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模型から始まる転移  作者: 昆布


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第123話:地獄の朝に目覚めて(前編)

第123話として、強化合宿一日目を、キャスのドジっ娘を入れつつ面白おかしく描きました。

『強化合宿編 一日目』

朝六時。

標高900メートルの山間に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


「起床! 起床だ貴様らァ! 甘ったれた脳ミソを、朝露と硝煙で叩き起こせッ!!」

館内の拡声スピーカーががなり立てる声は、軍の砲兵演習よりも攻撃的だった。


「……ん……ぅう……あと5分……」


キャスは宿の布団に包まれたまま、現実逃避中だった。


前夜、ルミとステラから「せっかくだから参加してみよう」と説得され、渋々ながら“強化合宿コース”に参加することとなったキャスだったが――

目覚ましも無視し、布団の中でうにゃうにゃと寝返りを打っていた。


そこへ、部屋のふすまがバンッと開かれ、その様子を見つめる影がひとつ。

金属製のブーツが畳を踏みしめ、無慈悲に部屋の戸を開け放ち入ってきたのは、全身迷彩服にサングラス姿の女性教官。身の丈2メートル、筋肉の塊のような“ドローネ特級指導官”。銀月亭の名物鬼教官である。


「起床五分オーバー。規定違反」


「目覚まし投下──ッ!」


バシャアアアッ!


彼女が持っていたのは、傭兵訓練施設伝統の目覚まし道具、氷水入りのスチールバケツがキャスの顔に直撃した。


「ひやっ!? ひゃっひゃあああああああああぁぁぁぁ!?!」


キャスの断末魔が、山間の朝靄を切り裂いた。


【傭兵の山岳走破訓練】

冷水で目覚めさせられたキャスは、着替える間もなくジャージ姿でびしょ濡れの髪を無理やり束ね、訓練用のジャージを前後逆に着たまま、靴紐も結びきれずにバタバタと列に合流した。

ルミとステラは、既にランニングウェア姿で宿の前に整列していた。全身に無駄のない筋肉を蓄えた傭兵たちが並び、隊列は50人を超えていた。


「キャス、遅い」

「訓練開始まであと27秒です」


「ちょっ、ちょっと! え、え、もう始まるの!? 何キロ走るの!? どこ行くの!?」


「は、はぁ!? ちょっとまって、起きてからまだ五分も経ってないんですけどぉ……!!?」


「本日、傭兵強化プログラム第1課程。未舗装山道8キロ、獲得標高500メートル」

「ルートC。ルミは3番隊、ステラは8番隊、キャスは──」


「──キャスは15番隊、補欠!」


「補欠ってなにぃぃぃ!? 人間扱いされてな──うわっ!?」


ドローネ教官の掛け声が響く。


「スタートォォ!!」


ドローネ教官の号令と共に、周囲の傭兵たちは一斉にスタート。

まるで山を切り裂くような迫力で傭兵たちは一斉に地面を蹴り、爆発的な加速で山道に飛び出し、一斉に足音が響いた。


「キャス、走行開始」

ルミが滑らかに動き出し、リズミカルに山道を駆け上がる。


「……ついてこれるなら、ね」

ステラは淡く笑いながらも、直後に岩の間を跳躍して見えなくなった。


ルミは無表情でダッシュを開始。動きは滑らかで、左右の枝や岩を的確に避けていく。


「ちょっ、待ってっ! あぁああ……ぐっ、く、苦しいぃ……脚が、重っ……! 足も攣りそうだし、ていうか道の説明なかったよねぇぇぇ!?」


ずるっ。


ドシャア!


「いったああああ!? 足挫いた!? 骨折れた!? いや捻っただけ!? ってルミぃぃぃ、待ってええぇぇ!!」


キャスは後ろからよたよたと追いかけるが、10分後には完全に隊列から取り残されていた。


ルミは振り返らず、冷静にキャスの位置と速度をデータとして把握していた。


「キャス、平均傭兵値より出力40%ダウン。強化食事プラン再検討の必要があります。タンパク質不足?」


「違うからっ! 私は温泉に来たのぉ!! あったかい湯に浸かるためにぃぃっ!」


【頂上でのインターバル】

約一時間後、山頂に設けられた休憩所にて。


「キャス、遅延。目標時間の232%オーバー」

ルミが無感情に報告する横で、ステラはペットボトルの水を口に含みながら、眉をひそめる。


「その調子じゃ、午後からの射撃訓練で倒れるわね」


「ふぁっ……ひっ、ひぃっ……わたし、観光に来たんだよぉ……温泉でゴロゴロして、アイス食べて……ごろ寝してぇぇ……!」


キャスは地面に大の字になって、もはや人間ではなくただの溶けたスライムのようだった。


だが、ルミがきっぱり言う。


「訓練は、継続されます。参加者の希望と無関係に」


【対人模擬戦訓練】

午後になると、山から帰還したキャスはへとへとのまま訓練場へ。


「次、模擬戦。1対1、5分間。対象、AI訓練兵──ルミナス・ルミ」

「えぇっ!? ルミって、私と戦うの!?」


「はい。訓練モードで3割出力に抑えますので、ご安心ください」


「そういう問題じゃないっ!」


開始の合図と同時に、ルミは無駄のない動きで踏み込んできた。指先一つでキャスの木剣を捌き、あっという間に腕を極めて床に転がす。


「……これが、訓練なんだよね……訓練なんだよね……」

キャスは魂が抜けた目でつぶやいた。


続いてステラとの訓練。こちらはさらに非情だった。


「戦場では“優しさ”が死を招く。覚悟しなさい、キャス」


ステラの一撃は風を裂き、木刀がキャスの脇腹を寸止めで叩く。


「はわああぁあっ!? おなかにくるうううぅ!?」


「……未熟。だが根性は見えたわね」

「(どのへんで……!?)」キャスは心の中で全力でツッコミを入れた。


【筋肉痛と温泉と反省会】

夕食後、ようやく温泉タイムが訪れた。

合宿所の温泉には、硫黄の香りと湯気が立ち込めていた。


キャス、ルミ、ステラの三人は硫黄の香り漂う露天風呂に、三人は肩までゆったりと浸かりながら、しばし無言のまま時を過ごしていた。


「……ふぅ……」


「……ふふ、やっと“温泉旅館”らしいこと、できたね」

ステラは小さく笑った。


「まぁ……全部が無駄じゃなかった……かも?」

キャスは頬を赤らめながら、どこか達成感のある表情を浮かべた。だがすぐに肩を落とす。


「……思ったより……達成感あるかも」

キャスがぽつりとつぶやいた。


「運動負荷は計測上、昨日比172%。骨密度と筋力に若干の上昇傾向が見られます」

ルミはそう冷静に告げつつ、目を細める。


「キャスは鈍くさいけど、底力はあるわ。……まぁ、あと4日もつかは知らないけど」


「ひどいなぁ……! でも、なんか……ちょっとだけ、傭兵っぽくなれてきたかも」


「でも明日も、朝から山ダッシュでしょ……? お風呂で癒やしても、また地獄に逆戻りって……」


「や、やっぱり無理ィィィィ!!」


彼女の叫びはまたも、温泉地にこだました。

なんとか一日目をこなし、温泉でのんびりする様子を描きました。

引き続き、強化合宿二日目を描いていきます。

ご期待ください。

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