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第79章:帰還後の穏やかな夜

第79章として、戦いを終えてオルテガ・フロンティアに帰還したルミナス乗組員たちの安堵と喜びを、明るく楽しい雰囲気で描きつつ、各クルー達の目線で振り返りました。

【静かなる夜と褒章】

様々な困難を乗り越え、ルミナスがオルテガ・フロンティアの補給ドックに着岸した時、船体はまるで深呼吸でもするかのように微かに震えた。長い任務を終えた戦う艦は、無言のまま安堵を吐き出しているようだった。


貴志は艦橋中央で直立し、最後の報告を終えると深く息を吐いた。


「アス、ルミ、艦の主機関、補助機関とシステムを最低限の状態まで落としてくれ。ルナ、ドローン隊を収納、キャス、クルーの医療データの提出を忘れるな」


それぞれが疲労の中で静かに頷き、淡々と作業をこなしていく。その様子には、戦闘を乗り越えた者だけが持つ、無言の誇りと連帯が滲んでいた。


艦橋に静かな余韻が残る中、再びディスプレイが光を灯した。

そこに映ったのは、再度接続されたファーエル少将の姿だった。


「……もう一言、伝えておきたいことがあるのです、貴志中尉」


画面の向こうで、ファーエル少将はわずかに姿勢を正し、静かな口調で続けた。

彼女の声には、戦局を背負う者としての厳しさと、心からの誠実さが同居していた。


「今回の作戦、事前の情報収集と分析、そして最前線での判断力、そのすべてが、我々の勝利を決定づけた。特に要塞主砲の送電設備への攻撃は、敵戦力の根幹を断ち切る見事な一手だった。あの判断がなければ、多くの艦が無駄に失われていたでしょう」


貴志は姿勢を正し、静かに応じる。


「閣下、艦の仲間たちの支えがあってこその判断でした。ルミナスの乗員と、ボナ、デナの協力がなければ、今ここにはいられなかったと思います」


ファーエルは一瞬、目を細めた。それは上官としてではなく、一人の軍人として、若き部下の言葉を真正面から受け止めた証だった。


「貴志中尉、謙遜は立派だが、誇りも持ちなさい。あなたの指揮が、命を繋いだのです。……今後、より大きな指揮を託す日もそう遠くはないでしょう」


一瞬、艦橋が静まり返った。


アス、ルミ、キャス、ルナ、全員がその言葉の重みを胸に受け止めていた。


「明後日の10:00、第一艦隊司令部で待っています。正式な報告と共に、あなた方達への正式な表彰の準備も進めています。明日はゆっくりと英気を養って欲しい」


「……表彰、ですか?」とキャスがぽつりと呟いた。


ファーエルは微笑を深めた。


「当然のことです。功績は称えられるべきですから。では、それまでの間、どうか英気を養ってください」


通信が切れ、ディスプレイが闇に沈む。

その瞬間、艦橋には先ほどよりも確かな、そしてあたたかな喜びの気配が満ちた。


アスが貴志の方を見て、ぽつりと囁いた。


「……艦長、本当に、すごいですよ。あなたの背中、見てきてよかった」


貴志は照れくさそうに笑い、首をかいた。


「…まだまだだよ。でも……みんながいたからだ。俺一人じゃ、絶対に無理だった」


ルミが端末越しに明るく言った。


ルナがはしゃいだ声で続ける。


「休憩、休憩ーっ! キャス姉もお茶入れてくれるって!」


「誰が言ったのよ」キャスがむっとしながらも、その口元は笑っていた。


貴志はその光景を見渡しながら、深く息をついた。

戦場から帰還した実感が、今ようやく心に染み渡っていく、そんな瞬間だった。


「……そうだな。今日は、休もう」


【オルテガ・フロンティアへの帰還】

ハッチが開き、彼らはドック内に降り立った。

重力のある床を踏みしめた瞬間、足元にじんわりと疲労が広がる。浮遊感の中で張りつめていた緊張が、少しずつ解けていくのを全員が感じていた。


整備員たちが次々に駆け寄り、ルミナスの損傷箇所をスキャンし、記録していく。彼らの動きは迅速で的確だったが、その視線にはルミナスという艦船に対する敬意が込められていた。


「こいつ…よく帰ってきたな。戦闘後も曳航任務とは…化け物だよ」


その声が聞こえた瞬間、貴志は振り向いて小さく笑った。


「ルミナスはうちの子だからな。限界まで頑張ってくれたんだ」


医療班も動き出し、曳航してきた艦艇から搬送された負傷者を次々に受け入れていった。ドック内には簡易ベッドと救護カプセルが並び、看護員の声が響く。ルナが手を振りながらその様子を見て、ぽつりとつぶやいた。


