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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第71話:戦闘開始とルミナスの覚悟

第71話として、作戦開始直前のルミナス艦橋での緊張感と、戦闘開始時の壮絶な光景を、貴志たちの性格を反映しつつ戦場の緊迫感を持って描きました。また、次章へのつなぎとしてファーエル少将の視点も加えました。

※表題を章から話に変更しました。

【作戦開始前の艦橋】

海賊掃討作戦開始の10時まであと10分と迫り、ルミナス艦橋は、いつもならルナの元気な声やキャスの慌てた動きで騒がしいはずが、この日は異様な静けさに包まれていた。

アスがコンソールを真剣に操作し、ルナがドローン隊の最終調整を黙々と進め、キャスが防御システムを何度も確認し、ルミがレーダーを睨みつけていた。


貴志は艦長席に座り、目を閉じて考え込んでいた。

「少しでも生存確率を高める方法はないか…でも、海賊艦の動き次第だ。出たとこ勝負だな…」


ふと横を見ると、アスが眉間に皺を寄せ、コンソールに集中している姿が目に入った。

貴志がぼそっと呟いた。

「失いたくないな…」


その言葉を聞きつけたアスが手を止め、貴志に目を向けて穏やかに応じた。

「大丈夫です、艦長。みんなと一緒に頑張りましょう。私たちならできます」


貴志がハッとして、アスの言葉に頷いた。

「そうだな…俺、負の感情に支配されてた。アス、ありがとう」


彼が立ち上がり、全員に力強く呼びかけた。

「みんな聞いてくれ! 連合軍の戦いなんてどうでもいい。まずはみんなで生き残ろう! それが俺の願いだ!」


アスが冷静に、ルナが目を輝かせ、キャスが緊張を解くように笑い、ルミが優しく頷いた。

全員が貴志の顔を見て、一斉に小さく「うん」と返した。艦橋に静かな決意が満ちた。


【戦闘開始と連合軍の策略】

時刻は10時。緊張と静寂が艦橋を包む中、艦橋ディスプレイが明滅し、連合軍の指揮官、ファーエル少将の厳しい顔が映し出された。


鋭く、切り裂くような声が空気を震わせた。

「全艦、攻撃開始!」


その一言が引き金となり、宇宙の静寂は一瞬で戦場へと変貌した。連合軍旗艦「デミス」を中心に、整然と配備された戦艦群が一斉に火を噴いた。


重レーザー砲が赤い閃光を放ち、対艦ミサイル「マーベル」が尾を引いて飛翔する。轟音と閃光が宇宙を裂き、黒い虚無を赤と白の光で染め上げていく。


ルミナスの艦橋、その巨大な観測ウィンドウの先には、まるで銀河を横切る花火大会のような景色が広がっていた。


光の筋が交差し、爆発の連鎖が海賊要塞「リーフ」の外郭を撃ち抜く。装甲が剥がれ、内部構造が露出するたび、火花のような破片が舞い上がり、人工重力の影響でゆっくりと渦を巻いて漂った。


「うわっ…綺麗…でも、これ、殺戮の嵐だよね…」


キャスが無意識に漏らした言葉に、艦橋の空気が一瞬だけ冷えた。だが誰も否定しなかった。その美しさが、確かに破壊と死の産物であることを、誰もが理解していた。


貴志は黙ったまま、爆炎の連鎖を見つめていた。やがて、呟くように口を開く。

「凄まじい攻撃だ…何も残らないんじゃ…」


しかし、その言葉が終わらぬうちに、リーフ要塞が牙を剥いた。巨大な砲塔が回転し、怒涛の反撃が始まる。

蒼白い重レーザーが連合軍艦隊に向けて一直線に放たれ、その先頭にいた戦艦「デミス」に直撃。船体を包む防御フィールドが悲鳴のような音を立て、薄く歪んだ光を放ちながら弾けた。


「くそっ、やられたか…!」

貴志は咄嗟にディスプレイに目を凝らす。


艦隊の陣形が明らかに異常をきたしていた。

第1分艦隊と第3分艦隊が、妙に後方に布陣しているのだ。そして、前方には「ルミナス」を含めた数隻が突き出されていた。

「アス、ちょっと待て。ファーエル少将の艦隊が前に出過ぎてる。第1、第3分艦隊が後ろにいるぞ。ルミナスもこの位置…これ、危なくないか?」


コンソールを素早く操作していたアスが、悔しそうに眉をひそめて答えた。

「艦長、下がりたいのですが、後方の第1、第3分艦隊が退路を塞いでいます。ルミナスを含め、前線に押し出されている艦はすべてファーエル少将の配下…おそらく、意図的にです」


