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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第128話:星を翔ける者たち

第128話として、惑星ガンマでの足止めに焦燥を募らせた貴志が、改、自ら宇宙へと飛び出す決意を固め、「アストラリス」の再奪還と資源調達に向けて旅立つ様子を描きました。

【出発の前】

冷たい灰色のプラットフォームに、久々の星間航行用緊急ポッドが姿を現していた。細身の機体には、ところどころ修復痕と焼け跡。明らかに“本来の旅に適していない”機体だ。


その機体を前に、貴志は腕を組んでいた。


「これで、近隣の貿易惑星まで行けるか……?」


「理論上は可能です。大気圏脱出能力とワープビーコンへの短距離通信、動力安定率は76%。ただし――」

と、冷静に答えるのはアス。白銀のボディスーツを身に纏い、まるで昔の軍服のように直立していた。


「このまま小さな事故でも起これば、全治1年程度ですねっ♪」

ルナが軽やかに言う。ドローン隊のAIとして訓練されている彼女の笑顔には、どこか不穏な冗談も混じっている。


「……でも、行かなきゃなんないんだよな。キャスたちも、いつ戻ってくるか分からねぇ。俺らで道、拓かないと」


貴志の口調には、静かだが強い意志が込められていた。


傍らでは、フィフが緊張した面持ちで彼のスーツを直していた。指先は、いつも以上に丁寧で、どこか震えているようだった。


「マスター……本当に、行かれるのですね」


「心配するなって。警備用アンドロイドもいないし、今の俺は自由だ。お前がくれた時間だ。無駄にしない」


フィフの瞳が潤む。


「……マスターは、必ず戻ってきてください。アストラリスが戻れば、もっと復旧は加速します。セレナード市が、マスターの故郷になりますから……」


彼女は言い切るように、言葉を結んだ。


「任せとけ。資源も艦も、全部連れて帰ってくるさ。そしたら、フィフも……一緒に、街の広場に立とう」


貴志の言葉に、フィフは一瞬硬直し、すぐに赤くなってうつむいた。


その背中に、突然ぎゅっと抱きついてきたのは、ティノだった。


「マスター、いってらっしゃーいっ! がんばって、いっぱい資源もってきてねーっ!」


「お、おう。お土産とかじゃなくて、資源希望か。現実的だな、お前」


「えへへーっ」


ティノの笑顔に、場が一瞬和んだ。


【緊急ポッド内・発進直前】

貴志がシートベルトを締めると、アスが前席で発進チェックを始めていた。

ルナはすでにポッドと同期し、外部センサーと星図データを監視している。


「発進準備完了。ナビゲーション、固定。機体接続、完了……」

アスの声は、どこか誇らしげだった。かつてこの声で、貴志は幾度も命を預けた。


「発進5秒前。4、3……」

「2、1──発進」


振動と共に、緊急ポッドは大気を蹴った。

かつて防災センターの技術者たちが設計した安全機構はまだ生きており、ポッドは見事に上昇し、宇宙空間へと飛び出していく。


画面に広がる、深い宇宙。


そして、遠ざかる惑星ガンマの姿。


貴志はその球体をじっと見つめ、静かに口を開いた。


「──絶対、戻ってくる」


それは、自身への誓いであり。

この惑星で眠っていた“何か”と、“誰か”への約束だった。


【久しぶりの宇宙空間】

星々の海を滑るように、銀色の緊急避難ポッドが宙を進む。

操縦席には貴志、その右手には副操縦席に座るアス。

彼女は普段の凛とした表情を崩さず、視線を冷静に航法ディスプレイへ向けている。


「加速率安定、外部通信ビーコンとの同期完了。次のマーカー、2分後に短距離ワープ圏内です」


「さすがだな……久々の航行でも、変わらないな」


「当たり前です、艦長。私はあなたの補佐ですから」


そう返すアスの声には、控えめながらどこか嬉しさが滲む。


ルナはポッド後方のユーティリティモニター前に立ち、くるくるとドローンを指で回して遊んでいたかと思えば、突然まじめな顔に戻り、淡々と報告を始める。


「このポッドの燃料はあと22時間分。予定通りに貿易惑星『レドライン=オルト』に到着しないと、漂流確定ですねー♪」


「笑顔で言うなって……!」


貴志が思わずツッコむと、ルナは軽く口元に手を当てていたずらっぽく笑う。


「だって、こっちが笑ってないと、みんな焦っちゃうでしょ? 特に、誰かさんが」


アスが静かに咳払いを一つ。

ルナは軽く手を上げて謝るふりだけして、また小さく笑った。


【貿易惑星「レドライン=オルト」へ】

緊急ポッドは無事、銀河通商連盟の管理下にある貿易惑星《レドライン=オルト》の軌道ステーションに到着した。

星々の間に浮かぶこの巨大な宇宙港は、さながら都市そのもので、大小様々な商船・貨物艦・旅客船が出入りし、喧騒と熱気に満ちていた。


「やっぱ、外は活気あるな……ガンマとは全然違う」


貴志が思わず息を漏らす。


「まあ、復旧中の死の惑星よりはねー。お買い物したくなっちゃうくらいだし♪」

とルナがウィンドウショッピング感覚でブースを覗き込んでいた。


だが、アスは隣で淡々と周囲の状況を警戒していた。


「この宇宙港、密輸船や海賊系傭兵の通過率が平均17%。油断は禁物です、艦長!」


「……きみの“楽しい”って単語、今後注意深く聞き取るようにするわ」


そうぼやきながら、貴志たちは宇宙港内の連絡艇に乗り込み、次の目的地、《惑星オルテガ・フロンティア》──アストラリスが改装中のドックがある場所へ向けて旅客船に搭乗した。


【過去を振り返るフィフ】

一方その頃、惑星ガンマ地表では、フィフが中央制御室の端末前に静かに佇んでいた。

大型スクリーンには、貴志の搭乗したポッドの航路と現在位置がリアルタイムで映し出されている。


「……マスター、どうか無事で」


彼女の声はかすれ、長い年月を耐えてきた機械の心がふと緩んだようだった。


そこに、ティノが軽い足取りで駆け寄ってきた。


「ねぇ、フィフお姉ちゃん! さっき、工場の北側で、工具いっぱい見つけたよ! お掃除にもつかえるかもー!」


「ええ……ありがとう、ティノちゃん」


その顔は少しだけ微笑んでいたが、どこか張り詰めたものが残っていた。


それを見ていたアスの残留ホログラムが静かに残されていた言葉を再生する。


> 「“守る”だけが、執政官代理の役目じゃないですよ」


そう言ったアスの声が、フィフの中で反響する。

あの時のメイソンの背中、そして今は貴志の背中。

2度と、失いたくない。


「必ず、帰ってきてください……今度は、私が“あなた”の盾になりますから」

次話では、舞台は賑わう交易惑星《レドライン=オルト》へ。

ご期待ください。

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