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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第150話:ルミナス必死の反撃

第150話として、ルミナスは攻撃され続け、危険な状況まで至っていましたが、キャス、ルナ、ステラの機転と負けない気持ちが勝り、辛くも海賊艦の攻撃を凌いだ様子を描きました。

【小惑星帯・宙域《アルクトゥルス縁辺》】

艦橋に響くのは、機器の微かな駆動音と呼吸に似た空調の流れだけだった。

ルミナスは小惑星帯の岩影に潜み、まるで生き物のように身を縮めている。


主機関は5%の出力で辛うじて姿勢を維持。サーマルステルスの制御パネルは暗緑色に点灯し、熱量データはぎりぎり検知限界以下で安定していた。


「……敵、熱源サーチ継続中。推定索敵パターン、定期スキャン間隔8秒」


ルミの声は、普段よりもさらに抑えられたトーンだった。冷静だが、その演算の裏には極限の集中が張り詰めている。


「ふぅー……こっちはあと一歩、小惑星帯への退避が遅れたら終わりって感じだったね!」


ステラは視線をレーダーから外さず、口の端だけで笑った。

軽口に聞こえるが、指先は休まず動き、残存ミサイルの発射制御を逐一チェックしている。


「左舷のミサイル発射管はレッドアラートだし、右舷ミサイル発射管も残弾8発……こんな残数でのミサイルであと2隻も攻撃するなんて、成功率が低くてやりたくないけどね」


キャスは艦長席でモニターを睨みつけていた。

「……まだだ。近づけ……もっと、こっちの間合いまで」

声は低く、唇は固く結ばれている。彼女の中で、恐怖と決意がせめぎ合っていた。


レーダー画面に、2隻の海賊駆逐艦の赤い点がゆっくり接近してくる。


ルミは艦AIながら、緊張で処理速度が一瞬上がったような感覚を覚えた。

敵は小惑星帯の入り口でルミナスの熱源を見失い、慎重に索敵を進めているようだった。


「…まだ気づいてない。もう少し…もう少し…」


ルミはサーマルステルスを維持しつつ、右舷の残存ミサイル発射管を密かに準備。敵が射程内に収まる瞬間を待った。


レーダーの赤い点が、じわじわと近づく。

小惑星帯の密集域、速度を落として接近してくるのは駆逐艦1隻。その後方、やや外側を回るように駆逐艦1隻の反応がちらつく。


「……接近艦、距離950……930……」

ルミが数値を報告するたび、艦橋の空気が濃くなる。


キャスは一度深く息を吸い、言った。

「ルミ、緊急発進時の方位を固定。発射後、岩影を使って左舷側に離脱」


「了解。緊急発進時の軌道、計算完了。成功率……32%」


「高い方よ」


ステラが笑みを浮かべたまま、発射スイッチに指をかける。

その笑みには緊張も、そして奇妙な昂揚も混じっていた。


突然、レーダーに新たな動き。


1隻の駆逐艦が小惑星帯の外縁を回り込み、ルミナスの背後を取ろうとしていた。

またもう1隻は、正面から接近し、挟撃の態勢を整えている。


「……くっ、気付いたか。さすがに手慣れてる!」


キャスは即座に戦術を変更。


背後の駆逐艦を先に叩くため、小惑星の影から一気に加速し、右舷ミサイル発射管を4発発射した。


「ミサイル、発射! 目標、背後駆逐艦のブリッジ!」


4発のミサイルが宙を切り、背後の駆逐艦に迫る。


敵駆逐艦は慌てて対空砲で迎撃を試みるが、2発がブリッジに直撃。


レーダーの赤い点が爆発の光と共に消滅した。


「よし、1隻撃破!」


ルミは小さく叫んだが、喜ぶ暇はなかった。

正面の駆逐艦が反撃に転じ、ミサイルとレーザー砲の斉射がルミナスに迫る。


ルミは操縦桿を倒し、ルミナスを急旋回。

岩石を盾にミサイルを回避するが、敵駆逐艦からのレーザー砲が右舷装甲を直撃。


「右舷装甲損傷、残存率32%!」


警告音が鳴り響く中、キャスは歯を食いしばった。「…まだ、やれる!」


彼女は右舷の対空砲を連射し、敵のミサイルを牽制しながら、小惑星帯の奥深くへ誘い込む作戦に出た。


敵海賊駆逐艦はルミナスの執拗な抵抗に苛立ち、攻撃を激化。

だが、小惑星帯の複雑な地形がキャス達の味方だった。


彼女は岩石の隙間を縫うように進み、敵の射線を巧みに外す。ディスプレイに映る敵艦が一瞬、岩石の陰に隠れた瞬間、ルミは最後の賭けに出ることとした。


【小惑星帯に潜むルミナス】

艦橋の空気は、酸素濃度の数字以上に薄く感じられた。

ルミナスは巨大な岩塊の影に潜み、推進音すら小惑星の金属質な表面に吸い込まれていく。


「……敵海賊駆逐艦、距離1200……速度を落として索敵中」


ルミの声は、普段の落ち着きを保ちながらも、わずかに緊張の色が滲んでいた。彼女は艦の姿勢制御とステルス出力を細かく調整し、熱放射を限界まで抑える。


「思ったより慎重だな」


キャスは艦長席に腰掛け、暗いレーダー画面を睨んだまま低く呟く。

その眼には、単なる恐怖ではなく、じわりと燃える対抗心が宿っている。


「まあ、さっきミサイル艦二隻を一気に沈められたからね。今ごろ、向こうの艦長はかなり神経質になってるはずよ」


