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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第167話:未知なる生物との遭遇

第167話として、ミラマイト鉱山探索で、未知なる生物と遭遇し、行く手を阻まれる様子を描きました。

【輝く生物達の楽園】

轟音とともに、鋼鉄の巨獣――地底探索車ガンマ・ローバーは荒涼とした大地を進んでいた。

セレナード市から半日、眼前に広がった光景は、まさに歴史に刻まれた忌まわしき傷跡。


直径十数キロに及ぶ巨大クレーター。

その底は黒焦げの岩盤と溶解した鉱石が固まり合い、不規則な丘や谷を形作っていた。

まるで天体衝突の跡のように見えるが、これは1000年前、ミラマイト鉱山の暴走、爆発事故によって生じた人工の傷だった。


「……まるで地獄の口ですね」

フィフが低く呟いた。瞳に浮かぶのは千年前の惨禍。


「でも、意外と……綺麗かも?」

ティノが車窓に張り付き、目を輝かせる。

そこには信じられない光景が広がっていた。


鋼鉄で覆われた巨躯ガンマ・ローバーは、唸るエンジンとともにクレーターの縁を越え、かつて鉱山が存在した地へと降りていった。

1000年前の爆発で抉られたその大地は、まるで隕石衝突の痕跡のよう。岩は溶け、黒曜石のような表面を作り、そこに新たな生命が宿っていた。


「……信じられません。ここは死の地のはずなのに」

車窓越しに外を見つめ、エレシアが吐息を漏らす。


「死の地は、時に楽園へと変わる……。けれど、その楽園は人間にとって必ずしも友好的ではないわ」

フィフは、遠い記憶を噛みしめるように低く呟いた。


【新種の生物たち】

暗黒のはずの鉱山跡地は、奇妙な輝きに満ちていた。

岩肌にびっしりと群生する苔は緑ではなく、淡い青紫の光を放つ。

巨大な茸は人の背丈を越え、傘の裏からは白銀の胞子が雪のように舞い散っていた。


「……生態系が変質していますね。ミラマイト鉱の影響で遺伝子が異常進化したのでしょう」

アスの冷静な声が車内に響く。


クレーターの底には、光る苔の絨毯が広がっていた。青白い光が辺りを照らし、昼間でありながら幻想的な光景を作り出す。

その上を、金属質の羽音を響かせながら飛ぶのは巨大な昆虫。甲殻は鈍く光り、目は宝石のように輝いていた。


さらに奥からは、苔と同化したかのような巨体の茸が群生していた。傘の裏は脈打つように明滅し、胞子を吐き出すたびに周囲の昆虫が吸い寄せられていく。まるで意思を持ち、餌を誘っているかのようだった。