「ちゃんと、皆も助けられてよかった……」


キャスがそっと彼女の肩に手を置いた。「大丈夫、ルナ。君がいたから、たくさんの命が救われたよ」


ルナは目を細め、少しだけ誇らしげに頷いた。


アスはモニター片手に周辺機体の損傷記録を整備員に引き継いでいたが、手が止まった。静かに貴志に声をかけた。


「艦長、クルーの健康診断は完了。小規模な打撲や疲労はあるけど、全員無事です」


「そうか……ありがとう、アス」


やがて作業が一段落し、補給ドック内の一室――作戦終了後の休息用に確保された簡易ブースへと案内された。

そこには簡素ながら清潔なベッドとシャワー、温かい食事が準備されていた。


全員が無言のまま、思い思いに腰を下ろす。

キャスはシャワーを真っ先に浴びに行き、ルミは小さなタブレット端末を開き、戦闘記録をつけ始めた。ルナはくたびれた表情でベッドに倒れこみ、アスは無音のままコーヒーを注ぎ、貴志の前に差し出した。


「艦長、温かい飲み物でも飲んでください。眠る前に少しでもリラックスを」


貴志は受け取り、熱を感じるカップに手を包んだ。その温もりが、ようやく戦場から離れたことを実感させてくれた。


「ありがとう、アス……」


彼は目を閉じ、静かに息を吐いた。


外ではまだ、整備ドローンがルミナスの船体を照らしながら動き続けていたが、その光景を眺める者はもう誰もいなかった。

今だけは、戦争も作戦も過去の話だった。


ただ、仲間と共に帰ってきた、それだけが、何よりも尊いことだった。


【休息の始まり ― 無言の英雄たち】

ディスプレイが静かに暗転し、休憩ブースの照明がほんの少し落とされた。数秒の静寂の後、誰からともなく、深い息をつく音が空気を和らげる。


貴志が椅子にもたれ、肩を軽く回した。


「……戻ってきたな。本当に」


その一言に、アスが静かに頷いた。


「はい。艦長の判断があったから。…それに、ルミナスもよく持ちこたえてくれました」


キャスが疲れた笑みを浮かべて振り返る。


「私、まだ夢みたいです。あの要塞主砲の中を抜けたなんて……」


「現実だよ、キャス」ルミが軽く肩を叩いて微笑む。「ちゃんとデータも残ってる。艦のブラックボックスには、私たちの記録が刻まれてる」


ルナが小さく手を上げて呟いた。


「ねえ、少しだけ、皆と一緒におしゃべりしてから休んでもいい?」


「もちろんだ、ルナ」貴志は穏やかな笑みを浮かべた。「お前が一番頑張ったもんな。ドローン隊の映像、ほんとに助かったよ」


ルナの頬が少し赤く染まり、照れたように笑った。


休憩ブースから、オルテガ・フロンティアのドック内にある居住区へ戻る途中、整備班が黙々と機関部のチェックを行っているのが見える。誰も言葉を発さないが、すれ違うたびに敬礼が交わされ、その視線には深い敬意がこもっていた。


居住区の自動ドアが開くと、温かい照明が彼らを包み込む。味気ないドックの中にあって、そこだけが(ほの)かなぬくもりを宿していた。


「今夜と明日は、各自自由にしていい。好きなだけ眠って、明後日は10時に司令部集合だ。…明日は1日自由時間とする。ゆっくりと体を休めて欲しい」


貴志の言葉に、全員が素直に頷いた。


アスは小さな部屋に戻ると、ベッドに腰を下ろし、静かに手帳を取り出した。いつものように、今日の出来事を数行だけ記す。


「敵要塞撃破。残存艦曳航任務完遂。ルミナス帰還。全員無事」


その文字を見て、アスはようやく安堵の笑みを漏らした。


キャスはやっと訪れた平穏な時間を噛み締めていた。ふと、鏡の向こうに映る自分の顔を見て笑う。


「もう少し、強くならなきゃね……」


ルミはメンテナンスログを整備ドックのクラウドに転送し終えると、少しだけコーヒーを淹れて、独りで居住区内のカフェブースの一角に座った。

耳元には最近流行りのミュージックがささやくように流れ、彼女の疲れた心を少しずつ癒していた。


ルナは居住区から出て、ドックの観測窓から、宇宙の星々を見上げていた。戦場だった宙域から遠く離れた今、静かで、どこまでも広がる夜がそこにあった。


「ねぇ、お兄ちゃん…あの星の向こうに、何があると思う?」


ルナの言葉に答えたのは、貴志ではなく、無限の宇宙だった。


そして貴志は、最後に艦橋へ戻った。

誰もいない指揮席に座り、静かにルミナスのディスプレイを見上げる。


「ルミナス……ありがとうな。お前がいなかったら、誰一人帰れなかった」


ほんの一瞬、ディスプレイのインジケーターが瞬いたように見えた。


それはまるで、返事のように。


貴志はゆっくりと艦長席に座り、最後に照明を落とした。


夜が、ようやく訪れていた。

帰還後の安堵とファーエルの感謝を明るく描き、プライベートルームでの喜びを描写しました。

次章では、ボナ、デナ艦橋士官達と飲食を楽しむ様子を描きます。

ご期待ください。


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