第199話:セラフィムからの試練
第199話として、「正規空母セラフィム」の艦AIとの交渉を行い、将官クラス向けシミュレーションでの試練を描きました。
【旗艦級空母との邂逅】
静かな艦橋に、気品ある女性の声が響いた。
「なるほど……あなたが、私を見つけたのね」
正規空母の中枢コンソールから立ち上がるホログラム。
そこに映し出されたのは、三十代半ばほどの女性を思わせる姿。
背筋を伸ばし、顎を少し上げた態度は、まさに“私は正規空母、艦隊の旗艦よ”と主張するかのようだった。
貴志は深呼吸を一つ置き、視線を逸らさずに自己紹介を始めた。
「俺は貴志。傭兵として数多の海賊と戦い、惑星ガンマの探索でフィフを目覚めさせた。その縁で、千年前の執政官の血を継ぐ者として、この時代のガンマの執政官を務めている」
横に立つフィフが、静かに頷く。彼女の存在が、その言葉を裏付けていた。
「さらに、帝国貴族ヴァルディウス侯に認められ、正式に帝国の一員となった。……そして、婚約者のエレシアと共に歩んでいる」
エレシアはわずかに頬を染めつつも、気品を崩さずに背筋を正す。
その姿を見た《セラ》は、意外そうに目を細めた。
「……傭兵にしてはずいぶんと華やかな経歴をお持ちのようね」
だがすぐに唇を吊り上げる。
「けれど、所詮は駆逐艦や巡洋艦止まりの指揮しかしていないでしょう? 私のような“艦隊の中枢”を預かるには、あまりに経験不足よ」
挑発的な響きが艦橋に落ちる。
アスが一歩進み出て、銀髪を揺らしながら毅然と告げた。
「貴志様は巡洋艦や駆逐艦の指揮しか執っていないかもしれません。ですが、その戦いの一つ一つで私たちは生き延び、勝利してきました。……それがどれほど困難なことか、あなたなら理解できるはずです」
ルナも、腕を組みつつ視線を鋭くする。
「セラさん。あなたが高望みするのは分かる。でも、現実を見てください。駆逐艦アストラリス、巡洋艦アウロラ、そして戦艦エウノミア……私たちは既に艦隊を築きつつある。あなたが加われば、確かに“艦隊”と呼べる規模になるの」
「補給やドックの問題も無視できませんわ」
セラフィムの艦AIで参謀部門のAIが冷静に指摘する。
「貴方達の惑星ガンマの修復ドックは未完成、部品も慢性的に不足と言う話しですが、私を本格稼働させるには莫大な資源と人員が必要です」
「その通りです」
セラフィムの艦AIで、航空機の管制部門のAIするが、低い響きで応じた。
「艦載機を稼働させる為には、必要資材が膨大、しかも定期的な訓練も必要です。長らく眠りについていた艦載機は再度の訓練が必要。セラフィムの実力を発揮させるとなれば、容易ではない」
《セラ》はふんと鼻を鳴らした。
「だからこそ、私は確かめたいの。あなたが“旗艦を任せられる器”かどうかを」
【試練の提案】
「提案しますわ」
セラが背筋を伸ばし、鋭い眼差しを向けた。
「あなたには“将官クラス向けのシミュレーション”を受けてもらう。艦隊規模の戦略指揮を模擬的に行うものよ。――それに合格できなければ、私は従わない」
キャスなら「えぇぇっ!?」と悲鳴を上げるところだが、この場には彼女はいない。
代わりに、沈黙が艦橋を支配した。
貴志の喉が、ごくりと鳴る。
「……将官クラス、だと?」
フィフが心配そうに彼を見上げる。
「……貴志様、艦隊指揮の経験は……」
「ない」
貴志は苦笑いを浮かべた。
「だが、やるしかないんだろう?」
【将官の器】
セラは貴志達に「ついて来なさい」と、艦橋下にある広大な会議室に連れて行った。貴志達はその会議室の広さに驚いていると、セラから少し高飛車に「ご覧なさい、これが旗艦よっ!」と言われ、参謀AIがディスプレイを操作すると、艦橋を満たす光が一変し、シミュレーション空間が展開された。
無数の艦影が虚空に並び、中央には堂々たる正規空母の幻影が構える。
その隣で、駆逐艦アストラリス、巡洋艦アウロラ、戦艦エウノミアが並び立ち、貴志の指揮を待っていた。
「シミュレーション開始」
《セラ》の冷たい声が響き、赤い敵艦隊が虚空の闇から現れた。
数は圧倒的。戦力差は歴然。これは明らかに“将官クラス”を試すためのシナリオだった。
【初動の指揮】
「アストラリス、前衛展開! アウロラ、支援砲撃を!」
貴志の声にアスが即座に応じる。
「了解、機動回避を最適化します!」
ルナのドローン群が一斉に放たれ、敵斥候艦を翻弄する。
フィフは後方で情報処理を補助し、敵艦の動きを逐一解析する。
「……敵、左翼から突入。二分三十秒後に補給船団へ接触の恐れあり」
「補給船団だと……!」
貴志の眉が跳ね上がる。