貴志の目が鋭く細まり、乾いた笑みが浮かんだ。

「つまり、俺たちは囮にされたってわけか。連合軍の内部抗争に巻き込まれて…」


アスは無言で頷く。その表情には悔しさと怒りが滲んでいた。


だが、次の瞬間、貴志の表情が一変した。


覚悟と闘志が宿る瞳で、全艦橋を見回し、力強く宣言する。

「そっかー。でも、やるしかないな! 俺たちで生き残ってやる!」


そのとき、レーダー担当のルミが悲鳴にも似た声を上げた。

「要塞から光点確認! 海賊艦が出てきたよ!」


レーダー上に点在する複数の光点。

それは、リーフ要塞から発進した海賊艦の艦隊。重武装フリゲート、襲撃型駆逐艦、小型高速ミサイル艦が混在する、多層構造の部隊編成だった。


「アス、ルナ、キャス、ルミ、始まったぞ! 各自戦闘準備だ。海賊艦を叩き潰してやる! 生き残るぞ!」


貴志の声が響き渡り、艦橋クルーたちは一斉に応答する。


「了解!」アスの冷静な声。


「了解だよー!」ルナの快活な返事。


「了解です…!」キャスの声は震えていたが、瞳は戦意に燃えていた。


「了解だよ」ルミの静かながらも力のこもった声が、それを締めくくった。


こうして、「ルミナス」の運命を懸けた長い一日が、ついに幕を開けた。


【ファーエル少将の視点:策謀と決意】

時刻10時、戦端が開かれたその瞬間。

空母「メディス」の艦橋には、緊張と研ぎ澄まされた空気が漂っていた。


戦況表示パネルには、味方艦の隊列と敵要塞の座標が立体投影されていた。青い光点が連合艦、赤い光点が敵艦を示している。その海のような空間に、無数の光が激しく交錯し始めていた。


ファーエル少将は、その中心に佇み、鋭い瞳でディスプレイを睨みつけていた。

「全艦、攻撃開始。」


自らの命令が通信網に走り、直後、戦艦「デミス」を筆頭に自艦隊が一斉砲撃を開始。主砲から解き放たれたレーザーとミサイルが放射状に飛び立ち、宇宙に色と光の奔流を描く。


その光景は、戦場というよりも、何か壮麗な舞踏のようですらあった。


だが、ファーエルの眼差しは一瞬たりとも(やわ)らがなかった。

「……?」


彼女の視線がディスプレイの左下に移動する。隊形、何かがおかしい。

「……第1分艦隊が後方に? 第3も?」


すぐに指を滑らせ、戦況を拡大する。自艦を中心に前線を構成すべき他部隊が、わずかに後退し、間隔を空けている。戦術上の必要性を欠いた、明らかな異常だ。

「どういうことだ。これは……?」


ファーエルは眉をひそめた。わずかに震える声で副官マール大尉が応答する。

「閣下、海賊艦が要塞から出撃しました。複数の艦艇がこちらに向かって接近しています!」


ファーエルは視線をディスプレイから外さず、小さく息を吐いた。

「この陣形じゃ、こちらの艦隊が矢面に立つ……一番火力を集中されやすい配置だ。……なるほど」


艦内は静まり返った。戦場の喧騒とは対照的に、「メディス」の艦橋には不気味な沈黙が漂う。

(はめ)められたな……」


彼女は唇を噛み、己の中でその結論に至った瞬間、怒りではなく、確信が芽生えていた。


この戦は、誰かが仕組んだ。自分と、その麾下の艦隊を前線に送り出し、火力を集めさせることで損耗させる。そして、その隙に後方の艦隊が主導権を得る。軍上層部の誰かが、政治的理由で動いたのだ。


自分の戦績と名声を、ここで潰すつもりなのだ。

「……だが、私は負けない。」


小さく、誰にも聞こえない声で呟いたファーエルの瞳には、いつしか微かな炎が宿っていた。

畏れも、怒りもない。ただ、この状況を突破し、生き延び、真実を暴き、裁きを下すために戦う、その意志のみ。


「マール大尉、全艦に指示を。隊形を維持したまま、海賊艦を各個撃破せよ。砲撃の優先度は、小型艦から順に。連携を崩されるな。」


マール大尉が緊張した面持ちで敬礼した。

「了解、全艦に通達します!」


その時、艦橋の背後のスクリーンに、ルミナスの艦影が映った。前線に突出し、敵の火線のただ中にある。


(……あの艦の艦長、貴志とか言ったか。巻き込んでしまったかもしれんな。だが――)


「この戦場で生き残れ。真に力ある者が、最後に語る資格を持つ。」


ファーエルは姿勢を正し、全軍の指揮を取るため、正面へと歩を進めた。艦橋の天井がわずかに震える。外では、戦争が本格化し始めていた。


彼女の命令一つで、戦局は動く。罠の中であろうと、炎の中を歩む者は、決して俯かない。


ファーエル・クラウス少将、信賞必罰の女傑は、今、己が正義と責任を背負い、宇宙にその名を刻もうとしていた。

ルミナス艦橋の緊張感と戦闘開始の壮絶な光景を、貴志の優しさと決意、アスの冷静さ、ルナの元気、キャスの緊張、ルミの経験で描きました。

連合軍内部の策略に巻き込まれた状況と、ファーエル少将の視点の触りを加えました。

次話では、ファーエル視点での戦闘を描きます。

ご期待ください。

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