第160話:ロスタム最後の反撃
第160話として、ロスタムは瀕死の状態から決死の反撃を行い、ナーヤ小惑星帯の主星への攻撃を成功させます。
【崩壊の閃光】
要塞のレールガン砲口から解き放たれた閃光は、味方であるはずの海賊艦隊を薙ぎ払い、同時にアグリッパやロスタムの艦体を直撃した。
瞬間、宙域全体が白い閃光に包まれ、爆発と残骸の嵐が広がる。
「……っ、被弾! 艦体が……持たん!」
ブラウン大佐の叫びが、煙に包まれたアグリッパの艦橋に響き渡る。
「主機関損傷……完全停止! 動力喪失!」
ライザー大尉が報告を続ける。
アレス大佐は口元を血に染めながらも、苦く吐き捨てた。
「ウィリアムめ……味方をも巻き込みやがったか……!」
アグリッパは、もはや戦闘どころか自力航行も不可能な状態まで陥っていた。
一方で、同じ光がロスタムも飲み込み、主砲やミサイル発射管が次々に爆散する。
「ぎゃあああああっ! 私の攻撃兵装たちがああああっ!」
ロスが艦橋全域に響く絶叫を上げる。
「うわあああ! 僕の主砲もぉぉぉっ! もう第1主砲しかないじゃん!」
ホニは半泣きしながらも、一時的に故障した第1砲塔を復活させようと飛び跳ねている。
「……報告。第2~第4主砲、全損。ミサイル発射管群、全滅。残存火力は第1主砲のみ。」
ルミは冷静に読み上げる。
「装甲の損傷率、72%。正面からの交戦は不可能です。」
ステラも淡々と付け加える。
キャスは頭を抱えて叫んだ。
「なんで毎回こうなるのよぉぉぉぉぉっ!!!」
ロスが怒鳴り返す。
「海賊の頭領が狂ってるからよ! それに比べたら私の砲撃なんて常識的なもんでしょ!」
「そうだそうだー! ロス姉ぇ最高! 残った第1主砲でドカーンと一発ぶちかませば勝てるって!」
ホニが全力で相槌を打つ。
「やめなさい! 勝手に撃つな! あれ残りの生命線なんだからぁぁぁ!」
キャスが慌てて制止するが、艦内の空気は完全に混沌だった。
【戦場の静寂と焦燥】
要塞主砲の一撃で、海賊艦隊は壊滅。
ナーヤ宙域は一瞬の静寂を取り戻したが、その実態は損傷して行動不可能な艦艇ばかり。
アグリッパ――大破、航行不能。
ロスタム――中破。
残るは、狂気の頭領ウィリアムと、未だ沈黙を破って再装填を続ける要塞砲のみ。
ステラが低く告げる。
「……次弾が発射されれば、我々は終わりです。」
ルミも静かに重ねた。
「猶予は、おそらく5分もありません。」
キャスは胃を押さえながら、呆然とモニターを見つめた。
「ど、どうすれば……私に決められることなんて……」
ロスが鼻息荒く叫ぶ。
「決まってるでしょ! 残った第1主砲で要塞を撃ち抜くのよ!」
「そうだそうだー! 一発逆転! ド派手にドカーン!」
ホニは机を叩いて喜ぶ。
「無茶よ! 当たらなかったら終わりじゃない!」
キャスは叫ぶが、ロスとホニは止まらない。
「当てればいいのよ!」
「当てれば勝ちだよ!」
冷静なルミとステラの声が、混乱に拍車をかけた。
「……しかし、他に有効な選択肢は存在しません。」とルミが言い。
ルミの発言に被せるようにステラは。
「生存確率は低い。だが最善手でもある。」
キャスの視線が泳ぐ。
全員が口々に「撃て」と「撃つな」を叫び、艦橋は騒然とする。
胃が締め付けられる。
でも、時間はもう残されていない――。
【要塞主砲、再装填開始】
「……レールガン、再装填開始」
ルミの無機質な報告が、艦橋を冷たく凍らせた。
ステラも続ける。
「残弾が発射されれば、アグリッパも、そして我々も確実に沈む。残り時間、4分20秒。」
ディスプレイには、赤く点滅する「CHARGING」の文字。
