第82話:論功行賞と新たな出発
第82話として、第一艦隊司令部での論功行賞の場面を、参加者の立場や気持ちを詳細に描写しつつ、各キャラクターの性格や状況を反映して描きました。
※表題を章から話に変更しました。
【第一艦隊司令部の厳粛な空気】
巨大な大会議室には、無機質な照明と静まり返った空気が漂っていた。
整然と並ぶ椅子、磨き上げられた床、そして壇上に立つ二人の将官、第一艦隊司令官クロノス大将と、その隣に並ぶ作戦参謀ロセス准将。
彼らの背後にあるモニターには、「論功行賞授与式」と冷たい書体で刻まれていた。
海賊要塞無力化に伴う論功行賞の式典が始まり、クロノス大将が壇上からゆっくりと話し始めた。低く響く声には威厳があったが、どこか冷たさが滲み、誠意を演出していたが、その奥にある計算高さは隠しきれなかった。
壇上に立つ彼の目は、功績者たちを一人ずつ順に見下ろしていた。まるで評価対象として品定めするかのように。
「今回の海賊要塞攻略、大変ご苦労であった。当初の目的である要塞の無力化を達成できたのは、本作戦に参加した貴官らの成果である。しかし、手放しで喜べるものではない。一部部隊では全滅に等しい損害が出てしまった。以上を踏まえ、貴官らを評価した。思うところはあるだろうが、受け入れていただきたい」
彼の言葉に、会場に微かな緊張が走った。ファーエルが無表情で前を見据え、貴志が少し首をかしげ、アレスとブラウンが顔を見合わせた。クロノスが一歩下がると、ロセス准将が前に出て、冷たい笑みを浮かべて話し始めた。
【論功行賞とそれぞれの思い】
ロセス准将がファーエルに目を向け、事務的に宣言した。
「では、功績に応じた評価を申し渡す。まずは、ファーエル少将」
ファーエルが一歩前に出る。軍服は完璧に整えられ、背筋は一分の隙もなく伸びていた。その表情は凛とし、しかし内心の複雑な感情を押し殺しているのは明らかだった。
「貴官は本作戦の戦略責任者として、要塞制圧の全体指揮を遂行し、戦果を挙げた。この戦果であれば、中将への昇進も検討されたが、連合軍の軍政部より、指揮下の艦隊の損害に対する意見具申があり、大変残念であるが、推薦を見送りせねばならなかった。よって名誉戦功章一級を授与する。併せて、特別栄典として星系外宙域司令任務への推薦が承認された」
ファーエルは敬礼し、静かに答えた。「光栄に存じます」
壇上を降りたファーエル少将の歩みは、堂々としていたが、その内心は嵐のようだった。
「名誉戦功章一級か。表向きは“栄誉”、実際は“処分”だ」
彼女の中には、クロノス大将とロセス准将の意図が明確に読み取れていた。要塞戦の主導者としての責任を取らせる形での降格的処遇。戦果を称えつつ、中央から遠ざける。これこそ、官僚機構の“褒美と制裁”の絶妙なバランスだった。
だが、彼女はその全てを呑み込むように、ただ静かに前を見据えていた。
「……これで終わらせはしない。麾下の艦隊と仲間さえいれば、私はまだ戦える」
隣に立つマール大尉が彼女を支えるように寄り添い、ロセスが続けた。
「副官のマール大尉、ファーエル少将を支え、前途の損害はあるが作戦成功に導いたことは評価できる。貴官には功労章二級と、戦略通信部隊副官への異動を命ずる。今後の中央調整任務に期待する」
マールは一礼し、壇上に視線を向けたまま「任務、了解」とだけ答えた。
功労章二級という微妙な評価は、彼女にとってどうでもよかった。むしろ、彼女にとって重要なのは、ファーエルの傍に続けられるかどうか、それだけだったが、今回の異動では意図的に離される。
「……次の一手を、どう打つか。離れつつもファーエル閣下を守るには、私も変わらなきゃならない」
次に、ロセスが貴志たちに目を向けた。表面上はにこやかに笑っていたが、目は冷たく光っていた。
次は、貴志特務中尉。
ロセスは言葉を一瞬だけ選んだ。
「駆逐艦“ルミナス”艦長として、貴官の果敢な突入判断と作戦指揮は、作戦成功に大きく貢献した。また、指揮下の艦艇を1隻も損なわず帰還したことは評価出来る。よって、特務大尉に昇進し、今後は中央との共同作戦にも従事してもらう」
貴志は一瞬だけ目を細めた。
「ありがとうございます」と口にしながらも、内心では違和感が芽生え始めていた。
中央との共同作戦? 傭兵にしては妙な扱いだ。
裏にある何かを感じながらも、彼は表情を崩さなかった。
「俺たちは“功労者”として称えられた。けど……それだけか?」
彼の中には、司令部の政治的計算が見え隠れしていた。ファーエルを中央から遠ざけ、代わりに“民間出身の傭兵”たちに光を当てる。これは、あからさまな“世論操作”だ。
「利用されてる可能性がある……でも、それでチャンスが掴めるなら、俺たちはもっと強くなるしかない」
続いて呼ばれたのは、キャス特務曹長。
彼女は元気に一歩踏み出したが、呼称が変わった瞬間、驚きの表情を浮かべた。
「キャス特務曹長、貴官の任務遂行能力と冷静な戦術判断を評価し、特務少尉に昇進とする」
キャスは思わず「マジで!?」と口を開きかけたが、貴志が隣で咳払いすると、慌てて姿勢を正した。
「は、はい! ありがとうございます!」
