第77話:要塞主砲への特別攻撃(後編)
第77話として「ルミナス」、「ボナ」、「デナ」による海賊要塞への攻撃が成功し、離脱するまでの緊張感ある戦闘を詳細に描きました。
※表題を章から話に変更しました。
【攻撃開始】
無音の宇宙に、緊張が満ちていた。まるで時間そのものが息を潜めているかのようだった。
ルミナス艦橋では、貴志が真剣な眼差しで前方スクリーンを見据えていた。そこには、惑星の暗い表面に浮かび上がる要塞の構造が、偵察ドローン隊からの複合スキャンによって3D投影されている。淡い光で表示されたその構造の中に、ふたつの強い熱源がはっきりと存在していた。
貴志が頷き、即座に通信チャンネルを開いた。
「『ボナ』、『デナ』、聞こえるか? 攻撃目標を再確認する。発電所は座標A-17、送電設備はA-17の北東、500メートル地点。ルミナスが先頭、目標に突入する。お前たちはルミナスの左右から挟むように動け。目標を一撃で沈黙させ、速やかに脱出する」
通信に少し間をおいて、「ボナ」のノヤ少尉が応えた。
「こちら『ボナ』、ノヤ少尉。座標確認。照準合わせ済み、レーザー砲4門、ミサイル8発。貴志中尉の横に並びます!」
すぐに「デナ」のモロ少尉が続く。声は震えていたが、はっきりとしていた。
「『デナ』、モロ少尉…座標ロック完了。照準調整中…発射準備、完了です。必ず、命中させます!」
「よし、頼もしいな」
貴志は艦橋全体を見渡した。アスが火器管制を睨み、キャスはチャフとフレアの展開準備に入っていた。ルナはすでに数機のドローン隊を先行させ、偵察と防衛の両立に備えていた。
「アス、ルミナスのレーザー砲とミサイル、全門発射可能か?」
「はい、艦長。全火器、完全稼働。誘導制御良好。目標にロック可能です」
「キャス、フレアとチャフは?」
「即時展開できます。敵の迎撃システムが作動した瞬間、最小反応時間で対処可能です!」
「ルナ、ドローン隊の展開状況は?」
「第1波、偵察ドローン隊が送電設備上空に接近中。第2波攻撃ドローン隊も待機してるよ。何かあったらすぐ出すから!」
貴志は深く頷き、しっかりと声を出した。
「全艦、最終確認を完了。いよいよだ、これより、要塞へ突入する!」
艦内に重々しい緊張が走る。だが、その中に、確かな信頼と決意があった。
「アス、進路を座標A-17に固定。最大戦速で突入。ルミナスが先陣を切る!」
「了解、艦長。全エンジン推力最大。突入コース確定。あと90秒で射程圏内に入ります」
エンジンの駆動音が艦全体に満ち、振動が伝わる。視界の先に、敵の要塞変電設備が徐々に迫ってきた。地表のわずかな光が脈動する。あれが、敵の命脈。
あとは一撃を見舞うだけだ。
【送電設備破壊、宇宙の閃光】
ルミナスの艦橋に、時が止まったような沈黙が流れていた。ディスプレイの中央には、惑星表面の要塞構造が拡大表示され、その心臓部ともいえる発電所と送電設備が明確にマークされている。
「全火器、一斉発射」
貴志の静かな一声が、全艦の攻撃を解き放つ引き金となった。
その瞬間、ルミナス、ボナ、デナの3隻から怒涛の光が解き放たれる。赤く鋭いレーザーが宇宙を裂き、白いミサイルの軌跡が幾筋も流星のように走った。艦の揺れとともに、艦橋の窓に強烈なフレアが走る。
「命中まで5秒…4…3…」
アスが冷静にカウントする横で、ルミの指がレーダーを追い、キャスはフレアとチャフの制御に集中していた。ルナのドローン隊が最終確認のスキャンを行い、発電施設の冷却層の熱暴走を読み取っていた。
「2……1」
命中、爆発!
