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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第74話:要塞砲の脅威と戦場の混沌

第74話として、ファーエル少将とマール大尉による突撃艦船選定の緊迫した場面と、海賊要塞の要塞主砲による攻撃が引き起こす戦場の混乱を、戦術的視点を織り交ぜて描きました。

※表題を章から話に変更しました。

【《メディス》艦橋での選定と決断】

空母メディスの艦橋は、まるで戦場の心臓だった。緊迫した通信音が絶え間なく鳴り、ディスプレイには無数の艦艇アイコンが点滅している。


ファーエル少将は無言でそれらを見つめ、鋭利な視線を浮かべたまま、顎に手を当てた。戦場は混乱を極めていた。友軍艦の損傷報告が次々と届き、艦艇の配置も崩壊寸前だ。


傍らでは、マール大尉が手際よくタブレットを操作し、戦術支援チームと連携を取りながら艦艇リストをアップデートしている。だが、焦燥は隠せなかった。


「閣下、突撃作戦に使用可能な艦艇ですが……問題が生じています」


ファーエルの眉が微かに動いた。


「報告を」


「軽巡、イレット、中破。18cmレーザー砲とミサイル発射管が損傷で使用不能。重巡、エポナも同様に中破、機関出力が50%を切っています。ミサイル支援艦、トリヴェントは小破に留まりますが、ミサイル発射機構が停止中。実質、火力支援は困難と判断されます」


「……それで残るは?」


マールがタブレットを切り替えると、そこにはたった三隻の艦名が残っていた。


「旧式駆逐艦2隻、《ボナ》、《デナ》、そして傭兵艦ルミナスのみです」


艦橋に重い沈黙が落ちた。


《ボナ》と《デナ》は、艦齢三十年を超える老朽艦。装甲は薄く、ミサイル誘導システムも旧式。現代の海賊艦に対抗するには、あまりに不安要素が多い。


ファーエルは目を細め、腕を組んだ。


「他の傭兵艦はどうした?」


「すでに離脱しています。海賊艦からの攻撃で被弾、戦闘行動不能となり、後方宙域へと退避しました」


「つまり、まともに戦える傭兵艦は『ルミナス』しかいないのだな」


マールは苦々しく頷いた。


「はい。艦体健在、戦術AI稼働。艦長・貴志特務中尉の指揮の下、独立作戦行動中。現在も前線で交戦継続中です」


ファーエルは深く息を吐いた。


「……旧式駆逐艦二隻と、一隻の傭兵艦か」


彼女の脳内では、すでに損耗率と勝算の天秤が回り出していた。


《ルミナス》が傭兵艦とはいえ、今や最も機動力と戦術能力に優れた存在だ。だが、その艦長が本来指揮を執るべきではない特務中尉の傭兵であることが問題だった。


マールが続けた。


「閣下、指揮系統にも問題があります。『ボナ』『デナ』の艦長はいずれも少尉、『ルミナス』の貴志中尉が先任将校にあたります。このまま作戦を発動すれば、傭兵が三隻の突撃艦隊を統括することになります」


ファーエルの口元が、ほんの一瞬だが歪んだ。


「傭兵が艦隊を率いるか……あり得ない事態だ」


彼女にとって、軍とは秩序だった。階級と命令系統を無視した作戦は、敗北への第一歩だと信じてきた。


だが、この宙域において、それを問う余裕などなかった。


「傭兵でも、勝てるならそれでいい。今は“結果”だ」


そう呟いたその時、マールが新たな報告を口にした。


「閣下。追加情報です。《ルミナス》、先ほどの戦闘で敵艦2隻を無力化、損傷は軽微。更に偵察ドローン隊によって重レーザー砲陣地のレイアウトを部分解明中。目標座標、敵防空システムの稼働状況、索敵波もこちらに送信されています」