キャスはというと、喜びを抑えきれず、顔を真っ赤にしながら周囲に声をかけていた。
「ねえ、貴志さん! やっぱ私たち、すごいんだよ! ちゃんと評価されてる!」
その裏には、“ファーエルの評価が低いこと”への戸惑いもあった。だが、キャスはまだ、政治の闇を深く知らなかった。
次に、ノヤ少尉とモロ少尉。
ロセスは彼らに向けて淡々と告げた。
「ボナおよびデナ艦の艦長として、突入艦隊の前進支援に従事した。また、両艦ともに旗艦であるルミナスを支援し、無事に帰還した。よって、両名とも中尉に昇進とする」
ノヤとモロは並んで敬礼しながらも、内心では信じられない思いが滲んでいた。
“俺たち、本当に認められたんだな”それぞれの目に、一瞬の誇りが光った。
「中尉…だなんて。僕ら、今までの戦いで初めて“認められた”んだ」
彼らの中には、名誉以上に“生き延びた意味”が、ようやく与えられた安堵があった。
ノヤとモロが緊張した顔で敬礼しつつ、小さく笑い合った。ノヤが呟いた。
「中尉…貴志中尉、いや大尉のおかげです」
モロが少し震えながら同意した。
「僕、生き残って昇進なんて…夢みたいだ」
【処罰と抗議】
ロセスの口調が一変し、冷たく鋭くなった。アレス、ログリット、ブラウン、ライザーに目を向けた。
「第1分艦隊司令アレス大佐、同、参謀ログリット大尉、第3分艦隊司令ブラウン大佐、同、参謀ライザー大尉は、作戦に寄与しなかったばかりか、貴重な艦艇を損失させてしまった。また、積極的に戦闘に参加せず、敵前逃亡の疑いすらある。よって、貴官らは一カ月の謹慎とし、アレス大佐とログリット大尉は惑星ベコニア、ブラウン大佐とライザー大尉は惑星アイワナの駐留艦隊司令官として赴任していただく」
会場にざわめきが広がった。アレスが慌てて口を開いた。
「待ってください! 私たちは艦隊司令部の意向に従って行動したまでです。その点を配慮していただけませんか?」
ブラウンが焦った声で続けた。
「そうです! 後方に布陣したのは司令部の指示があったからで…」
ロセスが冷たく笑い、彼らの言葉を遮った。
「配慮? 敗軍の将に何を配慮するのかね? 貴官らの艦隊が壊滅したのは、貴官らの判断ミスだ。言い訳は聞かん」
壇下に立ち尽くすアレス大佐は、顔を真っ赤に染めていた。
「敗軍の将…か。何が『判断ミス』だ。上層部の命令通りに動いたというのに」
彼は分かっていた。今回の処分は、ファーエル少将の責任を和らげるための“生け贄”だと。
“上には逆らえない”という現実を噛み締めながらも、彼は静かに怒りを燃やしていた。
「見ていろ、必ず復活してやる」
ブラウン大佐は、異動先が告げられた事で大きく落ち込み、深く心を傷つけられてしまっていた。
アイワナ星系行き、それは僻地であり、復帰の望みが薄い流刑同然の左遷だった。
ログリット大尉とライザー大尉は、ただ黙って立ち尽くすしかなかった。
ロセスの「言い訳は聞かん」という一言が、彼らのすべてを奪った。
最後に、ロセスが締めの言葉を紡いだ。
「第1、第3分艦隊は解隊し、残存艦艇はファーエル少将の麾下に加える。以上だ」
彼の冷たい視線が会場を貫き、式典は終わりを迎えた。
【それぞれの気持ちと退場】
式典の終了を告げる鐘のように、ホールに設置された時報が響いた。
ファーエル少将は視線を前に向け、囁くように呟いた。
「ここで終わらせない。私は、次へ進む」
その背には、マールが静かに並び、新たな覚悟を胸に歩き始めていた。政治の波が押し寄せる中でも、彼らの意志は、まだ折れていなかった。
一方で貴志は、キャスに笑顔で声をかけた。
「キャス、特務少尉おめでとう! 報奨もらったし、みんなで何か美味しいもの食べようぜ」
キャスが目を輝かせ、陽気に返した。
「貴志さん、特務大尉おめでとう! うん、絶対食べよう! 私、お腹空いたよー!」
一方、アレスとブラウンは会議室の隅で顔を寄せ合い、悔しさを隠せなかった。アレスが低い声で呟いた。
「惑星ベコニア…辺境だ。ロセスの奴、俺たちを見捨てやがった」
ブラウンが拳を握り、吐き捨てた。
「アイワナも同じだ。司令部の意向だと言ったのに…許せん」
彼らの背中には敗北感が漂い、静かに会場を後にした。ノヤとモロは貴志に敬礼し、照れながら別れた。
貴志が司令部を出て、空を見上げた。
「特務大尉か…みんなに報告だ。ルミナス、また頑張ろうぜ」
ロセスは壇上から降りながら、静かに息を吐いた。
「これで良い。戦果の英雄は、“遠ざけ”、忠実な者に役割を割り振る。中央の秩序は乱させん」
クロノスはわずかに頷く。
「政治とは均衡の維持だ。突出した者が出れば、抑える。血を流すのは兵士だが、血を治めるのは我々だ」
両名は、戦果ではなく、“軍内秩序”の維持を最優先していた。
その視線の先には、希望と失望を背負った者たちの背中があった。
第一艦隊司令部での論功行賞を、クロノスとロセスの冷徹さ、ファーエルの複雑な思い、貴志の優しさと喜び、キャスの陽気さ、アレスとブラウンの焦りと悔しさを詳細に描写しました。
次話では、ルミナスでの喜びの共有、政治的な背景を描きます。
ご期待ください。