ディスプレイが白く染まり、振動が艦全体に伝わる。惑星表面の発電施設が炎を噴き上げ、送電設備は光と衝撃の柱に包まれて崩壊していく。地上から伸びていた高エネルギーケーブルは次々に断線し、帯電が暴走して空に稲妻のような光を走らせた。
「目標、消滅確認!」
アスの声が冷静なまま艦橋に響く。
「発電所、完全沈黙。送電設備からの出力反応消滅。要塞主砲の冷却炉停止、重レーザー砲群もすべて活動を停止しています!」
続けてルミがレーダーでの詳細を報告した。
「敵要塞内の熱源反応も沈静化中。電力供給が止まり、全シールドフィールドが消失したよ。完全に、沈黙しました……!」
一瞬、誰も声を発せず、ただその静寂に聞き入っていた。
「やった……やったぞ!」
貴志の声が艦橋に響くと、まるで張り詰めていた空気が弾けるように、歓声と安堵の声が続いた。
「お兄ちゃん、やったー! ドローン隊も大成功だったよ!」
ルナが腕を突き上げる。
「生きてる……ほんとに……!」
キャスが防御スクリーンに背を預け、肩の力を抜く。
「艦長、敵の残存戦力は皆無。追撃の兆候もなし。ルミナス、ボナ、デナ、全艦無傷」
ルミが穏やかな笑みを見せた。
「作戦、完全成功だよ。私たち、やり遂げた」
貴志は艦橋の全員を見回し、声を張り上げた。
「お前たち……最高だ! でも、まだ安心するな。ここは敵の勢力圏内だ。離脱するぞ!」
すぐさまアスが操縦席に戻り、進路を急旋回で変更した。
「航路再設定完了。重力スイングを利用し、最短軌道で外縁宙域へ。空母メディスまで最速で接近します!」
貴志は即座に通信を開いた。
「全艦へ通達。作戦は成功した。発電所と送電設備の破壊を確認。これ以上の攻撃は不要。即時、惑星射程圏外へ離脱、空母メディスの防衛圏まで全力で移動せよ!」
「こちら『ボナ』! ノヤ少尉、了解! 進路変更、離脱開始します!」
「『デナ』、モロ少尉、了解! エンジン出力100%、メディスへ向かいます!」
ルミナスの船体が深く傾き、視界の隅から巨大な要塞の影が遠ざかっていく。
かつて恐怖の象徴だった敵要塞が、今は沈黙した廃墟の様になっていた。
宇宙を突き抜ける3隻の駆逐艦が、勝利と共に高速で重力圏を離れていく。
その軌跡は、まるで命を取り戻した自由そのものだった。
【戦場離脱、静寂の勝利】
爆炎を背に、3隻の駆逐艦が宇宙を駆け抜ける。
ルミナスが先頭、ボナとデナがぴたりとその後ろにつき、三角陣形で重力圏を斜めに振り切るように上昇していた。
「艦長、加速維持。射程圏外まで、あと20秒です」
アスの声は緊張の糸が解けはじめながらも、正確で落ち着いていた。
「機関出力、安定。重力干渉も予定どおり。航路に問題なし」
レーダーに映る敵影は、すでに消えていた。
ルミがゆっくりと画面を睨み、微笑むように報告した。
「敵の追撃反応はありません。後方の要塞主砲群も、完全に沈黙したままだよ。あの主砲も、もう動かない」
ルナがドローンコンソールに指を滑らせ、最後の1機を着艦させると、息をつくように叫んだ。
「お兄ちゃん、全部帰ってきた! ドローン隊もフルメンバー帰還完了! やったねっ!」
キャスは、ようやく手を防御システムの端末から離し、くしゃっと笑った。
「貴志さん……緊張でずっと手が震えてた。でも、今は……生きてるって、ほんとに、嬉しいね」
ディスプレイには、未だ燃え続ける要塞の心臓部「発電所と送電設備」が映し出されていた。
火災は制御を失ったまま拡がり、構造物の一部が崩壊していく。背後の要塞砲台は暗黒の宇宙に溶け込み、まるで力尽きた巨人のように沈黙を保っていた。
貴志はゆっくりと艦長席に腰を下ろし、ひとつ息を吐いた。
「……綺麗な光だったな。あの破壊の中に……未来があるなんて、不思議だ」
彼の声には、感傷と安堵、そして少しの痛みが混じっていた。
アスが微かに頷いた。「私たち、勝ったんですね。たしかに……光の向こう側に進みました」
ルミナスは、宇宙空間に放たれるように加速を続けていた。ボナ、デナも軌道を微調整しながら、一定のフォーメーションを保って随行する。
メディスの護衛宙域まで、あとわずか。
だがこの短い航路が、誰にとっても永遠のように尊い時間だった。
ディスプレイに映る敵影も、戦意を消失したかの様に退避行動に移り、一切のミサイルも存在しなかった。
その静けさが、戦いの終わりを実感させた。
貴志は艦橋をぐるりと見渡し、仲間たちの顔を順に見つめた。
ルナは笑顔、キャスは涙をこらえている。アスは冷静に見えるが、手はわずかに震えていた。ルミは最後までレーダーを見守り続けていた。
「生き残ったな、ルミナス」
彼は静かに言った。重みのある一言だった。
そして、やがて立ち上がり、通信機を手に取った。
「ファーエル少将に報告だ。……俺たちの勝ちを、伝えよう」
その声には、確かな誇りが込められていた。
艦橋に、誰からともなく小さな拍手が起こる。
それは歓声でも雄叫びでもなく、静かな、しかし本物の勝利の音だった。
こうして、ルミナス、ボナ、デナ、3隻の小さな艦隊は、数多の命を守るために放った一閃の矢として、その任務を完遂した。
戦場の余韻を背に、彼らは、空母メディスの護衛位置へ向かっていた。
要塞攻撃の緊張感ある突入と成功の瞬間を、そして、戦場離脱までを詳細に描写しました。
次話では、要塞主砲攻撃の成功後のルミナス艦橋での安堵感、戦後処理を描きます。
ご期待ください。




