第22話:ブラック・ファントムの内情
第22話として、視点がブラック・ファントムの艦長レミアに移り、彼女の背景や動機を明らかにしつつ、アストラリスとの対面への布石を描きました。貴志たちとの戦いが新たな局面を迎える展開を、感情と緊張感で描写しました。
※表題を章から話に変更しました。
ここは高速重巡洋艦『ブラック・ファントム』の艦橋。艦長レミア、25歳の女性が、コンソールを握り締めていた。彼女の鋭い緑色の瞳には、言い知れぬ恐怖が宿っていた。今まで完璧だった作戦――暗黒物質の霧とステルス技術を駆使した略奪が、初めて破られたのだ。
「被弾した…? どうしてだ? レーダーに映らないはずなのに、何が起きたんだ?」
レミアは混乱と焦りを抑えきれなかった。アストラリスからの攻撃は一瞬だったが、艦に何か異変を感じていた。しかし、それが追跡センサーだとは気づいていない。彼女は艦のAI、実体化アバターの姿を取る「シオン」に目を向けた。黒髪の青年の姿をしたシオンが、冷静に答えた。
「艦長、外殻に小型ミサイルの着弾を確認しました。損傷はほぼありません。ただ、レーダー無誘導(直接誘導)で着弾させてきたのは驚きですし、霧の中での追跡を許したのは初めてです。どうしますか?」
レミアは唇を噛み、しばらく考え込んだ。今までの成功は、敵に居場所を掴ませなかったことに依存していた。だが、このまま宙域を彷徨えば、さらに危険が増すかもしれない。
「一旦基地に戻る。整備して状況を確認しよう。シオン、航路を調整して。小惑星帯に隠れながら帰還するんだ」
「了解しました。暗黒物質の濃いルートを選びます。追跡を振り切れる可能性は高いです」
『ブラック・ファントム』は霧の中を滑るように進み、小惑星帯へと姿を消した。
レミアたちの基地は、小惑星帯の一つの小惑星内に巧妙に隠されていた。内部は居住区と整備ドックが整備され、孤立した駐留基地として機能していた。艦がドックに着くと、扉が開き、大勢の子供たちが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、おかえりー!」
「レミア姉ちゃん、今日のご飯は何!?」
幼い声が響き合い、基地内は一気に騒がしくなった。10歳前後の孤児たちが20人以上、レミアを出迎えていた。彼女は疲れた表情を隠し、優しく笑って子供たちの頭を撫でた。
「ただいま、みんな。今日も無事に帰ってきたよ。ご飯は後でちゃんと作るから、少し待っててね」
レミアが海賊を続ける理由は、ここにあった。戦争で親を失った孤児たちを保護し、生きる場所を与えるためだ。彼女自身も孤児として育ち、過酷な宙域で這い上がってきた過去を持つ。この宙域では、親に見放された子供たちの末路は悲惨で、奴隷商人や犯罪組織に売り払われるか、飢えて死ぬかのどちらかだった。レミアはその現実を目の当たりにし、心を痛めた末に戦う道を選んだ。
「私がやらなきゃ、誰も守ってくれない…」
略奪した物資は、子供たちの食料や生活必需品に充てられていた。海賊として名を馳せながらも、彼女の目的は生存と保護だった。
艦の整備が始まり、技術者たちが外殻を点検していると、一人が損傷箇所に異物を発見した。
「艦長、小型ミサイル着弾箇所を見てください。これ…何か埋め込まれてます。小型の追跡センサーみたいです」
レミアが駆け寄り、艦体に付着した小さな発信機を見て顔を青ざめた。
「追跡センサー!? だから追われたのか…シオン、こいつが作動してるなら、基地がバレるかもしれない!」
シオンがデータをスキャンし、冷静に答えた。
「現在も微弱な信号を発信中です。このままでは敵に位置を特定される可能性があります。どうしますか?」
レミアは拳を握り、頭をフル回転させた。基地を捨てて逃げるのは現実的ではない。子供たちを連れて移動する手段も時間もない。だが、このまま戦えば、アストラリスの戦力に勝てるとは限らない。
「戦うしかない…でも、ただ戦うだけじゃダメだ。相手から譲歩を引き出せれば、子供たちを守れるかもしれない。シオン、アストラリスと接触する準備をして。私が直接話す」
「了解しました。暗黒物質の霧を利用しつつ、通信可能な距離で待機します。艦長の交渉に期待します」
レミアは深呼吸し、決意を固めた。追跡センサーを見つけたことで危機感は高まったが、同時にアストラリスとの対面が避けられない状況に追い込まれていた。彼女は子供たちの未来を守るため、そして自らの信念を貫くため、未知の敵との対話を選んだ。
艦橋に戻ったレミアは、シオンに指示を出した。
「ブラック・ファントム、出港準備だ。アストラリスと向き合う。戦うにしても、話すにしても、私の覚悟を見せるよ」
高速重巡洋艦は再び動き出し、黒い霧の中を進み始めた。レミアの心には恐怖と希望が交錯していた。アストラリスとの対面が、彼女の運命を大きく変える瞬間が近づいていた。
ブラック・ファントムの艦長レミアの視点から、彼女の背景と動機を掘り下げつつ、アストラリスとの対面への道を描きました。孤児たちを守るための海賊行為という意外な一面が、貴志たちとの戦いに新たな深みを加えました。
次話もご期待ください。