キャスは頭を抱え、胃を押さえたまま艦長席に沈み込んだ。
「……もう無理、絶対無理……。第1主砲だけで要塞に勝てるわけ……」
そんなキャスの目の前に、二つの影が立った。
ロスとホニだ。
ロスは珍しく真剣な声音で言う。
「キャス。あんたに隠してたけど……ホニがこの前やった実験、覚えてる?」
「実験……?」
ホニが胸を張って大声で叫んだ。
「そう! レールガンの砲身にミサイル突っ込んで発射するやつ! ド派手でカッコよかったやつ!」
キャスは口をぱくぱくさせた。
「えっ……そ、それって失敗したはずだけど……本当にできるの……?」
「できる!」
「できるよ!」
ロスとホニが声を揃えた。
ルミが即座に否定する。
「待ってください。その行為は極めて危険です。砲身の耐熱と排圧が計算外となり、最悪の場合、ロスタム自身が――」
「爆発四散!」
ホニが元気よく割り込む。
「でもその代わりに要塞ぶっ壊せるかもしれない! 確率は知らん!」
ロスは腕を組み、鼻で笑った。
「前回の試射で第一要塞にダメージを与えたって海賊側の無線を傍受した。今回も、やれるはずよ。」
ステラは淡々と評価を下した。
「戦術的合理性は皆無。しかし――他に選択肢がないのも事実。」
ルミが眉をひそめるような声で付け加える。
「……成功率は50%未満。」
艦橋に沈黙が落ちた。
全員の視線が、艦長席のキャスに注がれる。
キャスは震える手で額を押さえ、うつむき、そして――叫んだ。
「……分かった! やりなさい! 損害は考えなくていい! 残存主砲を使って、要塞を撃ち抜けぇぇぇぇっ!!!」
【大暴走の始まり】
「イエェェェェイッ!!!」
ホニは椅子から飛び上がり、砲塔制御ルームへ一直線に駆けていく。
「やっぱりこうじゃなきゃね!」
ロスも笑みを浮かべ、ホニの後を追った。
ルミは小さく息をつき、
「……悪夢の再現になるでしょう」とつぶやく。
ステラは一切表情を変えず、
「……だが、最善手ではある」と短く言った。
キャスは椅子に崩れ落ち、胃を押さえたまま呻いた。
「ぜんぜん最善じゃない……絶対に最悪の未来しか見えない……」
【主砲格納区での準備】
ホニがレールガン砲身内に、特殊加工した徹甲ミサイル(出発前に傭兵達からガラクタの中の1つ)を搬入し、スラスターユニットを強引に固定していく。
「わっはっはー! ロス姉ぇ、これで要塞ぶっ壊してやろうぜ!」
「バカ! 方位角と俯角がずれてる! そのまま撃ったら私たちが吹っ飛ぶわ!」
「大丈夫大丈夫! ズレても宇宙は広いから当たるよ!」
「当たるかぁぁぁっ!!!」
二人の声が艦内通信を通じて艦橋にも響いてきた。
キャスは頭を抱え、
「なんで私が許可しちゃったのよぉぉぉぉ……!!!」
と叫ぶしかなかった。
【要塞、ロスタムどちらが速いか】
ディスプレイの赤表示は「CHARGING 85%」へ。
要塞レールガンが、再び光を放とうとしている。
だがロスタムの第1主砲も、異常な唸りを上げ始めた。
本来あり得ない弾薬――ミサイルを詰め込まれたその砲身は、電磁力が増すにつれて、軋み、熱を帯び、まるで悲鳴を上げるようだった。
ロスとホニの声が重なる。
「――発射準備完了ッ!!!」
キャスは歯を食いしばり、最後の命令を下した。
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
――次の瞬間、暴走の一撃が放たれる。
【渾身の一撃】
艦内を裂くような轟音が響き渡った。
レールガン砲身に詰め込まれたミサイルは、通常の手順を踏まぬ即席兵装。
発射時の衝撃は規格外で、ロスタムの船体はぎしぎしと悲鳴を上げ、艦内のパネルがいくつも火花を散らす。
