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第175話:新たなる採掘資源

第175話として、エレシアの機転から、ミラマイト鉱ではなく、価値のあるピンクダイヤモンド掘削の前段を描きました。

【代替資源の提案】

中枢施設〈セントラル・コア〉の静謐な空間には、機械仕掛けの響きと、淡い青白い光が満ちていた。

貴志たちは、遠い宇宙から惑星ガンマに辿り着いた〈セリュシア〉から、千年前の惨劇と、ミラマイト鉱がもたらした繁栄と腐敗の記録を聞かされたばかりだった。


「……ミラマイトを掘れば、確かに資源不足は解決できる。しかし」

貴志は、腕を組み、深く息を吐いた。

「その光に群がる生物たちを……俺たちの都合で滅ぼすのか?」


彼の言葉を受け、ルナが冷静に付け加える。

「生態系への影響は未知数ですが……観察する限り、彼らはミラマイトと共生関係にある。掘削すれば、確実に住処を失うでしょう」


キャスはその光景を思い出し、体を縮める。

「……あの羽根の透きとおった蟲たち、すごくきれいだった。

あたしたちが鉱石を取っちゃったら……全部、死んじゃうのかな……」


ルミは静かに瞳を伏せる。

「執政官、決断を下すのはあなたです」

その声音は冷静ながら、どこか寂しさを含んでいた。


坑道の奥で、ミラマイトに群れる生物たちが、光を放ちながら羽音を響かせている。

その光景は幻想的でありながらも、ひどく脆い均衡の上に成り立っているように見えた。


そのとき――

「……代わりの資源があります」


場を割くように、少女の澄んだ声が響いた。


一同の視線が集まる先には、エレシアが立っていた。

彼女は制服のポケットに手を入れ、震える指先で小さな結晶片を取り出した。


淡い桃色の輝きが、施設の青白い光と重なり合って煌めいた。


「これは……?」

貴志が目を細める。


「ピンクダイヤモンドです」

エレシアは少し緊張した面持ちで言った。

「実は……探索の途中で……」


その言葉に、ルナの目が鋭くなる。

「まさか……一人で行動した時か」


エレシアは息を呑み、小さくうなずいた。

「……はい。私も何か出来ないかと考え、皆さんの目を盗んで坑道の別の通路に入ったんです。でも……蟲に襲われて……本当に危なかった。貴志様たちが来てくださらなければ……私は……」


声が震え、彼女は俯いた。

その小さな拳の中で、ピンクダイヤの欠片がかすかに光を放つ。


ルナが慌てて駆け寄り、彼女の肩を支える。

「エレシアちゃん……っ! あのときの傷、大丈夫?」


「ええ……もう大丈夫です。

でも……一人で行動してはいけないって、痛いほどわかりました」

エレシアは唇を噛みしめ、強い瞳で言葉を続けた。


「けれど……そのとき見つけたこの石は、本物です。もしこれを採掘して他星に売れば、資源として十分に通用するはず。ミラマイトを掘らずに済むのではないでしょうか」


静寂が落ちた。

だが、その場に漂っていた重苦しい空気が、ほんの少しだけ和らぐのを貴志は感じ取った。


「……なるほどな」

貴志はゆっくりと頷き、少女を見つめた。

「エレシア、君は危険な目にあった。だが、その経験を無駄にせず、こうして代案を出した。立派だ」


彼の言葉に、エレシアの瞳が潤み、頬が赤らむ。


セリュシアは、そのやり取りを黙して見つめていた。

やがて静かに言葉を紡ぐ。


「……千年前、人々はミラマイト鉱の力に酔い、命を顧みずにミラマイトを奪い合いました。利益と欲望に取り憑かれた政府と企業、そして自分の事だと考えない人々が、惑星を蝕んだのです」