ステラは軽く笑ったが、その視線は一瞬たりとも索敵波形から離れない。

指先は発射シーケンスを組み替え、残弾4発のミサイルに最大限の攻撃力。射程距離を短くし、最高速度とする設定を施していた。


敵駆逐艦の赤い点が、じわじわと接近してくる。

小惑星帯の入り組んだ地形のせいで索敵は容易ではないが、距離は確実に縮まっていた。


「……ルミ、左舷四十五度に岩塊。次のスキャンサイクルでそこへ移動できるか?」


キャスの指示に、ルミが即答する。


「可能です。ただし、移動時の慣性熱量が探知されるリスク――およそ16%」


「16%ならやるべきだな」


その判断は、以前のキャスなら口にしなかっただろう。今は違う。生き延びるだけでなく、反撃の機会を奪わないための一手だった。


「移動開始、3秒後」ルミのカウントと同時に、艦体がわずかに震える。

推進音は抑えられ、軌道は岩塊の縁を舐めるように滑らかだった。


ステラが小声で告げる。

「右舷発射管、ロック完了。……射程、もうすぐ」


やがて、敵艦のシルエットが光学カメラにうっすらと映り込む。

無防備に見えるその艦首は、岩影から覗く獣の喉元のようだった。


「……今」


キャスの一言と同時に、ルミナスの右舷から光の槍が走った。

真空を切り裂く残存ミサイル4発、すべてが敵駆逐艦の機関部を目掛けて突進する。


「命中っ!」ステラの声が艦橋に響く。

次の瞬間、駆逐艦の機関部が閃光を放ち、装甲が剥がれ、火花と破片が真空に舞ったが撃沈まで至らなかった。


「ルミ、離脱!」

「了解――推進、最大許容出力!」


ルミナスは岩影から跳ねるように飛び出し、別の小惑星の裏へと身を隠す。背後で、攻撃を受けたが駆逐艦が索敵波を乱射しながら、最大戦速で逃走し始めた。


静寂が戻る。

艦橋には、かすかな振動と三人分の呼吸音だけが残った。


「撃沈まで至らなかったけど。……ミサイルを直撃させられ、敵駆逐艦は逃走を始めたよ!ピンチは一旦は過ぎたと思うな!」


キャスは一息付きながら、独り言のように呟いた。


【試練の航路】

ルミナスは、小惑星帯の影に身を潜め、辛くも海賊駆逐艦の攻撃を撃退することが出来た。


だが、キャス達の前に広がる状況は絶望的だった。


海賊の攻撃で推進力は28%まで低下し、戦闘継続は不可能であり、通常航行もギリギリであった。

装甲はあと一撃で貫かれる瀬戸際。

武装は第1砲塔、左舷ミサイル発射管、左舷対空砲が全滅し、ミサイル残数はゼロ。


ルミは艦橋のディスプレイを見つめ、思わず呟いた。


「…何の罰ゲーム? ルミナスがここまでボロボロになったの、過去に何回あったっけ…?」


彼女の声には、穏やかな性格の裏に隠れた苛立ちと疲労が滲んでいた。

ルミナスのAIとして、どんな危機でも冷静に対処してきたルミだが、今回の試練はあまりにも過酷だった。


キャス達は、ディスプレイに航路図を映し、今後の方針を検討した。


「惑星"グリス=ノード=フロンティア"まで、なんとかたどり着くしかない…。でも、この海賊だらけの宙域を、こんなボロボロのルミナスで抜けるなんて…」


ルミは冷静に状況を分析。

アクティブレーダーの使用を禁止し、無線を封止。パッシブレーダーのみで索敵を行い、小惑星や惑星の影を活用。

さらに、海賊が動きにくい磁気嵐の時間帯を選んで進むことで、遭遇確率を下げる作戦を立てた。


「…これで、遭遇確率は7.8%まで下げられる。後は、ルミナスの耐久力と私達の操艦技術次第…」


だが、損傷したルミナスでの航海は困難を極めた。


推進力の低下で速度が出ず、装甲の損傷で小さな浮遊岩石にも神経を使う。

艦橋は警告音と振動に包まれ、ルミとステラは協力して全処理能力を操艦に注ぎ込み、艦を一歩ずつ前進させていった。


【懐かしい再会】

キャス達の努力で、ルミナスは磁気嵐の時間帯を活用し、小惑星の影を縫うように進んだ。


損傷した艦体は軋み、警告音が絶えないが、ルミとステラの精密な操艦、キャスの補助で、なんとか惑星"グリス=ノード=フロンティア"に近づいていた。


あとわずか——目的地の宙域が見えてきたその瞬間、レーダーに赤い点が映った。


「…海賊艦!?」


ルミが叫び、ディスプレイを拡大。


キャスが艦長席で飛び上がり。


「え、うそ、こんなタイミングで!? ルミナス、もうボロボロなのに!」


とパニックに陥った。


ステラは冷静に反応を分析し、敵艦の識別コードを確認。


すると、彼女の表情が一変した。


「…このコード、ブラック・ファントム!?」


キャスもディスプレイを覗き込み、目を丸くした。


「ブラック・ファントム!? レミア姉さんの艦!? うそ、なんでここに!?」


彼女の声には、驚きと懐かしさが混じっていた。ブラック・ファントムは、キャスが孤児として育った義賊団の旗艦であり、かって彼女を育てたレミアの乗艦だった。

次話おいては、キャスの孤児時代にお世話になった人との再会を描いていきます。

ご期待ください。

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