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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第173話:稼働し続ける施設群

第173話として、貴志達は1000年経た後でも稼働し続ける施設群を発見し、またミラマイト鉱の掘削も行われている様子を目の当たりにし、驚いた様子を描きました。

【眠りから覚める中枢】

貴志達は、この坑道内で生まれ命を繋いでいる生物達やミラマイト鉱の不安定さを目の当たりにし、ミラマイト鉱は自分達だけの物ではないことに気付き始めていた。しかし、この鉱山の全容を解明し、発掘が可能かどうかを見極めなくてはならない使命に駆られ、先に進んでいた。


しばらくすると、坑道の奥から重低音が聞こえ始め、やがて明滅する光と共鳴し始めた。

《ガンマ・ローバー》のライトが届かない暗闇の先に、広大な空間が広がっているのが分かる。


「……これは……」

貴志が思わず呟いた。


坑道を抜けたその先にあったのは、まるで地下都市のような巨大空間だった。

壁も床も岩盤ではなく、厚い金属で覆われ、青白いエネルギーフィールドが揺らめいている。

空間の奥では、巨大な建造物が唸りを上げ、心臓の鼓動に似た規則的な振動を放っていた。


「……先ほどの鼓動のような振動は、聞き間違いではありませんでしたね」

坑道の奥に開けた空間は、まるで地下に造られた都市だった。

壁も床も岩盤ではなく、銀色に光る金属。

その上を、青白いエネルギーシールドが薄い膜のように覆い、崩落や外部衝撃を拒んでいた。


「……信じられない」

アスが震える声を漏らす。

「このエネルギーシールド、少なくとも千年前の惑星規模の爆発を完全に防いだみたい……。莫大なエネルギーを使用しているので、補給がなければ数年しか持たないはずなのに……。誰が補給しているとしか考えられません!」


フィフの表情は険しくも誇らしげだった。

「ここは鉱山の中枢部……発電所、空気循環、医療、飲食、休憩、列車発着場、器材修理工場……そしてアンドロイド修理工場までもが統合された要塞区画です。千年前、最も強固な防御を施された場所」