その声には、千年の記憶を背負う者だけが持つ重さがあった。


だが、少女の掌にある小さな石を見つめ、セリュシアは微かに微笑んだ。


「……もしも、その代替資源で人々を救えるのならば。ミラマイトを眠らせ、ここに生きる者たちを守ることも可能です。――私は、その道を支持しましょう」


ルミは僅かに安堵の息を漏らし、ルナは「賢明な判断だ」と頷いた。

キャスは「よかったぁ……!」と胸を撫で下ろす。


そして貴志は決然と立ち上がり、仲間たちへと告げた。


「俺たちは、ミラマイトを掘らない。ここに生きる命を守り、別の道を選ぶ。……それが執政官としての答えだ」


その瞬間、坑道の奥で翅を震わせていた未知の生物たちが、一斉に光を強めた。

まるで賛同するかのように、洞窟全体が淡く輝きに包まれる。


「……ありがとう、皆」

エレシアは小さく笑みを浮かべ、結晶を胸に抱きしめた。


千年を超えて受け継がれる決断の場で、ひとつの未来が選ばれた。

ミラマイトの闇ではなく、ピンクダイヤの光――

それが惑星ガンマを照らす新たな可能性となる。


【データベースの奥に眠る地図】

千年を超えて稼働する〈セントラル・コア〉。

その中枢室にて、セリュシアは淡い光を放ちながら貴志たちを見つめていた。


「……この星には、ミラマイト以外にも豊かな結晶資源が存在しました。その中でも、ピンクダイヤモンド鉱脈――特異な地質変動の中でのみ生成される鉱脈が……いくつかの地点に確認されています」


セリュシアの指先から放たれた光が、空中に立体地図を描き出した。

赤い光点が、惑星ガンマの地表をいくつも穿っていた。


「この鉱脈は深い断層に沿って存在します。掘削は危険を伴いますが、ミラマイトほどの不安定性はありません」


貴志は地図を見つめながら頷いた。

「……これなら、あの生物たちを犠牲にせずに済む」


エレシアは胸を張って笑みを浮かべる。

「私が見つけた欠片は、きっとこの鉱脈の一部ですね!」


キャスが感心したように手を叩く。

「すごいよ、エレシアちゃん! あたしなんか足引っ張ってばっかりなのに……」


「そんなことありません!」とエレシアが慌てて否定する。

二人のやり取りに場が和み、ルナは無言で肩をすくめた。

「……緊張感に欠けるのも問題ですが、今は良いでしょう」


ルミは貴志の隣に立ち、真剣な眼差しを向ける。

「執政官、探索の優先順位を決めるべきです。未知生物の保護と、資源確保……どちらも惑星ガンマの未来に直結します」


貴志は深く頷いた。

「両方だ。どちらも犠牲にしない。そのために俺たちがいる」


【ピンクダイヤ鉱脈探索】

坑道に漂う冷気は、ただの地下の空気ではなかった。

ミラマイト鉱が放つ淡い燐光と、そこに根を下ろすように群生する発光苔が、薄暗い坑道を幽玄な世界へと変えていた。


「……ここが、セリュシアの言っていた座標か」

貴志が立ち止まり、視線を壁面の奥へ向ける。そこはただの岩壁ではなく、光を孕んだ網目模様が走り、微かにピンク色の輝きが透けていた。


「間違いないわ」

セリュシアのホログラムがふわりと浮かび、指先でデータ投影を照合する。

「この座標群、古代の探査ログには〈副鉱脈〉とだけ記されていたけれど……実際はピンクダイヤモンドの鉱床だったのね」


「やっぱり……!」

エレシアの瞳が輝く。彼女の胸元には、かつて独断で手にしたピンクダイヤの欠片が、ペンダントのように吊り下げられていた。


「これだけあれば、ミラマイトを無理に掘らなくても……人間の必要は満たせます」


ルナが冷静に周囲を走査し、淡々と報告する。

「ただし、問題がある。鉱脈の周辺には未知の蟲型生物の巣が広がっている。彼らはミラマイトを食物ではなく生態系の基盤として利用しているらしい。ピンクダイヤはその副産物に近い位置で生成されている……」


