表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型から始まる転移  作者: 昆布


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/265

第193話:小惑星上の探索

第193話しとして、座礁後の探索、朽ちた古戦艦への突入、艦AIとの遭遇と交渉、仲間加入の瞬間を、恐怖感を交え、描きました。

【小惑星上の探索】

アストラリスの艦体が、岩肌に軋むような音を立てて座礁した後、時間はしばらく止まったように思えた。

誰もが息を殺し、船体の異常音を聞き逃すまいとしていた。


「……生きてるだけ、奇跡だな」

貴志が静かに呟き、艦内の緊張が少しだけ緩む。だが現実は重くのしかかっていた。

主機関は沈黙し、この小惑星から脱出するには修復が不可欠。そして、当初の目的であるエウノミアの部品もまだ手に入っていない。


「艦長、ご指示を」

アスが迷いなく言う。その冷静さが艦橋の灯火のように心強い。


「分かった。主機関修復班と部品調達班の二班に分けて行動する」

貴志は即座に判断した。

「修復班はスール、ルナ、エレシア、シア。主機関をどうにか蘇らせてくれ」


「はいっ!」

スールは少し強ばった表情を見せたが、その瞳には整備士としての責任感が宿っていた。


「探索班は俺、アス、フィフ、そしてエウノミアだ」

視線を順に巡らせると、皆が無言で頷いた。


「艦長、外の放射線量は低レベル。通常宇宙服での活動は可能です」

フィフの報告が、緊張の中にも冷静さをもたらす。


【朽ちた古戦艦】

四人は宇宙服を着込み、気密ハッチを抜けると、小惑星の薄暗い地表に降り立った。

照明を照らすと、その視界に広がったのは、まるで骸のように横たわる一隻の巨大戦艦だった。艦首は崩れ、外殻は幾多の隕石に抉られている。黒く錆びた装甲板は、時代に飲み込まれた証そのものだった。


「……古い。エウノミアより、ずっと前の型ですね」

アスが冷徹な声で評価する。


「艦齢、推定二百年以上。通常ならとっくに全システムが死んでいるはずです」

フィフは淡々と解析データを読み上げた。


エウノミアは黙って艦を見つめていた。その表情は硬く、どこか懐かしさすら滲んでいた。

「……この型式、知っている。建造番号群〈アガート・シリーズ〉。私が設計された時代よりさらに前……」


「つまり、かなりの年代物の骨董品か」

貴志が吐き捨てるように言った瞬間、その“骨董品”の巨大な艦影が、不気味に彼らを見下ろしているように感じられた。


【艦内侵入】

エアロックは完全に固着し、外部からの操作開く気配はなかった。

「……焼き切るぞ」

貴志がレーザーガンを構え、発射トリガーを引くと、赤い光が重々しい音と共に鋼鉄を溶かしていく。焼ける金属の匂いがヘルメット内にまで錯覚として広がる。


やがて、じりじりと煙を上げながら扉が崩れ落ち、暗い艦内が口を開けた。


中は荒れ果てていた。崩落した壁材、散乱する工具や生活物資。誰も戻らなかったことを示すように、椅子や机が無残に倒れている。

「……緊急脱出したんだろうな」

貴志は小さく呟いた。


「残骸の放置具合からして、急いでいたのでしょう」

フィフが淡々と補足する。その声には、かすかに冷たさと同時に憐憫の色も滲んでいた。


【蘇る艦橋】

やがて艦橋に辿り着いたとき、全員の動きが止まった。

ふいに、暗闇の中でうっすらと光が点ったのだ。

古びたパネルに埋め込まれた照明が、一つ、また一つと灯り始め、長い眠りから覚めた亡霊のように艦橋を照らす。


「電源が……生きている?」

アスが眉をひそめる。


「補助機関が稼働開始。驚くべき耐久力」

フィフが静かに分析するが、その声音は人ならざる不気味さを帯びていた。


そして――

『……来訪者を確認。生体ID識別不能。』


艦橋の中央、朽ちたコンソールから、掠れたような声が響いた。金属の摩擦のように硬質で、それでいてどこか人間臭さを帯びている。


「誰だ」

貴志が即座に問いかける。


『私は……戦艦〈アガート・アケロン〉の艦載AI。名称は……アケロン。』


その名が告げられた瞬間、艦橋の空気はさらに重く沈んだ。


【交渉】

『目的を告げろ、来訪者』

アケロンの声は冷淡だった。


貴志はためらわず答える。

「俺たちはこの小惑星から脱出するため、部品を探している。“主機関プラズマコア”と“戦闘補助システム制御基盤”だ」


一瞬の沈黙。やがて――

『……双方ともこの艦にあるが、譲渡が可能なのは"戦闘補助システム制御基盤"のみ、この艦に存在する"主機関プラズマコア"は既に焼け落ちている。また、譲渡には条件がある』


スクリーンに古びた艦内図が投影され、中央区画に赤いマークが点った。

『私はこの艦のAIだが、総員退艦時に置いて行かれ、脱出出来ず数百年を孤独に過ごした。私を救い出し、この軛から解放せよ。そうすれば――“戦闘補助システム制御基盤”を提供しよう』


