第168話:未知なる生物との戦い
第168話として、未知なる巨大生物達との戦いと、1000年前の映像を見て、ミラマイト鉱について考える様子を描きました。
【外部からの音】
貴志達は、緊急避難所に居場所を確保し、一息つこうとした時、コンテナの外壁に「ドン」と鈍い音が響いた。
続けざまに、何かが這い回るような擦過音が走る。
「……今の音、聞いた?」
ルナが眉を上げ、耳を澄ます。
コンテナの外壁を這う擦過音が、次第に重く、粘りつくように広がっていく。
「何かが……外にいます」
エレシアの声は震えていた。
アスはすでに腰のサイドアームを抜き、冷静に言葉を続ける。
「このコンテナの外壁を叩けるほどの質量……小型の生物ではありませんね」
フィフはすぐに貴志の隣に立ち、真剣な眼差しで告げる。
「貴志様。ここは緊急時の避難場所ではありますが、外部からの攻撃は想定外です。打って出てこのコンテナを守り切る準備を」
ティノは不安げにルミの後ろに隠れた。
「……さっき見たようなおっきいムカデさんだったらどうしよう……」
「泣く前に笑っとけ、ティノ。こっちは頼れる用心棒が揃ってるんだしさ」
ルナが軽口を叩いた瞬間――
外壁に「ドンッ!」とさらに鋭い衝撃音。換気口から砂塵と胞子が吹き込んだ。
「見てください。巨大な生物です!」
アスが即座に立ち上がる。
出入口の明かりに照らされ、外壁を這うのは――鈍い光を帯びた巨大なムカデのような影だった。
ティノが小さく悲鳴を上げ、フィフはすぐに貴志の腕に触れた。
「貴志様。……どうかご指示を」
休息の場が、一瞬にして戦場へと変わろうとしていた。
【異形の襲撃】
コンテナ入り口の外で、青白く光る無数の脚が蠢いていた。
それは鉱山由来の鉱素を宿した、全長十メートル級のムカデ型生物だった。
節ごとに淡く発光し、硬化した甲殻はまるで金属のように輝いている。
「……とても大きいです! あれは、ぜったい普通のムカデじゃないです!」
エレシアが悲鳴をあげ、慌てて護身用の銃を取り出すが、手が震えて安全装置を外せない。
「エレシア様、落ち着いて下さい!照準は私が誘導します!」
アスが即座にエレシアの手を取り、強引に安全装置を外してやる。
「ルナ、ドローン展開! 内部防衛優先だ!」
貴志が叫ぶと同時に、ルナの背後で光が弾け、数機の小型ドローンが飛び立った。
「任せなさい、コンテナを蟲の巣にはさせないわよ!」
【戦闘開始】
出入り口から触角が侵入してきた瞬間。
「ここは……渡しません!」
フィフが咄嗟に貴志の前に立ちふさがり、腕部から伸びるエネルギーブレードを一閃。
閃光と共に、侵入した触角が切断され、焼ける匂いが漂った。
「フィフ……!」
貴志が叫ぶ。
「私は貴志さんの護衛でもあります。夫の安息を乱すものは、誰であろうと斬ります!」
その声には、誇りと愛情が滲んでいた。
だが外からは次々と節足が押し寄せ、コンテナ全体が軋む。
【それぞれの奮闘】
アスはドローンの火力を管制しつつ、ルナに指示を飛ばした。
「ルナ、呼吸を合わせて! 私がレーザーポインターで標的をマーキングする!」
「わ、わかった!」
ルナはドローン隊に指示を出しながら、片手に持ったレーザーガンを、アスの指示に合わせて引き金を引く。
光弾が命中し、ムカデの甲殻に火花を散らした。
「よし、その調子だ! ……悪くないじゃないか」
アスは僅かに笑みを浮かべるが、その視線はちらりとフィフに向かう。
(……あなたに先を取られてばかりではいられない。私も、この人の隣で戦う)
エレシアは震える手で護身銃を握りしめた。
「私も……役に立たなければ!」
補助用の照明弾を発射し、戦場を照らし出す。光が集中することで、ルナのドローンが正確に敵を撃ち抜いていく。
「お嬢ちゃん、やるじゃん!」
ルナが声を上げ、わざと明るい調子で場を盛り上げる。
「ほらティノ、怖がってないで応援の歌でも歌ってよ!」
「う、歌……? えっと……♪」
ティノは小さな声で即興の歌を口ずさみ始めた。幼い声が戦場の緊張をやわらげ、仲間たちに不思議な集中をもたらした。
【決着】
巨大なムカデは入り口から何度も侵入しようとしたが、ルナのドローンが関節部を的確に撃ち抜き、アスとルナの連携射撃がその動きを封じる。
最後に、フィフと貴志が同時に飛び出した。
「貴志様、合わせて!」
「任せろ!」
二人の刃が交差し、発光する頭部を両断。
巨体が断末魔の振動を残し、外に崩れ落ちた。
静寂が訪れる。
【戦いの余韻】
「……ふぅ。未知なる鉱山は何が出るかわかったもんじゃないな」
貴志が額の汗を拭うと、ルナが茶化すように笑った。
「ま、緊急避難所としては、ちょっと外敵要因からの防御が弱すぎるよね」
エレシアは護身銃を抱きしめたまま、へたり込んだ。
「わ、わたし……少しは役に立てましたか……?」
「ええ。エレシア様の援護射撃(照明弾)がなければ、被害は増大した可能性がありました」
アスは真剣な表情で頷き、その後小さく微笑んだ。
フィフは静かに貴志の腕を取った。
「……ご無事で何よりです。私は……貴志の盾で在り続けます」
その言葉に、エレシアは唇を噛み、胸に熱を抱く。
(私も……彼の隣に立ちたい。必ず……!)
