第72話:嵌められた指揮官とルミナスの闘い
第72話として、空母「メディス」の艦橋でのファーエル少将の視点を中心に、彼女の失望と決意、そしてアレス大佐とブラウン大佐の言い訳を描きました。また、次章へのつなぎとしてルミナス視点の触りを加えています。
※表題を章から話に変更しました。
【ファーエルの闘い】
戦場はすでに、灼熱の闘争地帯と化していた。
空母「メディス」の艦橋は、無機質な鋼の構造の中に緊張感が充満していた。重レーザーとミサイルが交差する宇宙を映すディスプレイの前に、ファーエル少将が静かに佇んでいる。表情は静かだが、眼差しは猛火のように激しい怒りを湛えていた。
「嵌められた……仲間に裏切られただけじゃなく、先を見通す力がなかった自分にも失望だ。」
指先がデスクを叩く。鋼鉄の反響音が艦橋に響き渡った。
彼女は士官学校時代、全てにおいて「規律」を重んじてきた。実力のある者には相応の地位を。卑劣な者には罰を。その信念は、若くして将星を戴くに至る原動力となった。しかし、今その信念が裏切られている。しかも、味方によって。
「ロセス准将の策略か……あるいは、クロノス大将の意図か……どちらにせよ、私を潰すつもりだな」
彼女の声には冷静さの裏に、噛み殺した怒りがにじんでいた。
「メディスの艦長、攻撃機全機の発艦準備を進めなさい。即時出撃できるように!」
鋭い命令に、艦長が即座に敬礼し、通信機へ向かって怒号のような指示を飛ばす。
ファーエルは副官のマール大尉に目を向けた。
「マール、第1、第3分艦隊に連絡を。何か言い訳でも聞いておこう。」
【第1分艦隊 アレス大佐】
ディスプレイが切り替わり、アレス大佐の姿が映し出された。彼の目には明らかな倦怠が浮かんでいた。彼はかつて名のある戦闘指揮官だったが、今は「波風を立てない」ことに命を懸けるような人物となっていた。軍功よりも、椅子に座り続けることを選んだ男だ。
「ファーエル少将、後方からの海賊艦の奇襲に備えてるだけですよ。何か問題でもありますか? こっちは安全を確保してるんです。少将が前に出たいなら勝手にどうぞ」
その口調には、尊敬も、協調も、意志すら感じられなかった。ファーエルは眉をひそめ、静かに呟く。
「奇襲に備える? 海賊が後方から来る情報もないのにか……当てにならないな」
アレスは何も言い返さず、むしろ話を終わらせたがっている様子だった。
【第3分艦隊 ブラウン大佐】
次に繋がったのは、ブラウン大佐の通信だった。彼は貴族出身の出世官僚で、保身第一。彼の辞書に「犠牲」も「栄光」もない。
「少将、当初の布陣位置の右舷側には小惑星帯があります。宙雷が仕掛けられてる可能性もある。無理に進めば損害が出ます。後方で様子を見るのが賢明ですよ」
その言葉に、ファーエルは冷たく笑った。
「小惑星帯? 宙雷? 情報にも上がっていないのに、よくそんな言い訳が出てくるな……ブラウン大佐、あなたの保身癖は相変わらずだ」
ディスプレイの向こうで、ブラウンが目を逸らしながら渋々口を開いた。
「……とにかく、私は部下を守る義務がありますから。少将が突出してるのは勝手ですけど、巻き込まないでくださいよ」
その瞬間、ファーエルは通信を切った。
【孤立と決意】
ファーエルは静かに立ち上がり、艦橋の窓へと歩いた。宇宙は暗く、そして赤く染まっていた。味方に背を向けられたその場所で、直属艦隊と傭兵艦のみが孤独な戦線を支えていた。
マールが不安そうに尋ねた。
「閣下、第1、第3分艦隊は動かないつもりですね……どうしますか?」
ファーエルはその問いに即答した。
「当てにできないと分かった。アレスもブラウンも、上層部の指示で私を見捨てる気だ。いいだろう、私の艦隊だけで戦う。」
彼女の声は、鋼鉄のように冷たく、だが揺るぎなかった。
「私の直属部隊と傭兵艦で各個撃破だ。簡潔に指示を出せ。」
「了解! ファーエル少将より全艦へ。海賊艦を各個撃破せよ。直属部隊と傭兵艦で対応する。以上!」
マールの声が艦内に響いた。怒号、警報、起動音。艦橋が再び活気に包まれる。
ファーエルは窓の外の戦場を見つめ、静かに言った。
「嵌められたなら、勝って見せる。それが私の信念だ」
その目には、かつて士官学校で全てを賭けて誓った誓いが宿っていた。
いかに味方に裏切られようとも、正しき者が力で道を示す。
それこそが――ファーエル・クラウスという女の戦いだった。
【駆逐艦「ルミナス」の闘い】
爆発音が外壁越しに震動として伝わる。艦体を覆うシールドに赤い警告光が何度も点滅した。
「艦長、海賊艦5隻、進路を変更してこちらに向かってきます! 先頭はミサイルを積んだミサイル艇型! 迎撃まで残り30秒!」
ルミの声が艦橋に緊張をもたらす。
「了解!」
貴志艦長が即座に立ち上がる。眼前のホロディスプレイには、散開しながら迫る複数の海賊艦の軌跡が表示されていた。まるでハチの群れのような動きだ。
「アス、正面回避軌道βへ。ルナ、ドローン隊を展開。敵の進路をかく乱しろ!」
「はい、艦長。回避パターンβ、実行します」
アスが操艦スティックを握り、ルミナスの艦体が旋回する。追尾してくるミサイルがわずかに逸れ、爆風だけが艦体をかすめた。
「ドローン出撃完了! 6機、制御下にあります!」
ルナの操る小型戦術ドローンが艦腹から射出され、光を引いて海賊艦に向かって飛んだ。
「いいぞ、ルナ! アス、回避の合間にミサイルを一発打ち込め!」
「狙い撃つよ」
アスの指が発射スイッチに触れる。直後、ルミナスのミサイル発射管から青白い軌跡が放たれ、曲線を描いて海賊艦の腹部に直撃。爆炎が宇宙を彩った。
「目標1、撃沈確認!」
「キャス、次の波が来る! フレアとチャフ、タイミング任せる!」
「うん、私に任せて! ……今!」
キャスが指示を出すと、フレアが四方に散り、電子撹乱チャフが宙を覆った。敵のミサイルが混乱し、三割ほどが自滅。残りはドローンとパルスレーザー砲で撃ち落とされていく。
「ナイス判断、キャス!」
「艦長、まだ終わってないよ! 第2波、8時方向から新たに接近中! 高速艇4、支援艦1!」
「ふん、いいだろう……ルミ、座標データを全艦リンクしてくれ!」
「送信中……完了! ファーエル少将の「メディス」とも共有したよ!」
「よし、こっちは囮になって左舷を開けろ。〈メディス〉の攻撃機が突入できるように導線を作るんだ!」
戦場の混乱の中、ルミナスは海賊艦との戦いに突入した。
ファーエルの公平さと信念、アレスの面倒嫌い、ブラウンの保身を詳細に描き、連合軍内部の策略に立ち向かう彼女の決意を強調しました。また、ルミナス視点の触りを加えました。
次話でも、激しい戦闘が継続されます。
ご期待ください。