「つまり……仲間に加わる、ってことか」

貴志の目が細められる。


アスが冷ややかに横目を向ける。

「艦長、未知のAIを受け入れるのは危険です」


「でも……」

エウノミアが珍しく声を強めた。

「彼は数百年も孤独に取り残されていた。私と同じ……いえ、それ以上に。助ける価値はある」


貴志はしばし黙り込み、仲間の顔を順に見た。アスの警戒、フィフの無表情、そしてエウノミアの真剣な瞳。

やがて息を吐き、力強く言った。


「分かった。アケロン、お前を連れ出す。代わりに、制御基盤を譲渡してほしい」


『……契約成立。』


艦橋の照明が一斉に明滅し、アケロンの声が少しだけ柔らかくなった気がした。

『これより、運命を共にする。来訪者……いや、新たな同志よ』


こうして、貴志たちは幽霊のような古戦艦から、数百年を孤独に生きたAI「アケロン」を仲間に迎えることとなった。


【朽ちた戦艦艦橋】

艦橋に漂う空気は重かった。

かすかに生き残った補助機関の低い唸りが、まるで亡霊の呻きのように耳を圧迫する。

貴志たちの前の中枢端末──そこに残っていた戦艦AIアケロンは、青白い残光を走らせながら、重々しい声を響かせた。


> 「……私を、この朽ちた骸から解き放て。そうすれば、『戦闘補助システム制御基盤』を、お前たちに託そう……」


貴志はわずかに息を呑み、それでも即座に判断を下した。

「……分かった。だが転送の過程でお前のデータが損なわれる可能性がある。その覚悟はいいな?」


> 「構わぬ。このまま錆び付いて消えるよりは、未来に役立つことを選ぼう……」


アスはすぐに艦橋の残存システムに接続ポートを展開した。

「リンク用のポートは規格が古すぎる……変換器を介さないと直結できないわ。貴志、私が調整するからサポートをお願い」

彼女の声は冷静だが、額に滲む微細な汗は、この古代艦の不気味さを反映しているようだった。


フィフがそっと貴志の肩に手を置く。

「……何か、嫌な予感がします。アケロンを救うことは良いことですが……この艦自体、まだ何かを隠している気がして……」

彼女の声音は柔らかいが、言葉の奥には確かな警戒があった。


エウノミアは腕を組み、端末に映る光を見つめて鼻を鳴らす。

「臆病になるな。こんな古臭いシステム、私なら一瞬で解析できる。……ただし、もし亡霊めいた罠を仕掛けられていたら、話は別だがな」

虚勢の裏に隠された不安が、かえって張り詰めた空気を強調していた。


【記憶データ転送】

アスがポートを繋ぎ、フィフが古い電源回路を再起動させる。艦橋に散らばるホコリまみれのコンソールが、次々と赤錆色の光を灯した。

「転送を開始するわ……データサイズは膨大。分割して圧縮転送するしかない」


淡い青白い光が艦内を満たし、アケロンの声が途切れ途切れに響く。


> 「……私は……かつて……この宙域の防衛を担い……だが、戦争は終わらず……仲間たちは脱出していき、私だけ取り残された……」


データパケットが流れるたび、幻聴のように艦内に昔の戦闘の残響が響いた。砲撃音、兵士の叫び、警報──それが本当に残留データなのか、あるいはアケロンの「記憶」なのか、誰にも分からなかった。


フィフが小声で呟く。

「……まるで、この艦そのものが苦しんでいるみたい……」


貴志は表情を固くしたまま、アスの肩越しに転送ログを覗く。

「進行状況は?」


「60%……けど、データの一部が強く抵抗してる。削除防止プロトコル……?」

アスの指先が忙しく踊り、赤い警告表示が何度も浮かんでは消えていった。


【戦闘補助システム制御基盤】

同時進行で、エウノミアが制御基盤ユニットの取り外しを行っていた。

彼女の背後に立つ貴志は、照明の届かぬ隔壁の闇を無意識に意識していた。


エウノミアがユニットを外す瞬間、重低音のような軋みが艦全体を震わせた。

「……っ!? 誰かが、この装置を守ろうとしている……?」


腐食した金属の下から、黒いケーブルが触手のように伸び、彼女の手に絡みついた。

「ちっ、抵抗か!」

エウノミアは力任せに引き剥がし、アーク放電が青白く弾ける。


フィフが慌てて補助アームを伸ばして支え、貴志は即座にレーザーを放ってケーブルを焼き切った。

焼け焦げる匂いが漂い、艦内の気配はますます不気味さを増していく。


【転送完了】

アスの声が震えるように響いた。

「……完了。アケロンのデータは……アストラリスに移送できるはず」


その直後、艦橋の光がすべて消えた。

まるで戦艦そのものが、最後の息を吐いたかのように。


静寂。


やがてアスの端末に、新しい音声が響いた。


> 「……こちらは《アケロン》。転送成功。……君たちの中で、私は再び歩み出す」


ホッと胸を撫で下ろすアス。

だが貴志は、なおも艦橋の奥に潜む闇をじっと見つめていた。

この艦が本当に静かに眠りについたのか──それとも、まだ何かが残っているのか。


貴志は仲間たちを見渡し、短く命じた。

「制御基盤は確保。アケロンも転送完了だ……撤収するぞ。長居は無用だ」


艦橋の背後から、かすかな金属の擦れる音がした。

全員が振り返ったが、そこには誰もいなかった。


しかし、その「気配」は、確かにあった。

次話として、朽ちた戦艦の内部にまだ「何か」が潜んでいる様子や、引き続きの探索の様子を描きます。

ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