第5話:酒場での教訓
第5話では、酒場でのトラブルを通じて貴志がこの世界の厳しさを実感し、ブラスター購入で少しずつ傭兵らしい姿に近づく過程を描いています。
※読み辛い箇所がありましたので、改行等の修正を行いました。また、表題を章から話に変更しました。
傭兵登録を終えた貴志とアスは、カルナック交易区の中央市場近くにある酒場へと足を運んだ。
傭兵たちが集まるというその店は、「スターダスト・タバーン」という名で、入口には古びたネオンサインが点滅していた。
「艦長、傭兵登録完了のお祝いです。少し息抜きをして、ついでに情報収集をしましょう」
アスが穏やかに提案すると、貴志は少し緊張しながらも頷いた。
「そうだな。傭兵になった記念だし、ちょっとくらい飲んでもいいか。アスも何か頼むか?」
「私は実体化アバターですが、飲食は可能です。せっかくなので、この宙域の名物料理を試してみたいですね」
店内に入ると、木と金属が混ざった無骨な内装に、酒と汗の匂いが漂っていた。テーブルには屈強な傭兵たちが座り、大きな声で笑い合ったり、依頼の話をしたりしている。貴志とアスは隅の席に腰を下ろし、店員に飲み物と料理を注文した。
やがて運ばれてきたのは、青みがかったビールと、スパイスが効いた肉の串焼きだった。アスが一口ビールを飲むと、意外にも満足げな表情を浮かべた。
「この『ブルースター・エール』、微量の刺激性成分が含まれていて独特の風味がありますね。艦長もいかがですか?」
貴志もグラスを傾け、軽く咳き込みながら笑った。
「うわ、確かに変な味だ。でも悪くないな。異世界っぽくて面白いよ」
二人は料理をつまみながら、周囲の会話を耳に傾けた。
ある傭兵は「連合軍がまた辺境で小競り合いを始めたらしい」と話し、別の者は「最近、交易ルートで海賊が出没してる」と愚痴をこぼしていた。
アスはそれらを静かに記録しつつ、貴志に小声で伝えた。
「周辺宙域では、連合軍と海賊が主な勢力のようです。傭兵の仕事もその影響を受けそうですね」
「なるほど。護衛任務とか海賊退治とかが多そうだな。情報ありがとな、アス」
穏やかな時間が流れていたその時、背後から野太い声が響いた。
「おい、新入り。いい女連れて楽しそうだな。俺らにも奢れよ」
振り返ると、顔に傷のある大柄な男が仲間二人を連れて立っていた。酒臭い息を吐きながら、貴志とアスを睨みつけている。貴志は慌てて手を振った。
「いや、俺らただ飲んでるだけで…絡まないでくれよ」
「何!? 舐めた口ききやがって!」
男が一歩踏み出し、テーブルを叩いた瞬間、周囲が静まり返った。一触即発の空気が漂う中、アスが冷静に立ち上がり、男と向き合った。
「私の艦長に危害を加えるなら、相応の対応を取ります。穏便に済ませることをお勧めします」
その言葉に、男が一瞬怯んだように見えた。だが、次の瞬間、意外な声が割って入った。
「まあ待て、ハーク。お前らしくもないぞ」
声の主は、別のテーブルに座っていた中年の傭兵だった。彼は立ち上がり、貴志たちの方へ歩み寄ってきた。
ハークと呼ばれた男は舌打ちしつつも、仲間を連れて席に戻った。
「すまなかったな、新入り。あいつらは酒が入ると気が荒くなるんだ。俺はガレン、傭兵登録場から派遣されてる監視役だ。試験合格した貴志ってのはお前だろ?」
貴志は驚きながらも頷いた。
「え、はい。そうです。監視役って…?」
「登録直後の新人を観察して、トラブルがないか見てるのさ。で、お前さっきの対応見て思ったが、この交易区じゃ、腰にブラスターでもぶら下げてないと舐められるぞ。こんな絡まれ方はどこでもある。武装して見た目から威圧感出しておけ」
ガレンはそう言って、自分の腰に下がる光線銃を軽く叩いた。
アスが貴志に小声で補足した。
「ブラスターは個人用のエネルギー兵器です。この宙域では一般的な護身用装備ですね。私も同意見です、艦長」
貴志は少し考え込んだが、さっきの緊張感を思い出し、決意した。
「分かった。アス、一緒にブラスター買いに行こう。こんな目にまた合うのは嫌だ」
「了解しました。市場に武器商がいますので、そちらへ向かいましょう」
ガレンに見送られながら、貴志とアスは酒場を出た。市場の一角にある武器商の店で、貴志はシンプルなデザインのブラスターを選んだ。
黒い銃身に赤い発射口が付いたそれは、手に持つと意外な重みがあった。アスが使い方を簡単にレクチャーし、貴志はそれを腰に装着した。
「これで少しは傭兵っぽくなったかな?」
「はい、艦長。見た目も立派ですし、私がそばにいますから安心してください」
アスが微笑むと、貴志は照れ笑いを浮かべた。
酒場での一件は教訓となり、彼はこの世界で生き抜くための準備をまた一つ整えたのだ。掲示板の依頼を眺めながら、貴志は次のステップを考え始めた。
アストラリスと共に、どんな仕事が待っているのか、その答えが、すぐそこに迫っていた。
アスとの信頼関係も強調しつつ、傭兵での一歩を進めて行きます。次話もどうぞご期待ください。