アスは計器を確認しながら、冷静に分析する。

「シールド稼働率、ほぼ100%……信じられません。爆発に巻き込まれたはずなのに、一切の損傷がないなんて!」


ルナは肩をすくめ、冗談めかして言う。

「まるで千年寝坊して、今起きましたって感じね。ここだけ時間が止まってるみたい」


エレシアは言葉を失い、ただ見上げていた。

「こんな……立派な場所が……まだ残っていたなんて……」

その横顔には、畏怖と感動、そして焦燥の入り混じった複雑な色が宿る。


ティノは目を輝かせて、今も動く機械に手を振った。

「すごい! すごい! 全てが完全に動いているみたいだよ!」


【動き続ける施設】

《ガンマ・ローバー》を広間の外壁近くに停車させ、一行は金属床に降り立った。

そこは湿気や苔に蝕まれた坑道とは別世界。

空気は清浄で、明かりは柔らかく、無人のはずなのに人の気配を感じるほど整っていた。


「……見て!」

ルナが指差す先を、全員が目を見開いて追った。


――鉱山列車だ。


黒光りする車体が、規則正しく荷台を連ね、カタンカタンと軽快な音を立てながら通過していく。

荷台には、掘り出されたミラマイト鉱らしきものが積まれている。

誰も乗っていないのに、まるで千年前から今まで、止まることなく働き続けてきたかのように。


「ありえない……!」

アスは思わず声を上げた。

「動力系統、制御系統……この稼働率で千年維持できるなんて……理論上、不可能です」


フィフは静かに答える。

「ここは、私のマスターであったメイソン様が設計に関わった施設です。『永劫に稼働し、人を守り続ける砦』――それが理念でした。ですが……これほどまでとは」


【それぞれの思い】

貴志は列車を見送りながら、仲間に問う。

「……ここが完全に稼働しているなら、ミラマイト鉱も……残っているのか?」


エレシアの瞳が光った。

「もしそうなら……セレナードの復興は、夢じゃなくなる……!」


だがアスが鋭く釘を刺す。

「同時に、危険も残っているはずです。ここまで完全に維持されているということは、防衛システムや管理AIも生きている可能性が高い」


ルナは腕を組み、皮肉っぽく笑う。

「つまり、千年前の“お留守番さん”が、私たちを歓迎してくれるかどうかってわけね」


フィフは小さく頷き、貴志を見た。

「……警戒を怠ってはなりません。ここは、眠れる宝の山であると同時に、牙を剥く牢獄かもしれません」


ティノだけは無邪気に笑っていた。

「でもでも! ぼくたち、ついに“本丸”に来ちゃったんだよね! 冒険って感じがして、わくわくする!」


【脈打つ闇の正体へ】

再び、重低音が鳴り響く。

ドン……ドン……


その律動に合わせ、床下を走る配管が微かに震え、照明がわずかに明滅する。

空気が循環し、施設全体がまるで「呼吸」をしているかのようだった。


「……行くぞ」

貴志が仲間を見回し、前へ歩み出した。


彼らの視線の先には――

稼働し続ける中枢部の巨大なゲート。

その奥に、この千年の眠りから目覚める“何か”が待っていた。


【稼働する守護者たち】

旧坑道を抜けた先に広がる巨大施設は、まるで時を忘れた都市のようだった。

金属の壁は千年の時を超えて輝きを失わず、巨大な装置は規則正しい律動を響かせて稼働し続けていた。


だがその荘厳な静謐を破ったのは、重い足音だった。


ギィン……ギィン……


「……来ます」

フィフが低く告げる。


暗がりから姿を現したのは、黒銀色の装甲を纏ったアンドロイドの集団だった。

赤いセンサーアイが一斉に光り、統制の取れた動作でこちらに迫る。

銃火器を携え、整然とした陣形。明らかに敵意ではなく――“職務”を果たす姿勢。


「……防衛システムか」

貴志が息を整えた時、フィフが一歩前に出た。


「惑星ガンマ執政官、貴志様の御前だ。警戒を解け!」


その声が金属の壁に反響する。

だがアンドロイドの先頭、指揮官らしき個体は、低い電子音を響かせた。


「――証明を」


貴志は一瞬ためらった。

だがフィフの視線に頷き、腰のポーチから細長い金属製の装置を取り出す。

執政官就任の折に授与された“マスターキー”。

それをアンドロイドのセンサーにタッチした瞬間――


――ギィィン……


重厚な音と共に、アンドロイド達は一斉に動作を止め、次の瞬間、深々と跪いた。


「お帰りなさいませ、執政官閣下」

「我ら、千年の刻を超え、この施設を守護して参りました」

「どうか御指示を――」


あまりの光景に、一行は息を呑むしかなかった。


「……本当に、守り続けていたんだな」

貴志の呟きに、ルナが半ば感嘆、半ば皮肉げに笑った。

「千年も上司の帰りを待ち続けるなんて、忠義深いのか、ただの機械仕掛けの執念か……」


アスは険しい目で彼らを見据えた。

「それだけの忠実さがあるなら、同時に危険も孕んでいる。誤解を招けば――我々は即座に排除されるだろう」


だが指揮官アンドロイドは恭しく身を翻し、無機質な声で告げた。

「まずは御休息を。センター長の私室にてお待ちいただきます」


【センター長室】

案内された部屋は、まるで地上の高級ホテルの一室のようだった。

柔らかな光、整った家具、淹れ立てのように湯気を立てる茶。

外の無骨な坑道とは別世界。


ティノがベッドに飛び込み、歓声を上げた。

「ふっかふかだー! ほんとに千年も経ってるの!?」


エレシアは室内の調度品に指先を滑らせ、感嘆の声を漏らす。

「こんなに綺麗に……維持されて……。きっと、ここで休んでいた鉱夫たちも、安心して眠れたんでしょうね」


だがアスは窓の外――暗い坑道の奥に走る列車を見据え、不安げに眉をひそめていた。

「……あまりに整然としすぎている。誰もいないのに、まるで時間が止まったかのように稼働し続けている」


「執政官閣下」

メイドアンドロイドが恭しく貴志に向き直る。

「この場所の記録を探るべきでしょう。中枢AIが現存するならば、貴志様を正式に“主人”と認めるはずです」


貴志は頷き、茶を一口含んでから静かに言った。

「休息も大事だが……俺たちはここに“眠るもの”を見過ごすわけにはいかない。探索を続けよう」


【修理工場――眠れる者】

翌日。案内に従い、一行は施設内を歩いた。

その中でも特に広大だったのが、アンドロイド修理工場だった。


高い天井から吊るされた無数のクレーン。

壁一面に並ぶ修理ポッド。

その中には無数のアンドロイドが眠るように収められていた。

だが――


「……これは……」

ルナが思わず声を上げた。


一際奥まった場所に、他とは明らかに異なるポッドが鎮座していた。

透明なシールドの向こうには、アンドロイドではない“人型”が横たわっている。

白磁のような肌。長い銀の髪。

呼吸は浅く、だが確かに生きているかのように胸が上下していた。


「アンドロイド……ではない」

アスの声はかすれていた。

「いや、外見は人間だ。だが、この生命反応……通常の人類とは異なる……」


エレシアが目を見開き、震える声を漏らす。

「……千年の眠りを超えて、まだ生きている……?」


ティノはポッドの前に駆け寄り、目を丸くする。

「ねえ、起こしていいの? すっごく綺麗なひとだよ!」


だがルナが手を伸ばすティノを引き戻した。

「馬鹿、触るんじゃない。……ここまで丁寧に保管されてるってことは、相当重要な存在だ。下手に目覚めさせたら、私たちの首が飛ぶ」


その時、指揮官アンドロイドが歩み寄り、機械的に告げた。

「――この者は、“中枢の鍵”」

「執政官閣下の御許しなくして、覚醒は許されません」


貴志は言葉を失い、眠れる人影を見つめた。

その胸の律動は、まるで施設全体の鼓動と同調しているかのようだった。


――千年の時を超え眠る“鍵”。

その存在は、この鉱山の秘密を開くか、それとも新たな災厄を呼び覚ますか。


仲間たちの胸に、重く不穏な予感が宿った。

次話では、アンドロイド工場の中枢で眠り続ける"人"との遭遇を描きます。

ご期待ください。

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