第26話:応接室での交渉
第26話として、貴志とレミアが応接室で対話し、レミアの孤児保護の意志と海賊行為の葛藤が明らかになる中、貴志が解決策としてキャスを艦長に仕立てる提案、感情のぶつかり合いとなどを描きました。
※表題を章から話に変更しました。
【レミアとの交渉】
貴志はレミアに勧められるまま、基地の応接室へと足を踏み入れた。簡素だが清潔な部屋には、中央に大きなソファーが置かれ、その周りにテーブルと椅子が配置されていた。貴志はアスに目配せし、事前に部屋の安全確認を頼んでいた。アスが各種センサーでスキャンし、小声で報告した。
「艦長、部屋内に普通の監視カメラと音声録音センサーがあるだけです。武器や罠の兆候はなく、特段の違和感はありません」
「分かった、アス。安心はできないけど、とりあえず座ろう」
貴志は中央のソファーに腰を下ろし、アスがその隣に控えた。レミアが対面のソファーに座ると、突然、部屋の扉が開き、数人の子供たちが駆け込んできた。
「レミア姉ちゃん、お客さん来たの!?」
「ねえ、何かお菓子ある?」
孤児たちがレミアを取り囲み、ワイワイと騒ぎ始めた。貴志は驚きつつも、その無邪気な姿に少し緊張が解けた。しかし、その中の一人、20歳ほどの若い女性が鋭い声で叱咤した。
「みんな、静かに! レミア姉さんが大事な話をしてるんだから、後ろで大人しくしてなさい!」
彼女はキャスと呼ばれ、孤児たちの最年長らしい。子供たちはしぶしぶ騒ぐのをやめ、レミアの後ろに並んで立った。貴志はキャスの仕切りぶりに感心しつつ、会談の開始を待った。
レミアが改めて口を開き、話し始めた。
「貴志、私が何で海賊をやってるか、ちゃんと聞いてくれ。私は孤児だった。戦争で両親を失って、この宙域で生き抜いてきた。でも、ここじゃ孤児は奴隷か死ぬかしかない。私はそんな子供たちを保護してるんだ。略奪した物資は、彼らの食料や生活のために使ってる。これからも孤児たちを守っていく為には、海賊行為を行わねばならない。それが私の意志だ」
レミアの声には強い決意が込められていた。貴志はその言葉に圧倒されつつも、彼女の過去と孤児たちの置かれた過酷な状況に心を動かされた。しかし、海賊行為の事実を無視するわけにはいかない。彼は冷静に切り出した。
「レミア、お前の意志は分かった。孤児を守りたい気持ちも本物だと思う。でも、海賊行為は許されることじゃないし、過去の悪事は消せないよ。海賊行為を辞め、これから真っ当な職業に就いて、罪を償う道を考えてくれないか?」
レミアの表情が一瞬硬くなり、語気を強めて反論した。
「真っ当な職業? できたら海賊なんかやってないよ! この子たちをどうすればいいんだ? 孤児は減るどころか増えてる。連合軍も帝国軍も見て見ぬふりだ。私はこの子たちを守るために戦ってるんだ!」
彼女の感情が溢れ出し、声が震えた。貴志はその熱意に押されつつも、解決策を模索した。
「じゃあ、俺たちみたいに傭兵にならないか? 連合軍の仕事なら安定した報酬が得られる。基地の子供たちも守れるだろ」
レミアが苦笑いを浮かべ、首を振った。
「できたらとっくになってるよ。基地を開けて任務に出てる間、この子たちをどうする? 連れ回すわけにもいかないし、置いてくなら誰かが面倒を見なきゃいけない。先が見えないんだ」
貴志は言葉に詰まった。確かに、基地と孤児を維持しながら傭兵稼業に転じるのは現実的ではない。議論が行き詰まる中、彼はキャスの立ち回りに目を留めた。彼女は子供たちをまとめ、冷静に状況を見守っている。その姿に、貴志はひらめいた。
「レミア、ちょっと待て。キャスって子、すごくしっかりしてるな。仕切りも上手いし、頭も切れそうに見える。彼女を艦長に仕立て上げて、お前と一緒に傭兵として動くのはどうだ?」
レミアが驚いたようにキャスを見た。キャスも目を丸くし、慌てて口を開いた。
「え、私!? レミア姉さんの代わりなんて無理だよ…」
だが、レミアが少し考え込み、貴志に視線を戻した。
「キャスを艦長に…確かに、あの子は頭がいいし、みんなをまとめる力もある。私が基地を守りながら、キャスが艦を動かすなら、もしかして…」
貴志が勢いづいて続けた。
「そうだよ。キャスがブラック・ファントムを指揮して傭兵任務に出れば、お前は基地で孤児たちを守れる。俺が連合軍に話をつけて、キャスを傭兵として登録する手助けもできる。どうだ?」
レミアは沈黙した。キャスも不安げにレミアを見つめたが、彼女の目には可能性を見出す光が宿っていた。アスが小声で貴志に囁いた。
「艦長、良い提案です。キャスの能力なら、レミアの負担を減らしつつ基地を維持できるかもしれません。連合軍への説得も、私がデータを揃えてサポートします」
貴志は頷き、レミアに決断を促した。
「レミア、これならお前が海賊をやめる理由になるだろ。キャスを育てて、孤児たちを守りながら新しい道を歩めよ。俺も協力する」
レミアは深く息を吐き、キャスの肩に手を置いた。
「…貴志、お前の提案、考えてみるよ。キャス、やってみる気はあるか?」
キャスが少し震えながらも、決意を込めて答えた。
「レミア姉さんが信じてくれるなら、私、頑張ってみるよ。子供たちのためにも…」
応接室に新たな希望の兆しが生まれた。貴志とレミアの対話は、戦いではなく協力への道を開きつつあった。しかし、具体的な計画と連合軍への交渉が待っている。貴志はアスと共に、この提案を実現させるための準備を始めた。
レミアの孤児保護の意志と、貴志の解決策がぶつかり合い、キャスを艦長に仕立てる提案で新たな展開が生まれる場面を描きました。双方の葛藤が解消に向かい、キャスが成長していきます。
次話もご期待ください。