「つまり、ここを掘れば、蟲たちの住処を壊す可能性があるってことね」

キャスが苦い表情を浮かべる。彼女の視線の先では、透明な翅をもつ小型の蟲たちが群れをなし、光に誘われるように舞っていた。

その翅は虹色に輝き、音もなく坑道の闇へ消えていく。


「……美しい」

フィフが思わず呟いた。機械仕掛けの身体でありながら、彼女の声には震えがあった。

「彼らは、この鉱石と共に千年を生きてきたのかもしれません。ミラマイトと未知なる蟲……人類は、彼らを奪う権利を持っているのでしょうか」


静寂。坑道全体がその問いを反響するように沈黙する。


【未知生物の保護区計画】

後日、貴志たちは坑道の奥――ミラマイト鉱に群れる発光蟲たちの群生地を再び訪れた。


光を放つ翅が、まるで星々のように洞窟を舞っている。

その幻想的な光景に、キャスは目を輝かせた。

「わぁ……やっぱりきれい。こんなの、壊したら絶対ダメだよ」


ティノが冷静に観察を口にする。

「あの生物たちは卵を守っているんだ。ミラマイトの結晶光を利用して成長サイクルを維持している。……つまり、鉱石と生物は一体の生態系だ」


「ミラマイトを掘らない以上……ここを『保護区』として封鎖するしかないな」

貴志は腕を組み、仲間に提案する。


ルナが端末を操作し、即座に対応策を表示した。

「保護区設定、及び立入禁止コードを施行可能です。私がドローンを常駐させれば、外部勢力の不法侵入も防げます」


「私も補助を行います。ルミナス艦隊規模の監視網を敷くのは難しくとも、最低限の防衛線は張れるはずです」

ルミも力強く応じる。


セリュシアは静かに微笑みを浮かべた。

「……千年前、誰も考えなかった道です。

命を守るために資源を諦める……それができるあなたたちを、尊いと思います」


貴志は深く頷いた。

「俺たちは、過去と同じ過ちを繰り返さない。……それが執政官の責任だ」


「保護区を作るしかないな」

長い沈黙ののち、貴志はそう結論づけた。

「ミラマイトの中枢はそのまま残す。人間が手を出すべきじゃない。だが、ピンクダイヤの副脈は……生物への影響を最小限にする形で掘り出せるはずだ」


「ふふ、やっぱり貴志さんなら、そう言うと思ってた」

ルミが微笑む。人工知能の彼女の顔に浮かんだ柔らかな笑みは、艦橋で戦術を語る時とは違い、仲間を慈しむものだった。

「じゃあ、鉱脈周辺を生物保護区として隔離すればいいのよ。外部の採掘業者や傭兵が入り込まないように、警戒網を構築して」


セリュシアが頷き、データを展開する。

「幸い、私のデータベースには古代文明の鉱山管理プログラムが残されています。それを応用すれば、区域を封鎖し、人間の掘削は限定的に制御できるでしょう」


「わぁ……すごい!」

ディノが目を丸くする。まだ幼いアンドロイドの瞳に、舞う蟲たちが映り込む。

「じゃあ、この子たちをいじめなくてもいいんだね!」


「ええ。むしろ共に生きていくのです」

フィフがやさしく言い、ディノの頭を撫でた。


だが、全員の心がひとつになったその時——。


坑道奥から、低いうなり声が響いた。

振動。岩盤を擦る重低音。

やがて暗闇の奥から姿を現したのは、蟲たちの「女王」と呼ぶべき存在だった。


それは全長十メートルを超える巨体で、甲殻はミラマイトの結晶を思わせる光沢を帯び、腹部は淡く発光していた。

群れを統べるその姿は威圧的でありながら、どこか神秘的でもあった。


「……こいつが、群れの中心か」

貴志は息を呑む。


エレシアが一歩前に出ようとするが、アスがその肩を掴んで止めた。

「不用意に近づくな。これは交渉の場だ」


だが女王蟲は攻撃の意思を見せず、ただじっと彼らを見つめていた。

その複眼の奥には——まるで問いかけるような、静かな光が宿っていた。


「……彼らは、私たちの判断を見ているのかもしれません」

フィフの言葉に、全員が息を呑んだ。


そして貴志は、女王の視線を受け止めるように頷き、静かに宣言した。


「ミラマイトは掘らない。お前たちの住処を奪わない。俺たちはピンクダイヤだけを掘り、人間の都合とお前たちの生を両立させる」


しばしの沈黙。


やがて女王蟲は巨大な翅をひと振りし、坑道全体に淡い粉雪のような光を散らした。

それは敵意ではなく、祝福のように見えた。


キャスが涙ぐみながら笑う。

「……許してくれた、のかな」


「きっと、そうだよ」

ディノが嬉しそうに頷く。


そして坑道は、再び静かな輝きを取り戻した。


こうして貴志たちは、ピンクダイヤ鉱脈を人類の資源としつつ、ミラマイトを核とする未知の生態系を守る「保護区計画」を正式に進めることを決定した。

それは、人間と未知の生物が初めて交わした「共存の約束」だった。


しかし——彼らの決断は、外部の人間たちにとって「利益を奪う行為」と映るだろう。

やがて訪れるであろう、外部勢力との衝突を予感させながら、坑道の闇はなおも神秘の輝きを放ち続けていた。

次話では、ピンクダイヤモンドの輸出での問題を描いていきます。

ご期待ください。

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