「ひぃっ!? な、なに今の揺れぇぇぇ!」
キャスは艦長席にしがみつき、顔を青ざめさせた。
「これ絶対、発射の衝撃で第1砲塔が壊れてるよね!? 修理費がっ……また上乗せされるぅぅぅ!」
「大丈夫だってば!ほら、最高の一発だ!」
ホニの声は無邪気に弾ける。
「加速完了!弾速は……亜光速ォォォーーッ!!」
「ふふっ……いいぞ。こんなの見たことない……」
ロスは狂気すれすれの熱に浮かされた声でつぶやいた。
「我らがロスタム、まだ戦える!まだ牙を剥ける!」
ルミは艦橋の端で状況を解析し続ける。
「砲身歪み率……95パーセント。砲塔損傷確認。次弾は絶対に撃てないわ」
ステラも淡々と付け加える。
「だが、撃つ必要はない。今の一撃が勝敗を決する」
【着弾】
警告音が鳴り響く。
「敵主砲、発砲炎確認!?」
「……ですが、弾速が……通常のレールガンの弾速ではありません!!」
巨大スクリーンに映し出されたのは、光の矢。
それは小惑星帯を裂き、直線の軌跡を描いて要塞へ迫る。
「ま、待て……あんな無茶な砲撃が……!」
クロウが顔を引きつらせる。
ウィリアムは一瞬呆然とし、次に笑った。
「くっ、はは……!やるじゃないか、小娘艦長!だが――」
言葉の続きを、轟音がかき消した。
ミサイルは隔壁を一瞬で貫通し、爆発は要塞の心臓部――弾薬庫で連鎖。
炎と衝撃が壁をめくり上げ、要塞の鉄骨が花のように散り、構造体そのものが膨張して弾け飛ぶ。
「……っ!クロウ脱出船の用意を。今すぐ脱出だっ!第一、第二夫人、付いてこい。脱出艇に乗船だっ!」
ウィリアムは狂気じみた目で叫ぶ。
「終わりじゃない、俺はまだ死なん……!」
クロウと二人の夫人は、崩壊の中を駆け抜け、かろうじて脱出艇を射出した。
【中枢要塞の破壊】
爆発の光は、艦橋の窓越しに巨大な星の死を思わせた。
「直撃確認……」
ルミの声が冷静に響く。
「第1要塞、完全に沈黙」
ステラも短く告げる。
「勝利は我々のものだ」
「……うそ、うそでしょ……?」
キャスは半ば放心状態。
「わ、私の艦が……あんなことしたの? 本当に……?」
「やったーーーっ!」
ホニの声が跳ね回る。
「ぼくらの砲撃、クリティカルヒット!あれもう跡形ないよ!?まっ、僕の第1砲塔も跡形ないけどねっ!」
「ふふっ……」
ロスは、静かに笑った。
「これで証明された。ロスタムはまだ、戦える艦であり続けるって」
【漂う脱出艇】
爆炎を抜けてしばらく、ロスタムのセンサーが微弱な信号を拾った。
「漂流物を確認。脱出艇と思われます。……生体反応有り。四名」
ルミの解析が告げる。
「回収するのか?」とステラ。
キャスは頭を抱えた。
「回収するに決まってるでしょ……!捕虜として……!あいつら突き出して、修理費の足しにしてやるんだ!」
牽引光で脱出艇を捕らえると、中には憔悴したクロウと、蒼白な第一夫人、震える第二夫人、そして――なおも狂気じみた眼差しを光らせるウィリアムの姿があった。
「……見事だ、小娘艦長」
ウィリアムは檻の中で、不気味に笑う。
「だが、この借りは――いつか必ず返す」
キャスは、彼の言葉を聞きながら、再び胃を押さえた。
「やっぱり……波乱の種を蒔いちゃった気がする……」
【ナーヤ小惑星帯の終焉】
こうしてナーヤ小惑星帯の海賊は、要塞を失い、頭領も捕縛され、完全に降伏した。
しかしキャスの胸には、勝利の余韻よりも、次に訪れるであろう波乱への不安が重くのしかかっていた。
次話として、この宙域を安定させ、英雄として祭り上げられるキャス達を描いていきます。
ご期待ください。




