第24話:霧の中の対話
第24話として、ブラック・ファントムの艦長レミアと貴志が初めて通信で対面し、互いの立場と意図を探り合う場面を描きました。緊張感と会話を通じた駆け引きを強調しています。
※表題を章から話に変更しました。
『ブラック・ファントム』の艦橋では、艦長レミアがコンソールを前に緊張していた。手に汗が滲み、彼女の緑色の瞳はスクリーンに映るアストラリスの姿をじっと見つめていた。ここでの判断が、彼女一人の命だけでなく、基地にいる仲間や孤児たちの未来をも左右する。
「初めの通信が全てを決める…失敗したら、みんなが危険に晒される」
レミアは深呼吸し、艦のAI「シオン」に確認した。
「シオン、アストラリスの状態はどうだ? 武器は起動してるか?」
シオンがデータをスキャンし、冷静に答えた。
「艦長、アストラリスのウェポンシステムは稼働していません。エネルギー反応は通常航行レベルです。攻撃態勢には入っていないようです」
その報告に、レミアは少しだけ安心した。だが、完全に油断するわけにはいかない。彼女は通信を開く決意を固めつつ、どう切り出すか迷っていた。戦うのか、交渉するのか――基地を守るためには、アストラリスとの対話を試みる価値がある。
「シオン、通信回線を開いてくれ。私が直接話す。アストラリスの艦長がどんな人物か、見極めたい」
「了解しました。通信チャンネルを準備します。いつでも開始できますよ」
レミアは頷き、コンソールのボタンを押した。霧の中での対話が、今始まろうとしていた。
一方、アストラリスの艦橋では、貴志がブラック・ファントムの様子を観察していた。敵艦が武器を起動していないことに気づきつつも、罠の可能性を捨てきれずにいたその時、アスが報告した。
「艦長、ブラック・ファントムから通信信号です。コンタクトを求めてきています。どうしますか?」
貴志は一瞬驚いたが、すぐに決断した。
「通信か…戦う前に話が聞けるなら、その方がいい。アス、回線を開いてくれ。ルナ、ドローンは待機のままで頼む」
「了解しました。通信回線、接続します」
「うん、お兄ちゃん! ドローンちゃんたち、じっとしてるよ!」
スクリーンに映像が映し出され、貴志は初めてブラック・ファントムの艦長と対面した。そこに現れたのは、鋭い目つきの若い女性だった。25歳ほどの年齢で、黒い軍服に身を包み、短く切られた赤茶色の髪が印象的だ。海賊というイメージとはかけ離れた、凛とした雰囲気を漂わせていた。
レミアが最初に口を開いた。
「こちら『ブラック・ファントム』艦長、レミア。私はお前が追ってきた相手だ。名前を教えてくれ。戦うにしても、名も知らぬ相手とやり合うのは不条理だ」
貴志は彼女の落ち着いた口調に少し驚きつつ、慎重に応じた。
「俺は『アストラリス』の艦長、貴志だ。連合軍の依頼で、お前を追ってる。ブラック・ファントムって名は知ってるよ。周辺宙域で輸送船を襲って略奪してる海賊だろ? その行為をどう説明するつもりだ?」
レミアは貴志の叱責に一瞬目を伏せたが、すぐに顔を上げて答えた。
「貴志、か。私は確かに略奪を行っている。それを否定するつもりはない。だが、私にはそうせざるを得ない理由がある。お前が連合軍の手先なら、私をただの悪党と決めつけるだろうが、話くらいは聞いてくれ」
貴志は眉を寄せ、アスと目を合わせた。アスが小声で囁いた。
「艦長、過去の記録ではブラック・ファントムは確かに海賊行為を繰り返していますが、民間人を殺した記録はありません。物資だけを奪うパターンが特徴的です。彼女の言う理由を聞く価値はあるかもしれません」
貴志は頷き、レミアに視線を戻した。
「理由があるって言うなら、聞かせてくれ。俺は連合軍の傭兵だ。お前が海賊やってるのは事実だし、任務としてお前を討伐するつもりだった。でも、話す気があるなら、まずはその理由を聞こう」
レミアは貴志の言葉に少し安堵したように見えた。彼女は深く息を吸い、静かに話し始めた。
「私はこの宙域で孤児だった。戦争で親を失い、生きるために這い上がってきた。だが、この世界じゃ親のいない子供は奴隷か死ぬかの二択しかない。私はそんな子供たちを保護してる。略奪した物資は、彼らの食料や生活のために使ってるんだ」
貴志は驚きを隠せなかった。海賊行為の裏にそんな背景があるとは思ってもみなかったのだ。
「孤児を保護…? それが本当なら、立派な理由かもしれない。でも、輸送船を襲うのは犯罪だ。連合軍だって見過ごせない。他に方法はなかったのか?」
レミアが苦笑いを浮かべた。
「他に方法? この宙域で孤児を救う手段なんてない。連合軍も帝国軍も、自分たちの戦争にしか興味がない。私は子供たちを守るためなら、海賊でも何でもやる覚悟だ。貴志、お前はどうだ? 連合軍の命令で私を殺すだけで満足なのか?」
貴志は言葉に詰まった。レミアの覚悟と、彼女の背負う事情が、彼の心を揺さぶった。アスが静かに提案した。
「艦長、彼女の話が本当なら、戦う以外の選択肢も考えられます。基地の状況を確認できれば、真偽が分かりますよ」
貴志は頷き、レミアに問いかけた。
「レミア、お前の言う基地に孤児がいるなら、俺に見せてくれ。それが本当なら、戦うだけが答えじゃないかもしれない。どうだ?」
レミアは一瞬迷ったが、貴志の真剣な眼差しを見て決意した。
「…分かった。基地に来てくれ。私が何のために戦ってるか、自分の目で確かめてくれ」
通信が途切れ、アストラリスとブラック・ファントムは霧の中で対峙を続けた。貴志はレミアの言葉を信じるべきか迷いつつ、次の行動を決めるためにアスとルナと話し合う準備を始めた。戦端を開くか、対話を進めるか――その選択が、両者の運命を大きく左右しようとしていた。
レミアと貴志が通信で初対面し、互いの立場を明かし合う場面を描きました。レミアの孤児保護という動機が明らかになり、貴志に戦う以外の選択肢を考えさせる展開となっています。
次話では、レミアの基地を訪問します。
ご期待ください。




