第7話:護衛任務の始まり
第7話として、貴志が気持ちを新たに傭兵任務に挑み、アスからの提案で護衛任務を選ぶ過程、他の傭兵艦との交流を通じてこの世界のルールを学ぶ様子を描きました。
※一部読み辛い箇所がありましたので、改行等の修正を行いました。また、表題を章から話に変更しました。
翌朝、貴志は自室のベッドから起き上がり、気持ちを切り替えた。昨夜のアスとの会話で不安が和らいだこともあり、傭兵としての第一歩を踏み出す決意が固まっていた。彼は軍服を整え、ブラスターを腰に装着すると、艦橋へと向かった。
「アス、おはよう。今日から本格的に傭兵の仕事始めようと思う。掲示板で任務探しに行きたいんだけど、どう思う?」
艦橋のコンソールからアスの声が響き、すぐに実体化アバターとして貴志の前に現れた。
ハイヒールをカツンと鳴らし、穏やかな笑顔で応えた。
「おはようございます、艦長。その意気込み、素晴らしいです。私も同行しますので、早速交易区の掲示板へ向かいましょう」
二人は第3ドックから中央市場へ戻り、傭兵酒場内に設置されているの電子掲示板を眺めた。依頼は「海賊掃討」「遺跡探索」「輸送船護衛」など様々だったが、どれも難易度や報酬の基準が貴志には分からず、戸惑いが顔に出た。
「うーん、どれがいいのかさっぱりだ。アス、何かアドバイスないか?」
「艦長、初めての任務なら、まずは簡単な護衛任務はいかがでしょうか。輸送船を護衛しながら航路を進むもので、ノウハウを学ぶのに最適です。戦闘が発生する可能性はありますが、同行する傭兵艦もいますし、アストラリスの戦力ならそこらの傭兵艦では太刀打ちできませんよ」
アスが自信たっぷりに言うと、貴志は少し安心した。確かに、アストラリスのレーザー砲やミサイル、エネルギーシールドがあれば、そう簡単にやられることはなさそうだ。
「護衛任務か…それなら初心者の俺でも何とかなるかな。アスがそう言うなら、決めた。護衛任務で行こう」
「了解しました。掲示板から『カルナック-リガル航路 輸送船護衛』を申請します。
報酬はエネルギー資源、1単位(概ね、艦が1年行動可能なエネルギー量)現金で2万クレジット(日本円で換算すると、2千万円)所要時間は約2日間です。私が手続きを済ませますので、艦長は準備をお願いします」
貴志は頷き、アストラリスに戻って出発の準備を整えた。
任務当日、アストラリスは指定された集合地点であるカルナック交易区の外縁宙域に到着した。
スクリーンには、巨大な輸送船と、それを護衛する2隻の傭兵艦が映し出されていた。1隻はアストラリスより小型の軽巡洋艦、もう1隻は同サイズの駆逐艦だ。アスが通信を開き、他の艦と連絡を取った。
「こちら傭兵艦『アストラリス』、艦長の貴志です。護衛任務に合流しました。よろしくお願いします」
軽巡洋艦から、陽気な声が返ってきた。
「よう、新入り! 俺は『サラマンダー』の艦長、ダリオだ。初めてなら緊張するだろうが、気楽にやってくれ。護衛は基本、輸送船を無事に届けるだけだよ」
続いて、駆逐艦からも落ち着いた声が響いた。
「『ヴェガ』の艦長、リナだ。新人ならなおさら歓迎するよ。困ったら遠慮なく聞いてくれ」
貴志は少し照れながら応じた。
「ありがとうございます。初めてなんで、いろいろ教えてください」
航行が始まると、貴志は他の傭兵艦との交流を楽しんだ。通信越しに聞こえてくるのは、ダリオの軽い冗談やリナの的確なアドバイスだった。驚くべきことに、彼らの艦にもAI制御と実体化アバターが存在していると知った。
「ダリオんとこのAIは、でかい男の姿で出てくるんだ。戦闘中は頼りになるぜ」と彼が自慢げに言うと、リナが笑いながら付け加えた。
「私の『ヴェガ』のAIは子供っぽい女の子型だよ。でも、スキャン能力は抜群だから侮らないでね」
貴志はアスに目をやり、呟いた。
「アス、きみ以外にも実体化するAIがいるんだな。普通なのか?」
「この宙域では、戦艦のAIが進化してアバターを持つのは珍しくありません。私のようなスタイルは艦長のおかげですが、他の艦も個性豊かですね」
アスが微笑むと、貴志は少し誇らしい気分になった。
航路の半ばで、ダリオが通信越しに真剣なトーンで言った。
「新入り、護衛任務の基本を教えてやる。戦闘の掟だ。一番大事なのは、絶対に任務を放棄しないこと。途中で逃げ出すのは重罪で、傭兵登録剥奪どころか追われる身になる。分かったな?」
リナも頷きながら補足した。
「そうだよ、貴志。輸送船がやられたら俺たちの責任だ。でも、アストラリスなら火力も防御も十分。冷静にやれば大丈夫さ」
貴志はゴクリと唾を飲み込んだが、アスの声に励まされた。
「艦長、私がいます。戦闘が起きても、最適な指示を出しますからご安心を」
「うん、頼りにしてるよ、アス。みんなもよろしくな」
他の傭兵艦との交流を通じて、貴志は護衛任務の重さを実感しつつも、彼らに支えられている安心感を得た。航路はまだ半分。戦闘が起きるかもしれない緊張感の中、アストラリスは輸送船の側を守りながら進み続けた。
貴志は艦長席に座り、アスと共にこの初めての任務を全うする決意を新たにした。
貴志が護衛任務を通じて傭兵の世界に慣れ始め、他の艦長たちとの交流で絆を築く様子、アスのサポートと他のAIの存在が、この宙域の文化を示す要素です。次話での戦闘、ご期待ください。