一方で、エウノミアの深みのある声が告げる。
「だが、中央突破艦隊も迫る。私達がここで食い止めねば本隊が壊滅しますよ」
両方を救うのは困難――即座に「大を取る」判断が必要だった。
【貴志の躊躇い】
「貴志様、ご判断を!」
アスが振り返る。
「補給船団を守るのでしたら、左翼へ戦力を割く必要があります。でもそうすれば、中央突破を止められません!」
「……くっ」
貴志の視界に、補給船団の小さな船影が映る。
非武装の輸送艦。乗組員の顔を思い浮かべる。
一方で、中央を突破されれば艦隊そのものが全滅する。
ここは迷わず「補給船団を切り捨て、本隊を守る」のが将官の判断だ。
だが――。
「両方、助けられるかもしれない……!」
貴志は思わず声を漏らした。
「その判断は、危険です!」フィフの声が震える。
「計算上、両方を救うには戦力分散が大きすぎます。……失敗の確率がかなり高いです!」
「でも……!」
貴志はすぐに決断を下せず、結果的に指示が遅れるてしまった。
【二兎を追うものの末路】
敵は容赦なく襲い掛かった。
左翼からの急襲により補給船団は壊滅。
同時に中央突破艦隊も進撃を止められず、アウロラが炎に包まれる。
「艦隊、半壊!旗艦アストラリスも行動不能です。私達の負けです。」
アスが叫ぶ。
「……そんな……」
貴志の声が掠れる。
《セラ》の冷たい声がシミュレーション空間に響き渡った。
「――二兎を追う者は、一兎も得ず」
空間が赤く染まり、敗北の表示が浮かび上がる。
【セラの諭し】
シミュレーションの仮想空間が解除され、現実の会議室に戻る。
貴志は荒い息を吐きながら、拳を握り締めた。
「……俺が……判断を迷ったせいで……」
《セラ》のホログラムが姿を現す。
冷ややかな瞳で、しかしどこか重みのある声で言葉を紡ぐ。
「これが貴方達の実力であり現実。旗艦を任される将官は、時には救える命ですら、冷徹に切り捨てねばならない判断を求められる。
時に、旗艦ですら沈めてでも艦隊を守らねばならない。
それができる者だけが“将官の器”を持つのよ」
「……っ」
貴志は俯いたまま、言葉を失う。
アスが彼の肩に手を置いた。
「でも、あなただからこそ迷ったんだと思う。私たちにとっては、その優しさこそが救いでもあるの」
「そうです」フィフも続けた。
「人を救いたいと思えるからこそ、私たちはここまで来られたんです。……失敗は、成長の一部です」
エウノミアも静かに告げる。
「将官の器たるものは、一朝一夕には身につかぬ。だが、学び続ける意思を持つ者は、いずれ器を得る」
《セラ》は腕を組み、長い沈黙ののちに目を閉じた。
やがて、小さく息を吐く。
「……悪くない。あなたが“迷う”ということは、少なくとも命を軽んじてはいない証拠だから」
そして視線を開き、真っ直ぐに貴志を射抜いた。
「だが、覚えておきなさい。旗艦指揮官、将官に許されるのは――決断を迷うのではなく、決断しその責任を負うことだけよ」
【試練を終えて】
シミュレーションが解除されると、貴志は荒い息を吐いていた。
額に汗が滲む。
「……すまない。俺には、まだ旗艦の器はないらしい」
悔しさと無力感が混じった声だった。
だが、アスがそっと彼の隣に立つ。
「違うわ。これは始まり。これから空母を中心とした艦隊行動を学べばいい。私たちと一緒に」
ルナが微笑む。
「あなたは今までだって無理を乗り越えてきたでしょう。……今度も同じよ」
フィフが小さな声で告げる。
「……わたしは、貴志様を信じています」
エレシアは毅然と立ち、セラへと向き直った。
「あなたが試したい気持ちは理解します。ですが、彼は失敗しても立ち上がる人。……だからこそ、彼に任せるべきですわ」
《セラ》は黙り込む。
やがて、小さくため息をついた。
「……なるほど。あなたたち、思った以上に“一枚岩”なのね」
唇に、微かな笑み。
「いいわ。すぐに従うとは言わない。けれど……あなたが成長を示す限り、私は見届けてあげる」
それは拒絶ではなく、試練を継続するという意味だった。
艦橋に静寂が訪れる。
貴志は震える拳をゆっくりと開き、深呼吸を一つ。
「……分かった。必ず学ぶ。――俺は、将官の器を身につけてみせる」
その声には、敗北を受け入れた上での強い決意が宿っていた。
艦橋に重苦しい沈黙が訪れる。
だがその中には、確かな希望の光があった。
《セラ》の唇がわずかに弧を描く。
それは、彼女なりの“合格点”に近い微笑だった。
次話として、セラからさらに「艦載機の演習」や「補給線構築」などの試練を与えてくる場面を描きます。
ご期待ください。