「……生態系の支配者は茸か」

アスが冷ややかに分析を述べる。

「昆虫や獣があれを中心に行動している。ミラマイト鉱の高エネルギー放射が、意思を持つ群体を生み出したのでしょう」


「意思を持つ……茸? やだぁ、食堂に並んだら怖すぎるじゃん」

ルナがわざと肩を竦めると、ティノがきゃはっと笑った。

「でも、ちょっときれいだよ! 傘がランプみたい!」


次の瞬間、岩陰から現れたのは、金属光沢を纏った巨大な甲虫だった。

全長は人間の二倍。外殻は鈍く光り、触角の先端はまるで電気を帯びているかのように青白く輝いていた。


「でっか……! あれ、バッタ? カブトムシ? どっちにしろ貴志さん、飼う?」

ルナが冗談めかすと、

「却下です」即座にアスが冷ややかに返す。


しかし笑いは途切れた。さらに奥からは、背丈三メートルを超える四足獣が現れたのだ。

その姿は狼に似ていたが、毛皮は鉱石のように硬質化し、身体の節々からは赤い輝きが漏れていた。


「……あれは、呼吸と同時に発光している?」

エレシアが思わず声を漏らす。

彼女の胸は高鳴っていた。未知への恐怖と憧れが交錯する。


【探索の難航】

《ガンマ・ローバー》は厚い鋼鉄とセラミックの複合装甲で守られているが、新種生物の存在は予想以上の脅威だった。

虫は車体に群がり、金属を噛もうとする。茸は胞子を撒き散らし、センサーを一時的に妨害する。

地面の苔は踏圧を感知すると収縮し、まるで意思を持って車輪を拘束するように絡みつき、すぐに揺れが襲った。


《ガンマ・ローバー》の車体を何かが叩いた。衝撃音とともにセンサーに反応が走る。

「接触あり! 前方、三時方向!」

ルナが慌てて声を上げる。


そこには、鉱石のような甲皮を纏った巨大獣――狼に似た生物が立ちはだかっていた。

赤い光を漏らす眼孔でローバーを睨みつけ、牙を剥く。その背後にはさらに二体、岩影から姿を現す。


「ちょ、ちょっと待って! あれ、ぜったい食べる気だよね!?」

ルナが慌てて銃を抱えたが、アスが冷静に制止する。

「無闇に発砲すれば、周囲の生態系を刺激します。……艦長、どうなさいますか?」


貴志は短く息を吐き、操縦席でハンドルを握りしめた。

「……撃つな。まずはローバーの装甲を信じて突っ切る」


「貴志様……」

フィフが不安げに見つめる。その視線には、夫人としての愛情と、未知なる生物への恐怖が混じっていた。


「これじゃ、探索どころか前進もままなりませんね」

アスは眉を寄せ、制御盤を叩く。

「艦長、このままでは予定ルートは踏破不可能です」


「いや、まだ進む」

貴志は視線を逸らさず、前方の闇を見据えていた。

「この奥に採掘現場の残骸があるはずだ。……そこを確かめるまでは戻れない」


【心情の交錯】

「貴志様……」

フィフは彼の横顔を見つめ、胸を締め付けられる思いだった。

誇り高き第一夫人として支えたい。だが同時に、この場所が再び彼を奪うのではないかという恐怖に震えていた。


アスは隣で黙々とデータを整理していたが、心は静かに荒れていた。

(……あの人を支えたいのは、私も同じ。けれど……フィフ様の想いに比べたら、私は……)

冷徹を装いながら、視線はほんの一瞬だけ貴志に揺れた。


エレシアはシートを握り締めていた。

焦燥が胸を焼く。彼の婚約者として、ここで役に立ちたい。

だが彼女は戦士でも技術者でもない。

(……私は、ただ見ていることしかできないの?)