ファーエルの目が一瞬、細くなった。


「重レーザー砲の座標が?」


「はい。《ルミナス》が前線で独自に偵察を進めていたようです」


その報告は、彼女の判断を一気に加速させた。


貴志は、ただの傭兵ではない。


この男は、“戦術を読む力”を持っている。

損耗率を計算し、敵を観察し、そして命を繋ぐ判断を、軍人以上に実行している。


「……《ルミナス》に任せる。他の2隻を従属艦とし、戦術行動は貴志中尉に一任する。マール、正式に突撃命令を用意しろ」


「了解しました。突撃隊、コードネームは?」


ファーエルはディスプレイに映るルミナスの航跡を見つめながら、冷ややかに言った。


「“黒きブラック・アロー”と名付けろ。光を奪うのは、闇から射られる刃だ」


マールが敬礼と共に、即座に命令書の準備に入った。


ファーエルは視線を前へ向ける。


これは、ルールなき戦争。ならば、軍規ではなく「結果」が支配する。

たとえ“傭兵”であろうと、生き残る者こそが未来を作る。


《ルミナス》の航跡が、ディスプレイの宙域をまっすぐ貫いた。

その刃が、敵の心臓へ届くかどうかは、あと数分で明らかになる。


【要塞主砲の脅威】

マール大尉の指先がディスプレイ上の光点を突き刺した。


「閣下、海賊要塞表面にて高エネルギー反応確認! 惑星内部からの熱放射と磁場歪みも観測、エネルギーが一点に集中しています!」


彼の声は、緊張でわずかに震えていた。

ファーエル少将は即座に背筋を伸ばし、ディスプレイに映る不穏な反応を見据えた。


「まさか……要塞主砲か?」


マールが声を張り上げた。


「エネルギーの増大が臨界点を超えました!これは確実に!」


その瞬間、要塞の一角に埋め込まれていた巨大なエネルギー収束砲、通称“要塞主砲”が、青白い光を帯びて閃光を放った。


宇宙空間には音がない。だが、閃光の前には常に死がある。


観測装置が捉えたエネルギー波長は、出力1.4テラジュール、艦隊戦で通常使用される重レーザー砲の十数倍。

単なる一点集中型ビームではない。荷電粒子と重水素プラズマを収束させた、「広域殲滅型斉射エネルギー帯」だ。


これは、“宇宙戦の理”を覆す兵器だった。


ファーエルがすぐさま命じた。


「要塞砲だ! 各艦艇は急ぎ散開せよ! 密集陣形を解け、反転回避を最優先!」


命令が通信網を通じて艦隊各艦に伝達される。が、遅すぎた。


宙域の中心を貫くようにして、直径数キロメートルにも達する蒼白のエネルギー帯が空間を裂いた。

一瞬で空気のない宇宙に「光の奔流」が生まれ、それが物理法則をねじ伏せる。


直撃を受けたのは、後方で待機し、密集陣形の第1、第3分艦隊の主力艦だった。


戦艦ラハイナ、消滅。通信断。


艦体そのものがエネルギーの奔流に呑まれ、装甲は蒸発し、内部構造は一瞬で崩壊。重力制御装置が過負荷で暴走し、船体は爆散する前に「無」に還った。


同時に、重巡ケルトス軽巡バロミス、駆逐艦数隻が巻き添えを受け、エネルギー波の余波によって深刻なダメージを負った。

被害報告は、もはや断片しか聞こえない。


「――巡洋――沈黙!損傷率――%、機関部破損!――回避不能!」


ファーエルの頬に緊張の汗が一筋伝ったが、表情は凍りついたままだった。


「密集陣形が仇になったか……。第1、第3分艦隊は、旗艦以外ほぼ全滅だな」


艦橋内はノイズ混じりの通信と警報音で満たされていたが、ファーエルの声は静かに響いた。


「裏切り者の自業自得だ。だが……私の艦隊まで巻き込むとは。許さん……絶対に許さんぞ」


マールが震える声で叫んだ。


「要塞主砲、冷却工程に移行しました!次弾装填まで、少なくとも600秒のインターバルが予想されます!」


ファーエルが冷たく頷いた。


「ならば、その600秒で決める。今を逃せば、次の射撃でこちらが焼かれる」


その言葉に、艦橋の将兵たちの背筋が粟立った。

一撃で複数艦隊を蒸発させる兵器が、再び起動する前に、要塞主砲を潰さねばならない。


この600秒は、連合軍に与えられた最後の“猶予”であり、“審判”である。


ファーエルが決断を下す。


「マール、《ブラック・アロー》突撃部隊に即時発進を命じろ。ルミナス、ボナ、デナの三隻。要塞主砲照準システムとエネルギー供給中枢を破壊目標とする。必要であれば、乗組員脱出後の自沈を含めた特別攻撃も許可する」


「了解!」


マールが通信チャンネルを切り替え、傭兵艦ルミナスへと命令を転送する。


その一方、艦橋スクリーンには次々と破壊された艦艇の航跡が赤く点滅し、通信不能の艦名リストが静かに更新されていく。


艦隊戦という名の戦術は、もはや無意味だ。ここからは、“誰が生き残れるか”だけが戦略だった。


ファーエルは再び、決意のこもった声で言った。


「……この戦いに正義などない。あるのは、生き残る者だけだ。進め、ルミナス。貴志……お前が“突破口”になれ」

ファーエルの冷静かつ冷徹な判断と、マール大尉の的確な報告を通じて艦船選定の難しさを描き、海賊要塞の要塞主砲による攻撃で戦場が一変する混乱を詳細に描写しました。

次話では、要塞への特別攻撃(前編)を描きます。

ご期待ください。

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