ティノは無邪気に笑って言った。
「ねぇ、次はもっとカッコいい歌考えてくるね!」
皆の表情に、疲労と同時に安堵が広がっていった。
しかし――外の暗闇では、まだ別の影が蠢いていた。
鉱山の“守護者”たちは、彼らを決して安易に通さない。
ミラマイト鉱山探索編。
彼らの試練は、まだ始まったばかりだった。
【一時の安堵】
コンテナ外での戦闘を終え、コンテナの重い扉を閉ざした瞬間、全員の肩から力が抜けた。
巨大昆虫の足音や茸の胞子が蠢く音も、外壁の向こうへと遠ざかっていく。
「……ふぅ、これで少しは落ち着けるな」
貴志が額の汗を拭うと、ルナがにやりと笑った。
「ねぇ、次はちゃんと“避難所”として機能してくれるといいんだけど?」
「お前の軽口が聞こえるうちは、大丈夫だろう」
アスは肩をすくめつつも、周囲に冷静な視線を配っていた。
エレシアは乱れた呼吸を整えながらも、胸の奥の焦燥を隠せない。
(……私、結局ほとんど役に立てなかった……)
だが隣に立つ貴志の姿を見て、必ず追いつくと心に誓う。
ティノは椅子の破片を拾い上げ、まるで宝物でも見つけたかのように目を輝かせた。
「ねぇねぇ、これ座れるかな? あっ、折れちゃった!」
その無邪気さに場の緊張が少しほどける。
フィフは一人、壁のパネルを見つめていた。そこに刻まれたかすかな痕跡が、彼女の記憶を揺り起こしていた。
【外部カメラの記録】
「ここ……外部観測カメラの制御端末があります」
フィフは手を差し伸べ、埃を払うようにしてパネルを露わにした。
アスが覗き込む。
「確かに旧式の接続口ですね。……稼働すれば、当時の記録が残っているかもしれません」
「もしかして、1000年前の鉱夫たちの姿が……?」
エレシアが小さく息を呑む。
「見てみようじゃないか」
貴志は頷き、ルナが補助電源を繋げる。
「はいはい、私に任せなさい。千年ぶりに再生する映像とか、ちょっとワクワクするじゃん」
端末が低い音を響かせ、スクリーンが揺らめいた。ノイズの向こうに、やがて鉱山の坑道映像が映し出された。
【労働者達と警報】
映像には、多くの鉱夫たちが汗を流しながら働く姿があった。
ミラマイト鉱の原石は鈍く青白く光り、彼らはそれを掘り出し、運搬し、歌うように掛け声をかけあっている。
「……生きてる……」
キャスが呟いた。彼女にとっては遠い過去のはずなのに、そこに映る人々の笑顔は、現実味を帯びすぎていた。
しかし次の瞬間、警報音が響き渡った。
坑道が赤く明滅し、鉱夫たちが慌てて道具を投げ捨てて避難を始める。
『避難! 全員、避難コンテナへ!』
怒号と悲鳴が交錯する。映像はコンテナの外に設置されたカメラのため、必死に駆け込む鉱夫たちの姿を映していた。
【間に合わぬ人々】
だが、全員が逃げ切れるわけではなかった。
崩れる岩壁の下敷きになる者、噴出する有毒ガスを浴びて倒れ込む者。
最後にカメラの前を駆け抜けようとした若者の姿が、閃光と爆風に呑み込まれ、映像は途切れた。
……静寂。
コンテナ内に残された者たちの胸に、重苦しい沈黙が広がった。
「……っ」
フィフは唇を震わせた。
「……あの時も、私は防災センターにいて、何も出来なかった……」
彼女の目に涙が浮かぶ。
その姿に、エレシアは胸を締め付けられるような思いを抱いた。
(こんなにも深い想いを抱えて……それでも彼女はキシ様の隣に立っている……。私は……?)
アスはただ黙って映像を見つめ、嫉妬とも哀惜ともつかない感情を押し殺していた。
【それぞれの決意】
「フィフ」
貴志が彼女の肩に手を置く。
「きみが生きてここにいて、この記録を俺たちに見せてくれた。それだけで十分だ」
フィフは潤んだ瞳で彼を見つめ、微かに頷いた。
「……はい。今度こそ、この場所を……守り抜きましょう」
ルナは深刻さを軽減するように、わざと明るい声を出した。
「まぁ、あんな爆発の映像を見せられちゃったら、私たちも慎重にならざるを得ないよね。ミラマイト鉱ってやっぱり怖いわ」
ティノが小さく拳を握りしめた。
「……でも、こんな風に人が消えちゃうのは嫌。だから今度は、みんなで守ろうね!」
エレシアも前に出る。
「……はい。私も……もう迷いません。この映像を無駄にはしない。必ず……」
彼女の眼差しには焦燥を超えた強さが宿っていた。
【未来への灯火】
1000年前に途絶えた映像は、決して過去を美化するものではなかった。
そこにあったのは人の営みと、恐怖と、そして絶望。
だが同時に――未来へ繋がる願いの断片でもあった。
貴志は拳を握る。
「……あの人たちの最期を、ただの悲劇で終わらせるわけにはいかない。俺たちの復興は、この記録と共に歩む」
全員が頷いた。
コンテナ内に眠る過去は、これからの道を照らす灯火へと変わっていく。
そして、彼らは再び未知なる鉱山の奥深くへと進む決意を固めた。
次話では、ミラマイト鉱山の奥地に向かって、さらなる探索を継続します。
ご期待ください。




