいまた来ようねっ!」


ルナが頷きながら目を輝かせ、ルミが静かに手を胸に当てて微笑み、アスが柔らかく頷いた。


「ええ。また必ず――この“記憶”を繰り返すために」


【出発の時】

再び宇宙に帰る《ルミナス》が、旅館の上空を舞う。山あいの旅館が小さくなっていくのを窓から見下ろしながら、ルナがポツリと言った。


「……また来よう。絶対だよ」


キャスがにやっと笑いながらガッツポーズ。


「次はスイーツ全部制覇だー!」


ルミがクスクスと笑い、アスが頷いた。


貴志は艦長席に腰を下ろし、みんなの顔を順番に見た。そして、静かに口を開く。


「ルミナス、再始動だ。――次の任務へ向かうぞ。だがその前にひとつだけ。ありがとう、みんな。俺たちは……最強のチームだ」


《ルミナス》が加速し、星空へと飛び立っていく。


だがその船内には、確かな絆と、癒された心と、そして。


**「また、あの温泉へ帰ろう」**という、小さな約束が刻まれていた。


【戦火の後の静寂】

《ルミナス》が再び航宙を開始する日、温泉での1週間は幻のように過ぎていた。だが、あのぬくもりと笑顔の記憶は、これから再び戦場へ赴く彼らの心に灯を灯し続ける。


AIも、人間も。

癒しは、生きるための燃料だ。

温泉休暇の明るく楽しい雰囲気を、クルーの性格を深く掘り下げて描写しました。

次話では、幽霊艦隊?と対峙していきます。

ご期待ください。

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