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第6話:訓練と夜の会話

第6話は、射撃訓練場でのアスとのやり取りや、貴志の内省、そしてアスとの深夜の会話を通じて、二人の関係性が深まる様子、感情の揺れや異世界での現実感を描きました。

※一部読み辛い箇所がありましたので、改行等の修正を行いました。また、表題を章から話に変更しました。

カルナック交易区での一日の喧騒を終え、貴志とアスはアストラリスへと戻った。艦の第3ドックでの補給は既に完了し、主機関、補助機関の出力を下げて静かに停泊する艦内は、市場の騒がしさとは対照的な落ち着きに満ちていた。


貴志は腰にぶら下げたブラスターを手に持つと、アスに提案した。

「アス、このブラスター、ちゃんと使えるように練習したい。艦内に射撃訓練場とかないか?」

「ありますよ、艦長。下部デッキに簡易的な射撃訓練場が備わっています。私が指導しますので、行きましょう」

アスが穏やかに微笑むと、貴志は少し安心した。彼女の存在が、彼にとって大きな支えになりつつあった。


射撃訓練場は、艦の狭いスペースを活用した簡素な施設だった。壁には標的が投影され、床には弾痕を吸収する特殊な素材が敷かれている。アスが貴志の横に立ち、ブラスターの基本的な操作を説明し始めた。


「まず、グリップをしっかり握ってください。照準は右目の高さに合わせ、引き金は軽く引くイメージで。エネルギー弾は反動が少ないので、姿勢を崩さないように注意してくださいね」


貴志は言われた通りに構え、標的を狙った。だが、初めての感覚に戸惑い、引き金を引いた瞬間、光線が標的の遥か上を通過してしまった。


「うわっ、全然当たらない…」


「焦らなくて大丈夫です、艦長。最初は誰でもそうですよ。もう一度、私の手を参考にしてください」

アスは貴志の背後に回り、彼の手をそっと添えて姿勢を整えた。ハイヒールの音がカツンと響き、彼女の柔らかな声が耳元で聞こえる。


「肩の力を抜いて…はい、そうです。そのまま狙って、撃ってください」

今度は光線が標的の中心近くに命中し、貴志は思わず笑顔を見せた。


「おおっ! 当たった! アス、すげえな!」

「艦長の飲み込みが早いからですよ。もう少し練習すれば、実戦でも十分使えるようになります」


その後も、アスは手取り足取り指導を続け、貴志は徐々に感覚をつかんでいった。何十発か撃つうちに、命中率も上がっていき、彼は満足げにブラスターをホルスターに戻した。


「よし、それなりになったかな。アス、ありがとな。疲れたから自室で休むよ」

「お疲れ様でした、艦長。おやすみなさい」

アスが軽く会釈すると、貴志は訓練場を後にした。


自室に戻った貴志は、ベッドに腰を下ろし、今日一日の出来事を振り返った。異世界への転移、傭兵登録、酒場でのトラブル、そしてブラスターの購入。まるで映画のような展開が、現実として彼に降りかかっていた。


「後には戻れないんだな…地球での生活はもう夢の中の話だ。でも、先に進むしかないか」


傭兵としての道を選んだ以上、戦闘は避けられない。アストラリスは優秀だし、アスがそばにいてくれる。でも、万が一がある。戦場で命を落とす可能性だってゼロじゃない。貴志は膝に置いた手を握り締め、不安と覚悟が交錯する胸の内を見つめた。


その時、自室のドアが軽くノックされた。

「艦長、入ってもよろしいですか?」


アスの声だった。貴志は少し驚きながらも、「どうぞ」と答えた。ドアが開き、アスが静かに入ってきた。いつもの軍服とハイヒール姿だが、どこか柔らかな雰囲気をまとっているように見えた。


「アス、どうしたんだ? 何か用かな?」

「いえ、艦長の様子が気になって。訓練の後、少し考え込んでいたようでしたので、お話ししたいなと思いまして」


アスがベッドの横に腰掛けると、貴志は少し照れながら話し始めた。異世界に来てからのこと、傭兵としての不安、アスへの信頼。言葉にすると気持ちが整理されていく気がした。アスは黙って聞き、時折優しく頷いた。


とりとめのない会話が続く中、アスがふと口を開いた。

「艦長、私にはあなたをお慰めすることができます。もし必要なら、いつでもおっしゃってくださいね」

貴志が膝の上で握り締めている右手に、アスは重ねるように両手を添えた。


貴志は一瞬目を丸くし、言葉の意味を理解した瞬間、顔が真っ赤になった。

「えっ!? お、お慰めって…何!?」


アスは穏やかに微笑みつつ、少し首を傾げた。

「艦長の心を軽くするお手伝いです。私、実体化アバターですから、様々な形でサポートできます。艦長が望むなら…」

「ちょ、ちょっと待て! アス、そういう気分じゃないんだよ、まだ!」


貴志は慌てて手を振った。アスの提案に驚きつつも、彼女の純粋な好意が伝わってきて、少し笑ってしまった。

「でもさ、アスとこうやって話してるだけで、だいぶ楽になったよ。もっと仲良くなって、いろんな経験を一緒にしていこう。今日はこれでいいかな」

「了解しました、艦長。私もあなたと一緒に過ごす時間が嬉しいです。おやすみなさい」


アスが立ち上がり、静かに部屋を出ていく。貴志はベッドに横になり、部屋の照明を暗くして目を閉じた。

異世界での不安はまだ消えないけれど、アスがそばにいる限り、何とかなるかもしれない。そんな思いを抱きながら、彼は眠りに落ちた。

次話では、訓練での協力や夜の会話を通じて、二人の関係が単なる艦長とAIを超えたものになり、傭兵任務が始まっていきます。

ご期待ください。


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