ルナは空気を読んで、わざと明るく声を上げた。

「はいはい! 緊張しすぎ~。大丈夫、ローバーちゃんは鋼鉄仕上げ! 多少のガブリじゃ壊れないって!」

次は光る茸のイルミネーション、行ってみよ~!」


「ルナ、それは不謹慎です」アスが鋭くたしなめる。

「いいじゃん。ティノちゃんは笑ってるし」

「うん! キラキラしてて、すっごくきれい!」

「がんばれーローバー! あとちょっとでやっつけるよ!」

ティノが小さな拳を振り上げた。無邪気なその声に、皆の頬が緩み、重苦しい空気がわずかに和らいだ。


【クレーターの奥へ】

やがて群れを振り切り、《ガンマ・ローバー》は次第に深く、クレーターの底へと進んでいった。

周囲の光苔は次第に密度を増し、まるで星空のように地面を照らしていた。

苔はより鮮やかに輝き、茸は森のように林立する。胞子の霧が幻想的な輝きを放ち、空気は重く甘い匂いに満ちていた。

そこは地獄の傷跡であるはずなのに――なぜか楽園のような幻想的な美しさを纏っていた。


「1000年前の地獄が……今は新しい命の楽園に……」

フィフの声は震えていた。


だがその言葉に、アスが低く呟いた

「……ここが、ミラマイト鉱の掘削現場に近い場所」


フィフは声も無く震え、記憶の底から蘇る惨劇が彼女を苛んでいた。


だが貴志は真っ直ぐ前を見据える。

「ここで引き返せば、セレナード市に未来はない。……だからこそ、踏み込む!」


【異形の楽園を抜けて】

《ガンマ・ローバー》は、鈍く光る茸の林を抜け、無数の昆虫の羽音を振り切りながら、ゆっくりと進んでいた。

外では、苔の海が波のようにうねり、胞子の霧が視界を白く染める。時折、岩陰から現れる哺乳類型の異形が牙を剥いたが、鋼鉄の装甲がそれを弾き返す。


「……まるで、進むたびに歓迎されてるみたいね」

ルナが笑いを含ませながら窓外を覗く。


「歓迎じゃない。あれは監視だ」

アスが即座に切り捨てるように言い放った。

「この地の生物たちは、ひとつの意思で繋がっている。まるで“鉱山そのもの”に見張られているかのようだ」


エレシアは小さく身を縮め、両手を胸に当てる。

「……進むほどに息が詰まりますわ。これが、千年前の爆発が生んだ世界なのですね」


そんな中、前方に黒ずんだ直方体の影が浮かび上がった。


【コンテナの発見】

それは岩肌に半ば埋もれるようにして存在していた。高さ三メートル、幅十メートルはある金属の塊。長い年月を経て錆びついてはいたが、その造形は明らかに人工物だった。


フィフは、窓越しにその姿を見た瞬間、表情を変えた。

「……あれは。間違いありません。採掘者用の《緊急避難オアシス》です」


「オアシス?」

ティノが目を輝かせる。


「はい。鉱山事故や有毒ガスの発生に備えて建造された緊急シェルター。酸素供給、食糧備蓄、浄水装置……すべて完備されていました。無事ならば、休憩所として利用できるはずです」


貴志は短く頷いた。探索開始から数時間が経ち、全員の疲労も限界に近づいていた。


「ちょうどいい。しばらく休むか」


【不安の声】

ローバーを降り、コンテナへ近づいたときだった。

ルナが口元に指を当てて、悪戯っぽく囁く。

「ねぇ、まさかだけど……昔の労働者の遺体とか、転がってたりしないよね?」


その一言で、エレシアが小さく悲鳴をあげ、アスもわずかに肩を震わせた。

「ルナ。場を和ませるにしても、選ぶべき言葉があります」

アスが冷たく睨みつける。


「ご、ごめんってば。でも考えたらちょっと怖いじゃん?」

ルナは肩を竦めて笑うが、空気は一層張り詰めた。


フィフが一歩前へ出る。

「……可能性はあります。だからこそ、慎重に行きましょう」

彼女の声音には、過去を知る者の重みがあった。


【コンテナ内部】

重厚な扉を貴志が押し開けると、押し寄せたのは千年分の埃とカビの匂いだった。

「っ……!」

エレシアが顔を覆う。


フィフが壁際のパネルに歩み寄り、指先で埃を払った。

「主電源を入れれば換気が作動します。少々お待ちを」


貴志がライトで照らし、スイッチを探し当てると――コンテナ全体が低く唸り、内部に明かりが灯った。

天井の換気ファンが動き出し、淀んだ空気がゆっくりと流れていく。


中は小さな会議室ほどの広さ。倒れた椅子や割れたテーブルが散乱し、壁にはヒビが走っていたが、崩落は免れていた。

一角には金属製の密封箱が積まれており、その表面には「非常食料」と刻印されていた。


「遺体は……ないみたい」

ルナが肩を撫で下ろす。


アスも息を吐きながら頷いた。

「衝撃で避難する間もなく、消え去ったのかもしれませんね」


【休息と人間模様】

全員で簡単に清掃を済ませ、テーブルの残骸を脇に寄せると、ようやく腰を下ろせる空間が生まれた。

ティノが金属箱を開けようとして手を滑らせ、派手な音を立てた。

「ひゃ、ひゃいっ! ご、ごめんなさい!」


ルナが笑って拍手を送る。

「ドジっ子だね~!」


「うぅ……」

顔を真っ赤にして縮こまるティノ。その姿に、場の緊張がやわらぐ。


フィフはそんな様子を見守りながらも、貴志の隣に静かに腰を下ろした。

「貴志様。……ここで少し休めば、次の探索に耐えられます」

その声音には夫人としての誇りと、共に歩むことへの深い愛情が滲んでいた。


一方でアスは、壁に背を預けながら、視線だけで二人を見つめていた。

(……やはり、第一夫人の立ち位置は揺るがない。だが、私も退くつもりはない。彼の隣に在り続けるために)


エレシアは拳を握りしめ、俯いたまま心の中で呟く。

(私も……いつか、この輪に加われるでしょうか。憧れだけでなく、隣に立つ資格を……!)


ルナはそんな空気を感じ取り、にやりと笑った。

「ねぇ、みんな。せっかく休憩なんだから、もっと肩の力抜こうよ。ここ、意外と合宿所っぽいでしょ?」


その冗談に皆が小さく笑みを浮かべ、場が和んでいった。

次話では、避難所での様子や敵対生物との遭遇を描きます。

ご期待ください。


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