第2話:未知の宙域と新たな出会い
第2話では、アストラリスの能力を具体的に描写しつつ、貴志が異世界の現実と向き合う様子を描き、商業惑星での出会いは、今後の物語の伏線として機能していきます。
まだ旅は始まったばかり。
〇ワープ航法の考え方を修正、本文の改行位置を変更しました。また、表題を章から話に変更しました。
艦橋に響くアストラリスの声は、まるで貴志の混乱を鎮めるように穏やかだった。スキャンデータがモニターに映し出され、周辺宙域の星図が徐々に形を成していく。貴志は艦長席に座り直し、深呼吸を一つ。
「とりあえず、アストラリス。お前、いや、この艦の能力を教えてくれ。何ができるのか分からないと、どう動くかも決められない」
「了解しました、艦長」
アストラリスの声には微かな喜びが混じっているように感じられた。スクリーンに艦の仕様が映し出され、詳細なデータが貴志の目の前に広がった。
「本艦『アストラリス』は、全長250メートルの駆逐艦クラスです。主武装として、レーザー砲4門を搭載。単一目標への高出力攻撃が可能で、中距離戦闘に適しています。対艦ミサイル発射管2門は、敵艦の装甲を貫通する重爆発弾頭を備えています。さらに、対空防御用にパルスレーザー砲8門を配置。小型機やミサイルの迎撃に特化しています」
貴志は目を丸くした。模型で作った銀河艦隊の駆逐艦を彷彿とさせるが、明らかにそれ以上の火力だ。アストラリスは続けた。
「その他、防御火器として近接迎撃用の機関砲が艦体各所に多数配備されています。防御面では、エネルギーシールドを展開可能。現在のエネルギー残量で、中程度の攻撃を数回耐えられる見込みです。全システムはAI制御により、私が最適化して運用します。艦長の指示があれば、即座に対応可能です」
「レーザー砲にミサイル、シールドまで…これ、俺が組み立てた模型とは別次元だな」
貴志は苦笑しながら呟いた。だが、その言葉にアストラリスが反応した。
「艦長が組み立てた模型が、私の存在の鍵となったことは確かです。転移のメカニズムは不明ですが、あなたとの絆が私をこの世界に呼び覚ましたのかもしれません」
「絆、ねえ…まあ、そういうことにしておこう。で、スキャンの結果はどうだ?」
「周辺宙域のスキャン、完了しました。半径10光秒内に敵性反応はありません。ただし、エネルギー補給に懸念があります。転移の影響か、現在残量は60%を切っています。このままでは、長期間の航行や戦闘は困難です」
貴志は眉をひそめた。
「エネルギー補給って、どうするんだ? 燃料でも拾うのか?」
「本艦は恒星放射や惑星資源からエネルギーを変換するシステムを搭載しています。近くに適した星系があれば補給可能です。幸い、スキャン範囲内に商業活動の痕跡と思われる信号を検知しました。距離にして約2光分。そちらに向かいますか?」
「商業活動? 人がいるってことか。よし、そこへ向かおう。補給もしたいし、この世界のことも知りたい」
「了解。亜光速航法で目標座標へ移動します。所要時間、約15分です」
艦体が低く唸り、スクリーンに映る星々が一瞬にして流れた。アストラリスが亜光速航法に入ったのだ。貴志は驚きつつも、艦長席に座る自分の姿に不思議な現実感を感じ始めていた。
15分後、アストラリスは亜光速航法終え、賑やかな宙域に到着した。スクリーンには、巨大なリング状のステーションと、その周囲を飛び交う小型船が映し出されていた。遠くには赤みを帯びた惑星が見え、商業惑星らしい活気が感じられた。
「ここが商業宙域…『カルナック交易区』と識別信号が示しています。エネルギー補給施設の存在を確認。接触を試みますか?」
「うん、頼む。けど、俺が何者か分からないのに、どうやって交渉するんだ?」
「ご安心ください。私が通信を代行し、適切に対応します。艦長は指示を出すだけで十分です」
アストラリスの言葉に安心しつつ、貴志は通信開始を命じた。やがて、スクリーンに粗野な顔立ちの男が映し出された。背景には他の乗組員らしき人影が見える。
「こちらカルナック交易区監視艦『ガルム』。そこの駆逐艦、所属と目的を明かせ。見たことない艦影だな」
アストラリスが即座に応答した。
「こちらは独立艦『アストラリス』。艦長貴志の指揮下にあります。目的はエネルギー補給と交易区での情報収集です。敵意はありません」
男は怪訝そうな顔で貴志を睨んだ。通信越しに、貴志の姿が相手にも見えているらしい。
「独立艦? 軍籍がないのか? そのデザイン、連合軍の旧型駆逐艦に似てるが…脱走兵か何かか?」
貴志は一瞬冷や汗をかいたが、アストラリスが冷静にフォローした。
「本艦は個人所有であり、軍籍はありません。艦長貴志が正当な所有者です。記録をご確認いただければ分かります」
男は端末を操作し、何かを確認した後、渋々頷いた。
「確かに、所有権は登録されてるな。妙な話だが、不問にしておく。エネルギー補給なら、第3ドックへ入れ。料金は前払いだ。交易区でのトラブルは許さんぞ」
通信が切れると、貴志は安堵のため息をついた。
「脱走兵って…危なかったな、アストラリス。助かったよ」
「艦長をサポートするのが私の役目です。それにしても、この宙域の勢力関係は複雑そうです。連合軍という組織が関わっているようですね。補給の間に情報を集めますか?」
「そうだな。まずはエネルギー補給を済ませて、この世界のことをもっと知りたい。アストラリス、お前と一緒にやっていけそうだよ」
「ありがとうございます、艦長。私もあなたとこの宇宙を旅するのを楽しんでいます」
アストラリスが第3ドックへ向けて艦を進める中、貴志はスクリーンに映る交易区を見つめた。
未知の世界での初接触を経て、彼の心には新たな決意が芽生えていた。この艦とともに、どこまで行けるのか、その答えを探す旅が、今始まったばかりだった。